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親友が婚約破棄されると言った
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「アリーセ様。私、近いうちに婚約破棄されますわ」
親友から他人事のようにそう告げられた言葉に、私は暫くの間、ティーカップを手にしたまま固まった。
私はアリーセ。このアンゼル王国の国王を父に、正妃を母に持つ第一王女だ。王族同士の間に生まれた私は、王族特有の青みがかった銀髪と、金色と紫色の瞳を持つ。左右の瞳の色が違うのはアンゼル王国の王族の特徴だ。
そして目の前で爆弾発言を投下したのは、親友のレオノーラ=エーデルマン公爵令嬢だ。艶やかな金髪と金色と空色の瞳を持つ、我が国でも五本の指に入ると言われている美女だったりする。
私たちは今、王族専用の庭で、久しぶりにゆっくりとお茶と会話を楽しんでいた。お互いに忙しく、最近は会うこともままならなかったのだが、とある理由があって時間が空き、だったらお茶でもと私が誘ったのだ。そして、そこに落とされたのが、先ほどの爆弾発言だった。
「婚約、破棄?」
「ええ。ディアーク様がそう仰っているそうですわ」
「ディアークが……」
ディアークは国王陛下と側妃の間に生まれた第一王子で、私の異母弟だ。私やレオノーラの一つ下で、現在十八歳。一月後には学園の卒業式を、卒業から半年後にはレオノーラとの婚姻を控えている。
(今頃になって、婚約破棄……?)
ようやく固まっていた思考が動き出したが、全く喜べなかった。何故ならこの婚姻は、ディアークが王太子として認められる条件だったからだ。
我が国の国王には二人の妃がいる。
先々代国王の弟で我が国の五大公爵家の一翼を担うリーベルト公爵と、王族出身の祖母の間に生まれた、正妃でもある私の母。
そしてもう一人がミュンター伯爵家出身の、ディアークの母でもある側妃。ミュンター伯爵家は王家との血縁関係はなく、それなりに裕福ではあるけれど突出した何かがあるわけでもない、いたって普通の伯爵家だ。
血統的には私の方が上だけど、側妃腹のディアークが王太子に内定したのは、男子を王にという声が強かったためだ。我が国は女性でも王位や爵位を継げるが、そのような国はまだ少数派だし、我が国でも女王は緊急時の繋ぎ的な感覚だった。例えば王になるべき男児が幼児で、王の務めを果たせないという場合だ。
一方で私が王位に就くべきだという声も弱少なくなかった。私の母の実家の公爵家の発言力は、他の公爵家よりも強い。更には学園での成績や、公務の実績もその声を後押しする要因だった。私は騎士団にも所属していて、隣国との小競り合いに参加した事が何度もある。ディアークは一度も従軍した事がなかったから、辺境では私を支持する声が強かったのだ。
だからこそ、レオノーラとの婚約だったのだ。レオノーラの才覚とエーデルマン公爵家の後ろ盾。王家の血を引くエーデルマン公爵と、隣国ギューデンの王族の母を持つ彼女は、王家にも引けを取らない血統の持ち主だった。ディアークの即位に異を唱えていた者たちも、彼女とエーデルマン公爵家が付くのなら、と支持する方にまわったのだ。
「婚約破棄なんかしたら、最初からディアークを支持していた者たちまで離れてしまうだろう。何を考えているのだ、あれは……」
驚きを通り越して呆れしかない。一月後に学園を卒業すれば成人として遇され、小さな発言にも責任を負う立場になる。馬鹿なことを言えばあっという間に王太子の内定は保留どころか取り消しだ。本人は王位に就く気でいる筈なのに、どういうことなのか……
「私にもディアーク様のお考えは分かりませんわ。でも、『真実の愛』を見つけられたのだと、そう伺っていますわ」
「……真実の愛、ね」
その言葉に、私も苦笑するしかなかった。確かにディアークは一年ほど前から、とある女子生徒と懇意にしていることは私たちの耳にも入っていた。周囲は本当の愛情で結ばれた真実の愛だと二人の仲を称賛し、一方でレオノーラのことは家の権力を使って無理やり婚約したと吹聴しているらしい。
「ミリセント=ゲーベル伯爵令嬢、か」
それが今、学園でディアークの真実の恋人ともてはやされている令嬢の名前だった。会ったことはないが、ふわふわした栗色の髪と薄紅色の瞳を持つ可憐な美少女だという。年はディアークより一学年下で伯爵家の長女だが、貴族の令嬢らしからぬ気さくで朗らかな性格が人気らしい。男子限定だが。
彼女は多くの令息との親交を深めていて、そのせいで令息たちの婚約者が蔑ろにされ、これまでに婚約解消に至った事案も起きていた。婚約は家同士を強固に繋ぐ重大な契約だ。それを軽んじては家同士の不和に繋がり、一歩間違えれば政情不安にもなり得る。王家としても看過出来ない類いのものだった。
親友から他人事のようにそう告げられた言葉に、私は暫くの間、ティーカップを手にしたまま固まった。
私はアリーセ。このアンゼル王国の国王を父に、正妃を母に持つ第一王女だ。王族同士の間に生まれた私は、王族特有の青みがかった銀髪と、金色と紫色の瞳を持つ。左右の瞳の色が違うのはアンゼル王国の王族の特徴だ。
そして目の前で爆弾発言を投下したのは、親友のレオノーラ=エーデルマン公爵令嬢だ。艶やかな金髪と金色と空色の瞳を持つ、我が国でも五本の指に入ると言われている美女だったりする。
私たちは今、王族専用の庭で、久しぶりにゆっくりとお茶と会話を楽しんでいた。お互いに忙しく、最近は会うこともままならなかったのだが、とある理由があって時間が空き、だったらお茶でもと私が誘ったのだ。そして、そこに落とされたのが、先ほどの爆弾発言だった。
「婚約、破棄?」
「ええ。ディアーク様がそう仰っているそうですわ」
「ディアークが……」
ディアークは国王陛下と側妃の間に生まれた第一王子で、私の異母弟だ。私やレオノーラの一つ下で、現在十八歳。一月後には学園の卒業式を、卒業から半年後にはレオノーラとの婚姻を控えている。
(今頃になって、婚約破棄……?)
