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明るい兆し
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ブノワ殿とソフィアさんは我が家の客人として滞在する予定だったけれど、ソフィアさんが平民の自分が領主の屋敷に滞在するなんて落ち着きません! と拒否したため、話し合いの結果二人は使用人用の部屋に滞在することになった。大事なお客様だからと言っても、客人としてもてなされる方が心臓に悪いのだと言う。ちなみにブノワ殿はソフィアさんを溺愛していて、彼女の言う通りにの一点張りだった。
そんなソフィアさんは侍女の仕事に興味を持ったらしく、それを知った侍女頭のソフィアがそれなら滞在中だけでも見習いとしてやってみる? と誘い、ソフィアさんがそれに乗って、今は若い侍女に付いて仕事を教えて貰っていた。侍女頭のソフィアは同じ名前のソフィアさんが気に入ったらしく、ここで勤めない? とスカウトしていた。
一方のブノワ殿は、部屋に籠って何やら調べ物に忙しそうだった。我が家の書庫から薬草関係の本を持ち出して、時折ルイス先生とも話し込んでいた。研究馬鹿だとルイス先生が言っていたように、彼は薬草に関しては並々ならぬ知識欲があるらしい。今までの怠惰な雰囲気が嘘みたいだ。
「この様子なら、オーリー様の体調も直ぐによくなりそうですね」
エリアーヌ様に扮したエマ様が離宮で過ごすようになってから、庭でのお茶も復活していた。やはり外の方が気分がいい。オーリー様は今も身体に悪そうな薬を飲み続けているだけに一日も早く対処法を……と気は急くけど、情況が前よりも明らかになってきたせいか、気分的にはずっと楽に思えた。
「アンジェのお陰です。ミシュレまで足を運んでくれたから」
「あれはマリエル様に会いたかったのもあるので、大したことじゃないですよ」
「だけど、女性が馬で旅など……」
「う~ん、でもここじゃ普通ですよ。道が悪いから馬車よりも馬の方がマシなんです」」
「なるほど。確かにそうだ……」
ここでは女性も馬に乗るのは珍しくない。領主夫人はいざという時は夫に代わって騎士団を動かす必要もあるし、何よりもこっちは道の整備が進んでいないので、馬車だと直ぐにお尻が痛くなってしまうのだ。そのことを思い出したのか、オーリー様がしみじみと納得していた。
「体調が回復したら、一緒に遠出しませんか? この近くには綺麗な湖があるんです。それに街も三月後には祭りもあります」
「祭り?」
「ええ。リファールで最も賑やかな祭りです。領民たちも一緒に一晩中踊り明かす祭りなんですよ」
「それは楽しそうだな」
王都育ちのオーリー様は田舎の祭りはご存じないだろう。ここでは領主も領民も無礼講で一緒に飲んで踊って騒ぐのが恒例で、そうして結束を固めるのだ。
「色んな大会もあるんですよ。飲み比べや大食い、腕試しもあります。剣術や馬術なんかの大会もやっていますね。どれも凄く盛り上がるんですよ」
「それは、是非一度見てみたいな」
「ええ、今年は難しいでしょうけど、来年からはオーリー様も出てきたらどうですか? 確か剣術もかなりの腕前だと聞きましたわ」
「それならエドの方が向いているだろう」
「まぁ、エドガール様が?」
「で、殿下、私はそんな……」
「謙遜するなよ。ああ、エドなら今年出てみたらどうだ?」
オーリー様がそう言ったけれど、エドガール様は殿下がお元気になられたら考えますと言って固辞していた。真面目だなぁと思うけれど、そこが彼のいいところなのだろう。
ブノワ殿がやって来て一月ほど経った頃、対処法が出来たとの連絡があって再び集まることになった。あの薬を止めて、出来ればこれまでの毒の影響も減らせないかとの期待が膨らんだ。子種のことはどうしようもないとしても、それ以外のことなら何とかなるんじゃないか、何とかなって欲しいと思わずにはいられない。治癒魔術と組み合わせれば効果も増すだろうし。
「ブノワ、何か手が見つかったか?」
「はい、ルイス先生。ランドンで思い出したことがあります。二十年前、王都近くの村で起きた奇病です」
「奇病というと……カルセ村か?」
「はい。あの奇病はカフの葉とリギルの実を混ぜたものが原因でした」
「そうじゃったか」
「はい。その際に様々な治療が試されましたが、最も効果があったのがこちらです」
そう言うとブノワ殿が薬の包みをテーブルに置いた。
「これは?」
「ギーギルの根とケシャの葉を混ぜたものです。色々試した結果、これが一番効果があったと記録されていました」
「そうか」
ブノワ殿は王都に住む兄に頼んで資料を送ってもらい、この処方に辿り着いたという。
「今飲んでいる薬の代わりに、これを毎日お飲みください。早ければ一月ほどで不調が抜ける筈です」
