【完結】婚約破棄してやると言われたので迎え撃つことにした

灰銀猫

文字の大きさ
1 / 34

親友が婚約破棄されると言った

しおりを挟む
「アリーセ様。私、近いうちに婚約破棄されますわ」

 親友から他人事のようにそう告げられた言葉に、私は暫くの間、ティーカップを手にしたまま固まった。

 私はアリーセ。このアンゼル王国の国王を父に、正妃を母に持つ第一王女だ。王族同士の間に生まれた私は、王族特有の青みがかった銀髪と、金色と紫色の瞳を持つ。左右の瞳の色が違うのはアンゼル王国の王族の特徴だ。

 そして目の前で爆弾発言を投下したのは、親友のレオノーラ=エーデルマン公爵令嬢だ。艶やかな金髪と金色と空色の瞳を持つ、我が国でも五本の指に入ると言われている美女だったりする。

 私たちは今、王族専用の庭で、久しぶりにゆっくりとお茶と会話を楽しんでいた。お互いに忙しく、最近は会うこともままならなかったのだが、とある理由があって時間が空き、だったらお茶でもと私が誘ったのだ。そして、そこに落とされたのが、先ほどの爆弾発言だった。

「婚約、破棄?」
「ええ。ディアーク様がそう仰っているそうですわ」
「ディアークが……」

 ディアークは国王陛下と側妃の間に生まれた第一王子で、私の異母弟だ。私やレオノーラの一つ下で、現在十八歳。一月後には学園の卒業式を、卒業から半年後にはレオノーラとの婚姻を控えている。

(今頃になって、婚約破棄……?)

 ようやく固まっていた思考が動き出したが、全く喜べなかった。何故ならこの婚姻は、ディアークが王太子として認められる条件だったからだ。



 我が国の国王には二人の妃がいる。
 先々代国王の弟で我が国の五大公爵家の一翼を担うリーベルト公爵と、王族出身の祖母の間に生まれた、正妃でもある私の母。

 そしてもう一人がミュンター伯爵家出身の、ディアークの母でもある側妃。ミュンター伯爵家は王家との血縁関係はなく、それなりに裕福ではあるけれど突出した何かがあるわけでもない、いたって普通の伯爵家だ。

 血統的には私の方が上だけど、側妃腹のディアークが王太子に内定したのは、男子を王にという声が強かったためだ。我が国は女性でも王位や爵位を継げるが、そのような国はまだ少数派だし、我が国でも女王は緊急時の繋ぎ的な感覚だった。例えば王になるべき男児が幼児で、王の務めを果たせないという場合だ。

 一方で私が王位に就くべきだという声も弱少なくなかった。私の母の実家の公爵家の発言力は、他の公爵家よりも強い。更には学園での成績や、公務の実績もその声を後押しする要因だった。私は騎士団にも所属していて、隣国との小競り合いに参加した事が何度もある。ディアークは一度も従軍した事がなかったから、辺境では私を支持する声が強かったのだ。

 だからこそ、レオノーラとの婚約だったのだ。レオノーラの才覚とエーデルマン公爵家の後ろ盾。王家の血を引くエーデルマン公爵と、隣国ギューデンの王族の母を持つ彼女は、王家にも引けを取らない血統の持ち主だった。ディアークの即位に異を唱えていた者たちも、彼女とエーデルマン公爵家が付くのなら、と支持する方にまわったのだ。

「婚約破棄なんかしたら、最初からディアークを支持していた者たちまで離れてしまうだろう。何を考えているのだ、あれは……」

 驚きを通り越して呆れしかない。一月後に学園を卒業すれば成人として遇され、小さな発言にも責任を負う立場になる。馬鹿なことを言えばあっという間に王太子の内定は保留どころか取り消しだ。本人は王位に就く気でいる筈なのに、どういうことなのか……

「私にもディアーク様のお考えは分かりませんわ。でも、『真実の愛』を見つけられたのだと、そう伺っていますわ」
「……真実の愛、ね」

 その言葉に、私も苦笑するしかなかった。確かにディアークは一年ほど前から、とある女子生徒と懇意にしていることは私たちの耳にも入っていた。周囲は本当の愛情で結ばれた真実の愛だと二人の仲を称賛し、一方でレオノーラのことは家の権力を使って無理やり婚約したと吹聴しているらしい。

「ミリセント=ゲーベル伯爵令嬢、か」

 それが今、学園でディアークの真実の恋人ともてはやされている令嬢の名前だった。会ったことはないが、ふわふわした栗色の髪と薄紅色の瞳を持つ可憐な美少女だという。年はディアークより一学年下で伯爵家の長女だが、貴族の令嬢らしからぬ気さくで朗らかな性格が人気らしい。男子限定だが。

 彼女は多くの令息との親交を深めていて、そのせいで令息たちの婚約者が蔑ろにされ、これまでに婚約解消に至った事案も起きていた。婚約は家同士を強固に繋ぐ重大な契約だ。それを軽んじては家同士の不和に繋がり、一歩間違えれば政情不安にもなり得る。王家としても看過出来ない類いのものだった。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...