ようやく固まっていた思考が動き出したが、全く喜べなかった。何故ならこの婚姻は、ディアークが王太子として認められる条件だったからだ。
我が国の国王には二人の妃がいる。
先々代国王の弟で我が国の五大公爵家の一翼を担うリーベルト公爵と、王族出身の祖母の間に生まれた、正妃でもある私の母。
そしてもう一人がミュンター伯爵家出身の、ディアークの母でもある側妃。ミュンター伯爵家は王家との血縁関係はなく、それなりに裕福ではあるけれど突出した何かがあるわけでもない、いたって普通の伯爵家だ。
血統的には私の方が上だけど、側妃腹のディアークが王太子に内定したのは、男子を王にという声が強かったためだ。我が国は女性でも王位や爵位を継げるが、そのような国はまだ少数派だし、我が国でも女王は緊急時の繋ぎ的な感覚だった。例えば王になるべき男児が幼児で、王の務めを果たせないという場合だ。
一方で私が王位に就くべきだという声も弱少なくなかった。私の母の実家の公爵家の発言力は、他の公爵家よりも強い。更には学園での成績や、公務の実績もその声を後押しする要因だった。私は騎士団にも所属していて、隣国との小競り合いに参加した事が何度もある。ディアークは一度も従軍した事がなかったから、辺境では私を支持する声が強かったのだ。
だからこそ、レオノーラとの婚約だったのだ。レオノーラの才覚とエーデルマン公爵家の後ろ盾。王家の血を引くエーデルマン公爵と、隣国ギューデンの王族の母を持つ彼女は、王家にも引けを取らない血統の持ち主だった。ディアークの即位に異を唱えていた者たちも、彼女とエーデルマン公爵家が付くのなら、と支持する方にまわったのだ。
「婚約破棄なんかしたら、最初からディアークを支持していた者たちまで離れてしまうだろう。何を考えているのだ、あれは……」
驚きを通り越して呆れしかない。一月後に学園を卒業すれば成人として遇され、小さな発言にも責任を負う立場になる。馬鹿なことを言えばあっという間に王太子の内定は保留どころか取り消しだ。本人は王位に就く気でいる筈なのに、どういうことなのか……
「私にもディアーク様のお考えは分かりませんわ。でも、『真実の愛』を見つけられたのだと、そう伺っていますわ」
「……真実の愛、ね」
その言葉に、私も苦笑するしかなかった。確かにディアークは一年ほど前から、とある女子生徒と懇意にしていることは私たちの耳にも入っていた。周囲は本当の愛情で結ばれた真実の愛だと二人の仲を称賛し、一方でレオノーラのことは家の権力を使って無理やり婚約したと吹聴しているらしい。
「ミリセント=ゲーベル伯爵令嬢、か」
それが今、学園でディアークの真実の恋人ともてはやされている令嬢の名前だった。会ったことはないが、ふわふわした栗色の髪と薄紅色の瞳を持つ可憐な美少女だという。年はディアークより一学年下で伯爵家の長女だが、貴族の令嬢らしからぬ気さくで朗らかな性格が人気らしい。男子限定だが。
彼女は多くの令息との親交を深めていて、そのせいで令息たちの婚約者が蔑ろにされ、これまでに婚約解消に至った事案も起きていた。婚約は家同士を強固に繋ぐ重大な契約だ。それを軽んじては家同士の不和に繋がり、一歩間違えれば政情不安にもなり得る。王家としても看過出来ない類いのものだった。
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