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二人の親友
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話が終わったのでお祖父様の執務室から出ると、そこには私の侍女のエリーと護衛のジョエルが待っていてくれた。二人とも私の大切な友人、ううん、そんな軽いものじゃない。親友であり家族も同然だ。
「アン、一体何の話だったの?」
王都から早馬が着た直後の呼び出しとあって、二人とも不安そうな表情を浮かべていた。王都からの早馬なんてよほどの緊急事態だからそうなるのも当然だろう。
「う~ん、ごめん。部屋に戻ってから話すわ」
私もまだ話が消化し切れていない部分があるから、少しでもいい、時間が欲しかった。それにこんな場所で話すことじゃないだろう。自分の部屋に戻って、気持ちを落ち着かせるためにお茶の一杯も欲しかった。
部屋に戻ると直ぐエリーがお茶を淹れてくれた。嗅ぎ慣れた優しい香りが部屋の中に広がると、ざわついていた気持ちが落ち着いた。三人だけの時は友人として接して貰っているから、エリーは三人分のお茶とお菓子を用意してくれた。エリーは私の隣に、ジョエルは正面がいつもの配置だ。
「それで、何だったんだよ」
今度は黒髪と灰青色の瞳のジョエルが先に声を上げた。ぶっきらぼうで主家の娘に対する言葉遣いがなっていない! とよく叱られているジェルだけど、それは私はそうお願いしたからだ。その距離感のなさが私には心地いい。
「ちょっと待って。防音の術を掛けるわ」
これから話すことは王家に関わることだから、人に聞かれるのはよくないだろう。きっと、いや確実に暴言の嵐になることは間違いないし。私は部屋に防音の術を掛けた。
「それが、廃嫡されたオードリック様と結婚しろと王命が出たの」
「ええっ?!」
「……は?」
榛色の瞳を見開きながらも先に声を上げたのはエリーで、ジョエルの反応が少し遅れたのはいつものことだった。エリーに言わせれば、ジョエルの頭の中には筋肉が詰まっているので理解するのに時間がかかるのだという。この件で二人がいつも喧嘩しているのもいつのもことだ。
「王命で?! 廃太子と?」
「け、結婚って……」
さすがに二人とも理解するのに時間がかかっているらしく、ここまで言うのに少し時間がかかっていた。少し前の自分を見ているみたいで私は少しだけ可笑しく思えた。でも気持ちはわかる。どうしてそんな話になったのか、未だにわからないから。
「ちょっと待てよ! 王命だからって、廃太子と結婚?! ふざけんなよ!」
ようやく理解が追い付いたらしいジョエルが立ち上がって怒鳴った。
「ふざけて王命なんか出さないでしょ? ちょっとは落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いていられるかよ! そんな、廃太子なんて……」
「気持ちはわかるけど、あんたの声って響くのよ。落ち着きなさいって!」
地声が大きい上に騎士のジョエルが叫ぶと、部屋の中では耳が痛いほどだった。エリーが呆れながらも窘めるとジョエルは忌々し気な表情を浮かべたけど、口を結んで座った。自分の声の大きさに自覚があるからだ。
「それにしても信じられないわ。そんな王命を出すなんて」
「私もそう思ったけど、王家からの書簡にはそう書いてあったから、間違いないでしょうね」
私も直に見たし、一句一句しっかり目を通したから間違いない。残念ながら勘違いや見落としではなかった。
「まさか、アンがあの廃太子と……」
「ジェルと同意見なのは悔しいけど、私も同感だわ。だって、その……」
「エリーが言いたいことはわかるわ。あのくそ爺と同じ事をしたオードリック様と結婚なんて、嫌がらせ、ううん、宣戦布告かと思ったもの」
私がそう言うと二人は顔を引き攣らせたけど、口が悪いのはいつものことだ。
「そりゃあ、オードリック様は魅了にかかっていたから父とは違うわ。でも、真実の愛だなんてものを信じて踊らされたなんて、馬鹿じゃないのと思っちゃうわよね」
「え、ええ……」
「それに、王族のくせに魅了にかかるなんて、バカなの? 間抜けなの? 正直言ってそんなお坊ちゃんが王太子だったなんてびっくりだわ。廃嫡されて当然よね」
王族は万が一に備えて魅了などの対策もしている筈だ。それに側近だってそうならないようにと警戒しなきゃいけないのに一緒になって魅了されていたのだ。脇が甘いなんてレベルで片付けていい話じゃない。廃嫡は当然だけど、そんな彼らは生涯幽閉でよかったんじゃないかと思っている。
「エリー、でもそのお坊ちゃんが婿になるんだぞ?」
「わかってるわよ。でも王命なんだから断れないじゃない。そりゃあ、お祖母様に言えば掛け合って下さるだろうけど、そんな負担はかけられないわ」
そう、いくら影響力があるお祖母様でも王命をひっくり返すのは簡単ではないだろうし、そんな無理はさせられない。それに王家出身のお祖母様はそれが世間にどんな影響を与えるかもご存じだろう。それをわかった上で私のために無理を通そうとして下さるつもりなのだろうけど、私はそんなことは望んでいなかった。
