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噂のご令息と対面です
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それから十日後。王都にある我が家のタウンハウスに、お父様がリートミュラー辺境伯ご夫妻とご子息を招待しました。
辺境伯家は王都から馬車で半月はかかりますが、リートミュラー辺境伯家は移転魔術をお使いになれたようです。魔力が強い一族は、移転魔術の魔法陣を要所に設けているのが常ですが、使うには膨大な魔力が必要で誰でも使える訳ではないのですよね。そういう意味ではやはり、リートミュラー家との縁談は捨てがたいですわ。
「初めまして、リートミュラー辺境伯を賜っておりますラルドと申します。こちらが妻のイザベル、そしてこちらが次男のウィルバートにございます」
挨拶をされたリートミュラー辺境伯は、茶色の髪を短く揃え、生真面目そうで噂通りの方のようですわね。魔獣退治にも自ら出られると伺っていますが、まさに鍛えられた騎士という感じです。
奥様は色白でぽっちゃりしていて、何と言いますか…ころころした印象がお可愛らしく、年齢よりも若く見えます。柔らかそうな金色の髪に緑色の綺麗な瞳が印象的です。
そして…そのお二人の後ろに立つご令息は、頭一つ分お二人よりも抜き出ていますわ。金色の髪を無造作に結び、前髪が長くて顔がよく見えません。服も襟の高い長袖の服をきっちりと着て、何だか窮屈そうにも見えます。そして、確かに母君に似て色白ですわね。
でも…背が高いのでこれだと白豚というよりも白熊でしょうか。確かに太ってはいますが背も高いので、改めて見るとそこまで酷いとは思えませんわ。
それよりも気になるのは、その身に掛けられた複雑な術式です。魔術に使う文字は普段使っている言語ですが、彼のそれはリューネルト古代文字の物もあるので気になりますわ。
「急な呼び出しを受けて下さって感謝する。ゲルスター公爵ロドルフだ。こちらは妻のフリーダ、そして娘のアルーシャだ」
「アルーシャ=ゲルスターでございます。東の要として誉れ高きリートミュラー辺境伯家の皆様にお会い出来て光栄です」
王妃様よりも美しいと褒められたカーテシーを披露しましたが…相手からの返事がございませんわ。この場合、ウィルバート様からも同様に挨拶があるものですが…
「…これ、ウィル、ちゃんと挨拶をせんか」
慌てたように辺境伯様がウィルバート様を肘で突くと、ウィルバート様は一言、「…ウィルバートです」とだけお答えになり、私達は笑みが引き攣りそうになりました。う~ん、これは…あまり期待出来そうにありませんわね。
その後、サロンに場を移動して歓談となる筈でしたが…肝心のウィルバート様が殆どお話になりません。お父様や辺境伯ご夫妻が話を振りますが、「はい」か「いいえ」という一文字で会話が終わってしまいます。これは…意思疎通に問題あり、でしょうか…
これまでにウィルバート様についてわかっている事といえば…年が私よりも三歳上である事、マイヤー侯爵令嬢と婚約していた事、魔力量が多い事、魔術の研究にしか興味を示さない事、学園での成績は非常に良かった事、くらいでしょうか…あまり外には出られないのでご本人の事でわかる事は少ないのですよね。
しかしこれでは、人となりを知る事も出来ませんわね。となれば…仕方ありません。
「リートミュラー令息様、ちょっと見て頂きたいものがございますの。少しよろしいかしら?」
私がそう声をかけると、辺境伯ご夫妻が焦りを滲ませた気まずそうな表情を浮かべられました。ええ、お気持ちはわかりますわ。私だって息子がこんな態度だったら滝汗ものでしょうから。
そして当のウィルバート様はというと…前髪と眼鏡で目が見えませんし、表情にも変化はありませんが…警戒しているご様子ですわね。まぁ、初対面で見て欲しいものがあると言われたら、警戒するのも仕方ありませんが。
さすがに会話が続かない事を危惧した両親と辺境伯ご夫妻は、それなら…と私の後押しをして下さいました。私は侍女二人を伴って、とある部屋へウィルバート様を案内しました。そこは我が家の母屋から離れた小さめの建物で、厳重な結界魔術が展開されている我が家の中でもひときわ警備が厳しい場所でもあります。
「これは…」
