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異母弟の様子を調べてみた
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「ソフィア、学園でのディアークの様子を調べてくれ」
レオノーラとのお茶会を終えた私は、自室に戻ると私付きの侍女のソフィアにそう頼んだ。ありふれた茶の髪に薄い緑色の瞳のどこにでもいる普通の侍女にしか見えない彼女は、騎士団に所属する私のために、父が特別につけてくれた護衛でもある。
「畏まりました。ディアーク様、ですか。今は伯爵令嬢と仲睦まじいそうですね」
「そうらしいな。今日もレオノーラとの茶会もすっぽかしたからな」
私が彼女と一緒にいたのは、ディアークがレオノーラとの約束を無視して帰ってこなかったからだ。最近このようなことが続いていたため、頃合いを見て彼女に声をかけたのだ。
「こんなことになるなら、王都を離れるべきではなかったな」
私はとある辺境の依頼で兵を率いて三月ほど王都を離れていたが、その間にディアークは益々彼女を蔑ろにしていた。私と彼女の仲がいいのを知っているから、口うるさい私がいなくなって気が楽になったのだろう。
父も母も、ディアークのことは好きにさせている。それは王としての資質を見極めるためで、そのことは本人にも言い聞かせている筈なのだが……
「ディアークは何を考えているのか……」
「市井では真実の愛とやらが流行っているそうです。それに感化されていらっしゃるのでは?」
「真実の愛と言っても、しょせん物語だろう?」
「物語だからこそです。現実にないから憧れて持て囃すのですよ」
「そういうものなのか……」
「そうなのです」
そう言い切られると、世相に疎い私は反論出来なかった。実際、そういうことはソフィアの方がずっと詳しいのは間違いない。正直言って、色恋沙汰に関しては全くピンとこなかった。王族だから政略結婚が当然と言われて育ったのもある。相手がどんな人物であっても良好な関係を築こうと務めるのが、貴族としての正しい婚姻の形だと教わったから。
「アリーセ様にもそういう相手が現れるといいのですけどねぇ」
「私は王女だぞ。そんな夢のような話はあり得ないだろう」
「もう! アリーセ様も年頃の乙女なのですよ。少しはこう、甘やかでドキドキするような甘酸っぱいものに興味を持ってくださいませ」
「……そんなことをしたら、面倒なことにしかならないだろう」
それを今実践しているのがディアークなのだ。私までそんな愚行に走るわけにはいかない。それこそ王家の威信が崩れ落ちてしまうだろう。
三日後、彼女がディアークたちの動向をまとめた報告書を持ってきた。彼女の実家は王家の影を代々務める一族で、諜報活動などお手の物だ。彼女自身も潜入捜査に加わることがあり、実は変装の名人でもある。
私はお気に入りのソファに座り、お茶を飲みながらそれに目を通した。
「……思った以上、だな」
「はい。学園では常にミリセント嬢と一緒にお過ごしです。放課後も街を散策をすることもあるそうです」
「放課後? 二人で?」
「いえ。エーデルマン公爵令息やローリング卿などの令息もご一緒です」
ディアークとの散策に、イーゴンたちも付いて行っているのか。側近や護衛が付いていくのは当然としても、彼らの想い人もミリセント嬢だと報告書にはある。好きな女性が他の男と仲睦まじくしているのを見て、何とも思わないのだろうか。
「彼女は、ディアークの恋人なのだろう?」
「そう言われていますが、実際のところ彼女の本命がディアーク様なのかどうかは微妙ですね。ディアーク様のいらっしゃらない場では、他の令息と仲睦まじくお過ごしとのことですから」
どうやら節操無しの令嬢だったらしい。もし誰かに見られて咎められたらどうするつもりなのだろう。家格が上の相手を怒らせれば家が没落しかねないというのに。それでなくても既に何組かの婚約が壊れているのだ。
「随分と図太い神経の持ち主のようだな」
「そうですね。真っ当な神経を持っていたら出来ないでしょうね」
ばっさりとソフィアに切り捨てられたミリセント嬢だったが、彼女はある意味私の想像以上の令嬢だった。
「お気の毒なのはエーデルマン公爵令息の婚約者ですね」
「シュレーゲル伯爵令嬢か」
「ええ、ローゼマリー様は伯爵家の出身ですので、余計に風当たりが強いようです」
報告書では、彼女はディアークたちから、ミリセント嬢を虐める悪女だと噂されているらしい。ディアークに睨まれれば他の生徒は忖度して彼女と距離を置くだろうから、彼女は針の筵にいるのは疑いようもないだろう。
「状況を一番理解しているのは彼女かもしれないな」
「そうですね」
「一度彼女からも話を聞くか」
もしディアークが婚約破棄をする気なら、イーゴンたちも同調する可能性は高かった。だったらレオノーラだけでなくローゼマリー嬢も害を被る可能性がある。王家からの打診で成った婚約を反故にしようなど暴挙でしかない。悪い目は早々に摘み取るに限るだろう。
