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渦中の令嬢と令息とその婚約者
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ミリセント=ゲーベル伯爵令嬢。
今、ディアークたちが通う学園で、上位貴族の令息に囲まれていると噂の令嬢だ。私とレオノーラはディアークよりも一年早く卒業したため今の学園の様子は詳しくは知らないが、その中でも彼女の名はよく上がっていた。
「一部の貴族から苦情が上がっているが……まさかディアークまで誘惑されていたとはな」
少々、いや、かなり甘いところがあり、楽な方に流されがちなディアークなだけに、こうなる可能性はあった。だからこそ監視を兼ねた側近も付けていたし、教育係からも何度も気を付けるようにと言い聞かせていたと聞く。あと一年だけのことだと楽観視していたのは否めないが……
「ディアーク様だけではありませんわ。私の義理の弟のイーゴンもですもの」
「……側近にした意味が、なかったな」
思わずため息が出た。イーゴンはレオノーラの義理の弟だ。レオノーラが王家に嫁ぐことになったため、後継者がいなくなったエーデルマン公爵家が養子に迎えたのがイーゴンだった。彼にはディアークの側近として彼を戒める役目も期待していたが、一緒になってミリセント嬢に熱を上げているらしい……
「イーゴンだけではありませんわよ、アリーセ様」
「……ああ」
「アリーセ様の婚約者候補の一人、ローリング様もだと聞いておりますわ」
「……大したご令嬢だな、ミリセント嬢は」
もうこうなると乾いた笑いしか出てこなかった。
ローリングは二人いる私の婿候補の一人で、クランベラー侯爵家の次男だ。彼は男尊女卑の考えが強くて結婚は考えられなかったが、クランベラー侯爵が箔付けに名前だけでもと言うので候補に入っていた。
近衛騎士として一時は私の護衛に就いたこともあるが、今はディアーク付きになっている。その関係からミリセント嬢と仲よくなったらしく、最近は私との交流のための茶会にも来なくなっていた。彼が自ら辞退してくれるのなら一向に構わない。それにしても、こうも令息たちの懐に入り込める才能は大したものだと思ってしまう。
「イーゴンのせいで、ローゼマリー様にも迷惑をかけてしまったわ」
「シュレーゲル家のご令嬢か。そう言えばイーゴンの婚約者だったな」
「ええ。彼女はまだ学生なので、学園でイーゴンやディアーク様にきつく当たられているとか。かなり肩身の狭い思いをされていると伺っていますわ」
ローゼマリー嬢は私たちの一つ下、ディアークやイーゴンと同学年だ。彼女は伯爵家の令嬢で、イーゴンと婚約して暫くは仲も良好で上手くいくように見えた。それを壊したのがミリセント嬢だった。
「ミリセント嬢に関しては、あちこちの家から苦情が上がっている。既に何組かの婚約が解消や白紙になっているというし」
「まぁ。まるで傾国の美女ですわね」
「そこまでの才覚があるのか?」
「さぁ。でも、教養もマナーも中の下、他国語も話せないと聞きますわ。他の令嬢との交流も殆どないとか」
「いっそ国を傾けるほどの知略でもあるなら、母上が喜んで王妃教育をなさるだろうが」
「ローデリカ様ならやりそうですわね」
母は豪快な人だし、父相手でも遠慮しない。リーベルト公爵家の後ろ盾と血統もある母に父も頭が上がらないのだ。そのため側妃も母に手を出すことは出来ずにいた。母と表立って敵対すればディアークの即位は完全になくなるからだ。ディアークのためにも、側妃は母の機嫌を損ねないように気を付けていた。
「彼女はちやほやされたいだけではないでしょうか?」
「それでは仇花でしかないな」
残念ながら国を任せるだけの器にはない。となれば……
「ディアークが婚約を破棄するというのであれば、廃嫡するしかないが……」
「そうなると、アリーセ様が王位に就くことになりますわね」
「そうなるよなぁ……」
ディアークとレオノーラの結婚が無事に済んだ後、私は叔父が継いだドルツマイヤー辺境伯家に養子に入って、婿を取る予定だった。ドルツマイヤー領は隣国との小競り合いが絶えず、私も何度も騎士を率いて応援に向かったことがあった。王族の私が彼の地を治めるのは、大きな意義があるのだが……
「まずはディアークの周辺を調べよう。もし本当に婚約破棄するというのであれば、レオノーラはどうしたい?」
「そうですわね。このまま信頼関係が築けそうにないのであれば、婚約破棄も致し方ありませんわ」
「そう、だな」
歩み寄ろうとしたレオノーラの手を振り払ったのはディアークだ。王家のごり押しの婚約の裏で、彼女が淡い恋心を封印したのを私は知っていた。今までの努力とこの国の未来を思えば、彼女に王妃になって欲しいと思う。彼女なら賢妃としてこの国を守り、導いてくれるだろう。