思わずオーリー様に視線を向けると目が合って、どちらからともなく笑みが浮かんだ。これに治癒魔術を足せばさらに効果が上がるかもしれない。今までにない明るい兆しに、その場にもホッとした空気が広がっていった。
そんなソフィアさんは侍女の仕事に興味を持ったらしく、それを知った侍女頭のソフィアがそれなら滞在中だけでも見習いとしてやってみる? と誘い、ソフィアさんがそれに乗って、今は若い侍女に付いて仕事を教えて貰っていた。侍女頭のソフィアは同じ名前のソフィアさんが気に入ったらしく、ここで勤めない? とスカウトしていた。
一方のブノワ殿は、部屋に籠って何やら調べ物に忙しそうだった。我が家の書庫から薬草関係の本を持ち出して、時折ルイス先生とも話し込んでいた。研究馬鹿だとルイス先生が言っていたように、彼は薬草に関しては並々ならぬ知識欲があるらしい。今までの怠惰な雰囲気が嘘みたいだ。
「この様子なら、オーリー様の体調も直ぐによくなりそうですね」
エリアーヌ様に扮したエマ様が離宮で過ごすようになってから、庭でのお茶も復活していた。やはり外の方が気分がいい。オーリー様は今も身体に悪そうな薬を飲み続けているだけに一日も早く対処法を……と気は急くけど、情況が前よりも明らかになってきたせいか、気分的にはずっと楽に思えた。
「アンジェのお陰です。ミシュレまで足を運んでくれたから」
「あれはマリエル様に会いたかったのもあるので、大したことじゃないですよ」
「だけど、女性が馬で旅など……」
「う~ん、でもここじゃ普通ですよ。道が悪いから馬車よりも馬の方がマシなんです」」
「なるほど。確かにそうだ……」
ここでは女性も馬に乗るのは珍しくない。領主夫人はいざという時は夫に代わって騎士団を動かす必要もあるし、何よりもこっちは道の整備が進んでいないので、馬車だと直ぐにお尻が痛くなってしまうのだ。そのことを思い出したのか、オーリー様がしみじみと納得していた。
「体調が回復したら、一緒に遠出しませんか? この近くには綺麗な湖があるんです。それに街も三月後には祭りもあります」
「祭り?」
「ええ。リファールで最も賑やかな祭りです。領民たちも一緒に一晩中踊り明かす祭りなんですよ」
「それは楽しそうだな」
王都育ちのオーリー様は田舎の祭りはご存じないだろう。ここでは領主も領民も無礼講で一緒に飲んで踊って騒ぐのが恒例で、そうして結束を固めるのだ。
「色んな大会もあるんですよ。飲み比べや大食い、腕試しもあります。剣術や馬術なんかの大会もやっていますね。どれも凄く盛り上がるんですよ」
「それは、是非一度見てみたいな」
「ええ、今年は難しいでしょうけど、来年からはオーリー様も出てきたらどうですか? 確か剣術もかなりの腕前だと聞きましたわ」
「それならエドの方が向いているだろう」
「まぁ、エドガール様が?」
「で、殿下、私はそんな……」
「謙遜するなよ。ああ、エドなら今年出てみたらどうだ?」
オーリー様がそう言ったけれど、エドガール様は殿下がお元気になられたら考えますと言って固辞していた。真面目だなぁと思うけれど、そこが彼のいいところなのだろう。
ブノワ殿がやって来て一月ほど経った頃、対処法が出来たとの連絡があって再び集まることになった。あの薬を止めて、出来ればこれまでの毒の影響も減らせないかとの期待が膨らんだ。子種のことはどうしようもないとしても、それ以外のことなら何とかなるんじゃないか、何とかなって欲しいと思わずにはいられない。治癒魔術と組み合わせれば効果も増すだろうし。
「ブノワ、何か手が見つかったか?」
「はい、ルイス先生。ランドンで思い出したことがあります。二十年前、王都近くの村で起きた奇病です」
「奇病というと……カルセ村か?」
「はい。あの奇病はカフの葉とリギルの実を混ぜたものが原因でした」
「そうじゃったか」
「はい。その際に様々な治療が試されましたが、最も効果があったのがこちらです」
そう言うとブノワ殿が薬の包みをテーブルに置いた。
「これは?」
「ギーギルの根とケシャの葉を混ぜたものです。色々試した結果、これが一番効果があったと記録されていました」
「そうか」
ブノワ殿は王都に住む兄に頼んで資料を送ってもらい、この処方に辿り着いたという。
「今飲んでいる薬の代わりに、これを毎日お飲みください。早ければ一月ほどで不調が抜ける筈です」
思わずオーリー様に視線を向けると目が合って、どちらからともなく笑みが浮かんだ。これに治癒魔術を足せばさらに効果が上がるかもしれない。今までにない明るい兆しに、その場にもホッとした空気が広がっていった。
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