【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

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仲睦まじい二人

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 エリアーヌ様を我が家に預かることになった。もう悪い予感しかしないのは私の考え過ぎではないだろう。預かってみればエリアーヌ様は身体が弱いのを盾に、侍女に無茶な要求をし始めてお祖母様の怒りを買っていた。

「全く、躾のなっていない雌犬ね」

 オーリー様と庭の四阿で過ごすエリアーヌ様を見下ろしながら、お祖母様は苦々しく言い捨てた。実際、私という婚約者がありながら、エリアーヌ様の態度は度を過ぎていた。何かとオーリー様と一緒にいたがるのだ。お陰で彼女が屋敷に滞在するようになってからは、二人で過ごす時間がなくなってしまった。

「オードリックもオードリックね。あんな女に鼻の下を伸ばして……」
「でも、何かお考えがあるのかもしれませんわ」

 私が気になっていたのは、初めてエリアーヌ様を見た時にオーリー様が呟いた言葉だった。

「あの娘があのミアだと?」
「……それはなんとも。私も詳しい経緯は知りませんし……」

 オーリー様とミア様の関係について、私はあえて聞かないようにしていた。古傷を抉ることになると思ったからだ。それにこれまでのオーリー様の態度からして、不実なことはなさらないだろう。そう思いたい。

「わからないわよ、一度は王命に背いたんですもの。一度ある事は二度あるわ」

 そう言われると反論の余地もない。確かにオーリー様が一度やらかしているのは確かだし、今はエリアーヌ様に並々ならぬ関心を持っている。

「エリアーヌ嬢がミアとかいう娘だったとしたら……彼女は自死したのではなく、そう見せかけて連れ去られたことになるわね」
「そうなりますが、可能でしょうか」
「出来ないとは言い切れないわね。エリアーヌ嬢は病弱で表に出ていないから誰も顔を知らない。公爵がその気になれば可能でしょうね」
「でも、だったら本物のエリアーヌ様は?」
「病弱だったというから亡くなっているかもしれないわね。でも、公爵が言わなければわからないでしょうね」

 確かにお祖母様の言う通りだった。エリアーヌ様を知る者がいなければ入れ替わることは可能だろう。

「案外、あのミアという娘、公爵の隠し子だったりしてね」

 まさかと言おうとしたけれど、そう言われてみれば可能性がないとは言い切れなかった。貴族なら愛人の一人や二人いてもおかしくないのだから、庶子だっている可能性もある。お祖母様は調べてみるのも面白そうねと言ったけれど、きっと既に調べを進めているだろう。その点は抜かりはないのだ。

(こうなると……オーリー様に真意を尋ねたいけれど……)

 そうは思うのだけどエリアーヌ様がぴったりくっついて離れないので、この件について尋ねるのもままならなかった。これではどちらが婚約者かわかったものではない。ふと、オーリー様がこちらを見上げて、視線が合った。一瞬驚いた表情を浮かべたオーリー様だったけれど、強い意志を秘めた視線を向けられた……気がした。距離があったから本当に気のせいかもしれないけれど。



 意外にもその日の夕食後、エドガール様が来て、オーリー様が今から訪ねたいと言って来た。特に断る理由もないので承諾すると、オーリー様が直ぐにやってきた。

「すまない、アンジェ」

 いきなり謝罪から始まったオーリー様だったけれど、それは何に対してだろうか。私がそんなことを考えていると、オーリー様が考えていることを話してくれた。

「それじゃ、オーリー様はエリアーヌ様とミア様は別人だと?」
「ああ。見た目は勿論、仕草や癖も殆ど同じだし、本人も匂わすようなことを言っているんだが……」
「エリアーヌ様が?」

 まさかそんなことを言っていたとは意外だったけれど、一方で心配になった。自身がミア様だと知られたらただでは済まないだろうに。

「私は別人だと思っている。凄く似ていると思うし、私たちの間にあったことを尋ねても正確に答えてくるけれど、何かが違うんだ」
「……そうですか」
「それが一層不気味なんだ。彼女がどうしてエリアーヌ嬢を名乗っているのか、公爵家が何を企んでいるのかが気になって……」
「彼女をオーリー様に縁付けようとなさっているのでは?」
「それは……わからない……だから様子を探っているのだけど……」
「そういうことでしたか」

 腑に落ちたわけじゃないけど、お祖母様が言ったような鼻の下を伸ばしていたわけじゃなかったことにホッとしている自分がいた。

「私は……ミアのことは何とも思っていない。それは過去も含めてだ」
「それは……では、本当に魅了にかかっていただけ、だと?」
「ああ。少なくとも異性として意識したことはない。魅了を掛けようとしていることもわかっていたし……」
「……え?」

 ちょっと待って。魅了を掛けようとしていることをわかった上で掛けられたってこと? ミア様のことを何とも思っていないことも驚きだったけれど、こっちの方はそれどころではないレベルで意外だった。

「あなたに……話しておきたい事があるんだ」




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