【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

文字の大きさ
57 / 107

夜中の異変

しおりを挟む
オーリー様が陛下の影武者になる計画は、私たちの予想に反してあっさり了承されてしまった。結局、その後はオーリー様に会うことも叶わず、私たちは三人で王都に向かうことになった。陛下がどうなさるのかは機密事項ということで、この件に関しては何も教えて貰えなかった。

 陛下に扮したオーリー様たちが出発する前、私たちは先に王都に向かう様に言われて砦を出た。向こうは騎士団の護衛付きの大人数で動きが遅く、別れてから七日も経てば随分と距離が開いてしまった。こうなるとあちらの状況が全くわからない。

「オーリー様、大丈夫かしら……」

 馬車から外を眺めていたら、ついそんな言葉が口から出てきてしまった。

「さぁな。でも、精鋭の騎士が護っているんだろう? 滅多なことはないんじゃないか?」
「そうね。しかもエストレ辺境伯の部隊も護衛に付いているんでしょう? そこに襲撃をかけようなんて命知らずなことはしないでしょ」

 ジョエルもエリーも心配ないと一笑した。確かにあの仰々しい護衛を見ればそんな気は失せるかもしれない。でも、滅多に王城の外に、しかもこんなに王都から遠いところに陛下が来ることはない。これをチャンスと狙う者は何としてでも成そうとするだろう。それくらい王都と王宮の警備は厳しいから。

「アンは心配性だなぁ」
「ほんと。特に殿下には過保護ですよね」
「そ、そんなことは……」
「あ~わかるわかる。なんか、弟を心配する姉みたいだよな!」
「は?」

 ジョエルがさも当然のようにそんなことを言ったけど、さすがにそれはないだろう。だってオーリー様の方が五歳も年上なんだから。さすがにそんな失礼なことは……

「そうよねぇ。最初は全く興味を示さなかったのに、最近は甲斐甲斐しいというか。ジョエルの言う通り、頼りない弟としっかり者の姉って感じね」

 エリーにまで同じことを言われてしまった。そんなつもりはないのだけど……

「まぁ、最初は虚弱でどうしようかと思ったけど、最近はいい感じでしっかりしてきたからなぁ」
「そうね。王都育ちのお坊ちゃんかと思って期待してなかったけど、案外使えそうだし」
「……二人とも、言い過ぎよ……」

 さすがにそこまでは……と思ったけど、確かに我が家に来た当初とは別人のように元気になられたと思う。二人の様子からもオーリー様が我が家や領地に受け入れられつつあるのを感じた。それは喜ぶべきだろう。

「まぁ、心配するのは悪いことじゃないわね」
「だよなぁ」

 しみじみとそう言う二人に、それってどういう意味なのと聞こうとしたら、護衛がもう直ぐ宿のある街に着きますと声をかけて来たので、その話はそれを聞くことは出来なかった。街から漂う美味しそうな匂いに気を取られたのもある。今日も朝宿を発ってからは街らしい街もなく、お昼も携帯食だったのだ。こんな日が続いたせいか美味しそうな匂いには敏感になっていた。

「明後日には王都に着きそうだな」
「そっか。やっぱりこのメンバーだと早いわね」

 行きはオーリー様の体調を見ながらだったから時間がないと言いながらも余裕を持たせていた。でも今回は身内だけなのもあって行きよりもペースが速い。ちょっと無理をすれば明日中に着いてしまうかもしれない。さすがに夜道は危険だからやらないけど。
 オーリー様たちは今頃どこにいるのだろうか。予定では十日で王都に着くと聞いていたけれどあの人数だ。もしかするともう少し遅くなるかもしれない。

 異変があったのはその日の夜だった。急に街中が慌ただしくなったのだ。何事かと外の様子を眺めると、多くの騎馬が街道をかけていくのが見えた。

「何か、あったのかしら?」

 エリーが外を眺めながらつぶやいた。騎馬が向かうのは国境に向かう方向だ。あちらにはオーリー様達陛下の隊列がある筈……
 暗くて騎馬の詳細までは見えないけれど、隊列を組んでいる様に見えるから正規の騎士だろう。何かあって駆けつけているのだろうか。私たちが街道にいる時は、早馬などは見かけなかったけれど……

「まさか……オーリー様が?」

 暗闇のせいだろうか。嫌な予感が一気に押し寄せてきた。あんな風に騎馬が夜中にかけていくなんて尋常ではない。何か予想しなかったことが起きている可能性もある。

「殿下に何かあったとは思えんせんわ。あんなに護衛を引き連れているのですもの。それに結界もございますし」
「で、でも……」
「アン、落ち着いて。仮に誰かに襲われたとしても、簡単にやられるような殿下じゃありませんから」
「そ、うかしら……」
「そうですよ。それにこの暗闇では詳しいことはわかりませんわ。明日になったら街の者に聞いてみましょう。それに今頃は旦那様の斥候も調べているでしょうし」
「そう、ね……」
「今闇雲に動くのは危険です。明るくなるのを待ちましょう。さ、明日に備えてもう一度眠って下さい。眠れなくてもベッドで体を休めるだけでも違いますから」
「……わかったわ」

 エリーが私を安心させるようにそう言ってくれたけれど、それでも胸騒ぎが止むことはなかった。
でも、確かに今は何も出来ることはないのだろう。お祖父様が貸してくれた諜報を任務とする騎士も一緒に来ているから、きっと今頃は何があったかを調べてくれるはずだ。オーリー様や陛下の無事を祈りながら私はベッドに身を預けた。




しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...