一方で、それが彼女の幸せだと信じ切れない自分もいた。ディアークが歩み寄り、支え合おうとするなら未来は明るいだろうが、それが望めそうになかったからだ。
今、ディアークたちが通う学園で、上位貴族の令息に囲まれていると噂の令嬢だ。私とレオノーラはディアークよりも一年早く卒業したため今の学園の様子は詳しくは知らないが、その中でも彼女の名はよく上がっていた。
「一部の貴族から苦情が上がっているが……まさかディアークまで誘惑されていたとはな」
少々、いや、かなり甘いところがあり、楽な方に流されがちなディアークなだけに、こうなる可能性はあった。だからこそ監視を兼ねた側近も付けていたし、教育係からも何度も気を付けるようにと言い聞かせていたと聞く。あと一年だけのことだと楽観視していたのは否めないが……
「ディアーク様だけではありませんわ。私の義理の弟のイーゴンもですもの」
「……側近にした意味が、なかったな」
思わずため息が出た。イーゴンはレオノーラの義理の弟だ。レオノーラが王家に嫁ぐことになったため、後継者がいなくなったエーデルマン公爵家が養子に迎えたのがイーゴンだった。彼にはディアークの側近として彼を戒める役目も期待していたが、一緒になってミリセント嬢に熱を上げているらしい……
「イーゴンだけではありませんわよ、アリーセ様」
「……ああ」
「アリーセ様の婚約者候補の一人、ローリング様もだと聞いておりますわ」
「……大したご令嬢だな、ミリセント嬢は」
もうこうなると乾いた笑いしか出てこなかった。
ローリングは二人いる私の婿候補の一人で、クランベラー侯爵家の次男だ。彼は男尊女卑の考えが強くて結婚は考えられなかったが、クランベラー侯爵が箔付けに名前だけでもと言うので候補に入っていた。
近衛騎士として一時は私の護衛に就いたこともあるが、今はディアーク付きになっている。その関係からミリセント嬢と仲よくなったらしく、最近は私との交流のための茶会にも来なくなっていた。彼が自ら辞退してくれるのなら一向に構わない。それにしても、こうも令息たちの懐に入り込める才能は大したものだと思ってしまう。
「イーゴンのせいで、ローゼマリー様にも迷惑をかけてしまったわ」
「シュレーゲル家のご令嬢か。そう言えばイーゴンの婚約者だったな」
「ええ。彼女はまだ学生なので、学園でイーゴンやディアーク様にきつく当たられているとか。かなり肩身の狭い思いをされていると伺っていますわ」
ローゼマリー嬢は私たちの一つ下、ディアークやイーゴンと同学年だ。彼女は伯爵家の令嬢で、イーゴンと婚約して暫くは仲も良好で上手くいくように見えた。それを壊したのがミリセント嬢だった。
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「まぁ。まるで傾国の美女ですわね」
「そこまでの才覚があるのか?」
「さぁ。でも、教養もマナーも中の下、他国語も話せないと聞きますわ。他の令嬢との交流も殆どないとか」
「いっそ国を傾けるほどの知略でもあるなら、母上が喜んで王妃教育をなさるだろうが」
「ローデリカ様ならやりそうですわね」
母は豪快な人だし、父相手でも遠慮しない。リーベルト公爵家の後ろ盾と血統もある母に父も頭が上がらないのだ。そのため側妃も母に手を出すことは出来ずにいた。母と表立って敵対すればディアークの即位は完全になくなるからだ。ディアークのためにも、側妃は母の機嫌を損ねないように気を付けていた。
「彼女はちやほやされたいだけではないでしょうか?」
「それでは仇花でしかないな」
残念ながら国を任せるだけの器にはない。となれば……
「ディアークが婚約を破棄するというのであれば、廃嫡するしかないが……」
「そうなると、アリーセ様が王位に就くことになりますわね」
「そうなるよなぁ……」
ディアークとレオノーラの結婚が無事に済んだ後、私は叔父が継いだドルツマイヤー辺境伯家に養子に入って、婿を取る予定だった。ドルツマイヤー領は隣国との小競り合いが絶えず、私も何度も騎士を率いて応援に向かったことがあった。王族の私が彼の地を治めるのは、大きな意義があるのだが……
「まずはディアークの周辺を調べよう。もし本当に婚約破棄するというのであれば、レオノーラはどうしたい?」
「そうですわね。このまま信頼関係が築けそうにないのであれば、婚約破棄も致し方ありませんわ」
「そう、だな」
歩み寄ろうとしたレオノーラの手を振り払ったのはディアークだ。王家のごり押しの婚約の裏で、彼女が淡い恋心を封印したのを私は知っていた。今までの努力とこの国の未来を思えば、彼女に王妃になって欲しいと思う。彼女なら賢妃としてこの国を守り、導いてくれるだろう。
一方で、それが彼女の幸せだと信じ切れない自分もいた。ディアークが歩み寄り、支え合おうとするなら未来は明るいだろうが、それが望めそうになかったからだ。
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