「じゃ、王命に従ってあの廃太子を受け入れるのかよ」
ジョエルが面白くなさそうにそう聞いてきた。
「アン、一体何の話だったの?」
王都から早馬が着た直後の呼び出しとあって、二人とも不安そうな表情を浮かべていた。王都からの早馬なんてよほどの緊急事態だからそうなるのも当然だろう。
「う~ん、ごめん。部屋に戻ってから話すわ」
私もまだ話が消化し切れていない部分があるから、少しでもいい、時間が欲しかった。それにこんな場所で話すことじゃないだろう。自分の部屋に戻って、気持ちを落ち着かせるためにお茶の一杯も欲しかった。
部屋に戻ると直ぐエリーがお茶を淹れてくれた。嗅ぎ慣れた優しい香りが部屋の中に広がると、ざわついていた気持ちが落ち着いた。三人だけの時は友人として接して貰っているから、エリーは三人分のお茶とお菓子を用意してくれた。エリーは私の隣に、ジョエルは正面がいつもの配置だ。
「それで、何だったんだよ」
今度は黒髪と灰青色の瞳のジョエルが先に声を上げた。ぶっきらぼうで主家の娘に対する言葉遣いがなっていない! とよく叱られているジェルだけど、それは私はそうお願いしたからだ。その距離感のなさが私には心地いい。
「ちょっと待って。防音の術を掛けるわ」
これから話すことは王家に関わることだから、人に聞かれるのはよくないだろう。きっと、いや確実に暴言の嵐になることは間違いないし。私は部屋に防音の術を掛けた。
「それが、廃嫡されたオードリック様と結婚しろと王命が出たの」
「ええっ?!」
「……は?」
榛色の瞳を見開きながらも先に声を上げたのはエリーで、ジョエルの反応が少し遅れたのはいつものことだった。エリーに言わせれば、ジョエルの頭の中には筋肉が詰まっているので理解するのに時間がかかるのだという。この件で二人がいつも喧嘩しているのもいつのもことだ。
「王命で?! 廃太子と?」
「け、結婚って……」
さすがに二人とも理解するのに時間がかかっているらしく、ここまで言うのに少し時間がかかっていた。少し前の自分を見ているみたいで私は少しだけ可笑しく思えた。でも気持ちはわかる。どうしてそんな話になったのか、未だにわからないから。
「ちょっと待てよ! 王命だからって、廃太子と結婚?! ふざけんなよ!」
ようやく理解が追い付いたらしいジョエルが立ち上がって怒鳴った。
「ふざけて王命なんか出さないでしょ? ちょっとは落ち着きなさいよ」
「これが落ち着いていられるかよ! そんな、廃太子なんて……」
「気持ちはわかるけど、あんたの声って響くのよ。落ち着きなさいって!」
地声が大きい上に騎士のジョエルが叫ぶと、部屋の中では耳が痛いほどだった。エリーが呆れながらも窘めるとジョエルは忌々し気な表情を浮かべたけど、口を結んで座った。自分の声の大きさに自覚があるからだ。
「それにしても信じられないわ。そんな王命を出すなんて」
「私もそう思ったけど、王家からの書簡にはそう書いてあったから、間違いないでしょうね」
私も直に見たし、一句一句しっかり目を通したから間違いない。残念ながら勘違いや見落としではなかった。
「まさか、アンがあの廃太子と……」
「ジェルと同意見なのは悔しいけど、私も同感だわ。だって、その……」
「エリーが言いたいことはわかるわ。あのくそ爺と同じ事をしたオードリック様と結婚なんて、嫌がらせ、ううん、宣戦布告かと思ったもの」
私がそう言うと二人は顔を引き攣らせたけど、口が悪いのはいつものことだ。
「そりゃあ、オードリック様は魅了にかかっていたから父とは違うわ。でも、真実の愛だなんてものを信じて踊らされたなんて、馬鹿じゃないのと思っちゃうわよね」
「え、ええ……」
「それに、王族のくせに魅了にかかるなんて、バカなの? 間抜けなの? 正直言ってそんなお坊ちゃんが王太子だったなんてびっくりだわ。廃嫡されて当然よね」
王族は万が一に備えて魅了などの対策もしている筈だ。それに側近だってそうならないようにと警戒しなきゃいけないのに一緒になって魅了されていたのだ。脇が甘いなんてレベルで片付けていい話じゃない。廃嫡は当然だけど、そんな彼らは生涯幽閉でよかったんじゃないかと思っている。
「エリー、でもそのお坊ちゃんが婿になるんだぞ?」
「わかってるわよ。でも王命なんだから断れないじゃない。そりゃあ、お祖母様に言えば掛け合って下さるだろうけど、そんな負担はかけられないわ」
そう、いくら影響力があるお祖母様でも王命をひっくり返すのは簡単ではないだろうし、そんな無理はさせられない。それに王家出身のお祖母様はそれが世間にどんな影響を与えるかもご存じだろう。それをわかった上で私のために無理を通そうとして下さるつもりなのだろうけど、私はそんなことは望んでいなかった。
「じゃ、王命に従ってあの廃太子を受け入れるのかよ」
ジョエルが面白くなさそうにそう聞いてきた。
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