何かを感じとったらしいウィルバート様が、初めて「はい」と「いいえ」意外の言葉を発しました。どうやら私の読みは当たったようですわね。
辺境伯家は王都から馬車で半月はかかりますが、リートミュラー辺境伯家は移転魔術をお使いになれたようです。魔力が強い一族は、移転魔術の魔法陣を要所に設けているのが常ですが、使うには膨大な魔力が必要で誰でも使える訳ではないのですよね。そういう意味ではやはり、リートミュラー家との縁談は捨てがたいですわ。
「初めまして、リートミュラー辺境伯を賜っておりますラルドと申します。こちらが妻のイザベル、そしてこちらが次男のウィルバートにございます」
挨拶をされたリートミュラー辺境伯は、茶色の髪を短く揃え、生真面目そうで噂通りの方のようですわね。魔獣退治にも自ら出られると伺っていますが、まさに鍛えられた騎士という感じです。
奥様は色白でぽっちゃりしていて、何と言いますか…ころころした印象がお可愛らしく、年齢よりも若く見えます。柔らかそうな金色の髪に緑色の綺麗な瞳が印象的です。
そして…そのお二人の後ろに立つご令息は、頭一つ分お二人よりも抜き出ていますわ。金色の髪を無造作に結び、前髪が長くて顔がよく見えません。服も襟の高い長袖の服をきっちりと着て、何だか窮屈そうにも見えます。そして、確かに母君に似て色白ですわね。
でも…背が高いのでこれだと白豚というよりも白熊でしょうか。確かに太ってはいますが背も高いので、改めて見るとそこまで酷いとは思えませんわ。
それよりも気になるのは、その身に掛けられた複雑な術式です。魔術に使う文字は普段使っている言語ですが、彼のそれはリューネルト古代文字の物もあるので気になりますわ。
「急な呼び出しを受けて下さって感謝する。ゲルスター公爵ロドルフだ。こちらは妻のフリーダ、そして娘のアルーシャだ」
「アルーシャ=ゲルスターでございます。東の要として誉れ高きリートミュラー辺境伯家の皆様にお会い出来て光栄です」
王妃様よりも美しいと褒められたカーテシーを披露しましたが…相手からの返事がございませんわ。この場合、ウィルバート様からも同様に挨拶があるものですが…
「…これ、ウィル、ちゃんと挨拶をせんか」
慌てたように辺境伯様がウィルバート様を肘で突くと、ウィルバート様は一言、「…ウィルバートです」とだけお答えになり、私達は笑みが引き攣りそうになりました。う~ん、これは…あまり期待出来そうにありませんわね。
その後、サロンに場を移動して歓談となる筈でしたが…肝心のウィルバート様が殆どお話になりません。お父様や辺境伯ご夫妻が話を振りますが、「はい」か「いいえ」という一文字で会話が終わってしまいます。これは…意思疎通に問題あり、でしょうか…
これまでにウィルバート様についてわかっている事といえば…年が私よりも三歳上である事、マイヤー侯爵令嬢と婚約していた事、魔力量が多い事、魔術の研究にしか興味を示さない事、学園での成績は非常に良かった事、くらいでしょうか…あまり外には出られないのでご本人の事でわかる事は少ないのですよね。
しかしこれでは、人となりを知る事も出来ませんわね。となれば…仕方ありません。
「リートミュラー令息様、ちょっと見て頂きたいものがございますの。少しよろしいかしら?」
私がそう声をかけると、辺境伯ご夫妻が焦りを滲ませた気まずそうな表情を浮かべられました。ええ、お気持ちはわかりますわ。私だって息子がこんな態度だったら滝汗ものでしょうから。
そして当のウィルバート様はというと…前髪と眼鏡で目が見えませんし、表情にも変化はありませんが…警戒しているご様子ですわね。まぁ、初対面で見て欲しいものがあると言われたら、警戒するのも仕方ありませんが。
さすがに会話が続かない事を危惧した両親と辺境伯ご夫妻は、それなら…と私の後押しをして下さいました。私は侍女二人を伴って、とある部屋へウィルバート様を案内しました。そこは我が家の母屋から離れた小さめの建物で、厳重な結界魔術が展開されている我が家の中でもひときわ警備が厳しい場所でもあります。
「これは…」
何かを感じとったらしいウィルバート様が、初めて「はい」と「いいえ」意外の言葉を発しました。どうやら私の読みは当たったようですわね。
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