レオノーラとのお茶会を終えた私は、自室に戻ると私付きの侍女のソフィアにそう頼んだ。ありふれた茶の髪に薄い緑色の瞳のどこにでもいる普通の侍女にしか見えない彼女は、騎士団に所属する私のために、父が特別につけてくれた護衛でもある。
「畏まりました。ディアーク様、ですか。今は伯爵令嬢と仲睦まじいそうですね」
「そうらしいな。今日もレオノーラとの茶会もすっぽかしたからな」
私が彼女と一緒にいたのは、ディアークがレオノーラとの約束を無視して帰ってこなかったからだ。最近このようなことが続いていたため、頃合いを見て彼女に声をかけたのだ。
「こんなことになるなら、王都を離れるべきではなかったな」
私はとある辺境の依頼で兵を率いて三月ほど王都を離れていたが、その間にディアークは益々彼女を蔑ろにしていた。私と彼女の仲がいいのを知っているから、口うるさい私がいなくなって気が楽になったのだろう。
父も母も、ディアークのことは好きにさせている。それは王としての資質を見極めるためで、そのことは本人にも言い聞かせている筈なのだが……
「ディアークは何を考えているのか……」
「市井では真実の愛とやらが流行っているそうです。それに感化されていらっしゃるのでは?」
「真実の愛と言っても、しょせん物語だろう?」
「物語だからこそです。現実にないから憧れて持て囃すのですよ」
「そういうものなのか……」
「そうなのです」
そう言い切られると、世相に疎い私は反論出来なかった。実際、そういうことはソフィアの方がずっと詳しいのは間違いない。正直言って、色恋沙汰に関しては全くピンとこなかった。王族だから政略結婚が当然と言われて育ったのもある。相手がどんな人物であっても良好な関係を築こうと務めるのが、貴族としての正しい婚姻の形だと教わったから。
「アリーセ様にもそういう相手が現れるといいのですけどねぇ」
「私は王女だぞ。そんな夢のような話はあり得ないだろう」
「もう! アリーセ様も年頃の乙女なのですよ。少しはこう、甘やかでドキドキするような甘酸っぱいものに興味を持ってくださいませ」
「……そんなことをしたら、面倒なことにしかならないだろう」
それを今実践しているのがディアークなのだ。私までそんな愚行に走るわけにはいかない。それこそ王家の威信が崩れ落ちてしまうだろう。
三日後、彼女がディアークたちの動向をまとめた報告書を持ってきた。彼女の実家は王家の影を代々務める一族で、諜報活動などお手の物だ。彼女自身も潜入捜査に加わることがあり、実は変装の名人でもある。
私はお気に入りのソファに座り、お茶を飲みながらそれに目を通した。
「……思った以上、だな」
「はい。学園では常にミリセント嬢と一緒にお過ごしです。放課後も街を散策をすることもあるそうです」
「放課後? 二人で?」
「いえ。エーデルマン公爵令息やローリング卿などの令息もご一緒です」
ディアークとの散策に、イーゴンたちも付いて行っているのか。側近や護衛が付いていくのは当然としても、彼らの想い人もミリセント嬢だと報告書にはある。好きな女性が他の男と仲睦まじくしているのを見て、何とも思わないのだろうか。
「彼女は、ディアークの恋人なのだろう?」
「そう言われていますが、実際のところ彼女の本命がディアーク様なのかどうかは微妙ですね。ディアーク様のいらっしゃらない場では、他の令息と仲睦まじくお過ごしとのことですから」
どうやら節操無しの令嬢だったらしい。もし誰かに見られて咎められたらどうするつもりなのだろう。家格が上の相手を怒らせれば家が没落しかねないというのに。それでなくても既に何組かの婚約が壊れているのだ。
「随分と図太い神経の持ち主のようだな」
「そうですね。真っ当な神経を持っていたら出来ないでしょうね」
ばっさりとソフィアに切り捨てられたミリセント嬢だったが、彼女はある意味私の想像以上の令嬢だった。
「お気の毒なのはエーデルマン公爵令息の婚約者ですね」
「シュレーゲル伯爵令嬢か」
「ええ、ローゼマリー様は伯爵家の出身ですので、余計に風当たりが強いようです」
報告書では、彼女はディアークたちから、ミリセント嬢を虐める悪女だと噂されているらしい。ディアークに睨まれれば他の生徒は忖度して彼女と距離を置くだろうから、彼女は針の筵にいるのは疑いようもないだろう。
「状況を一番理解しているのは彼女かもしれないな」
「そうですね」
「一度彼女からも話を聞くか」
もしディアークが婚約破棄をする気なら、イーゴンたちも同調する可能性は高かった。だったらレオノーラだけでなくローゼマリー嬢も害を被る可能性がある。王家からの打診で成った婚約を反故にしようなど暴挙でしかない。悪い目は早々に摘み取るに限るだろう。
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