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夜中の異変
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オーリー様が陛下の影武者になる計画は、私たちの予想に反してあっさり了承されてしまった。結局、その後はオーリー様に会うことも叶わず、私たちは三人で王都に向かうことになった。陛下がどうなさるのかは機密事項ということで、この件に関しては何も教えて貰えなかった。
陛下に扮したオーリー様たちが出発する前、私たちは先に王都に向かう様に言われて砦を出た。向こうは騎士団の護衛付きの大人数で動きが遅く、別れてから七日も経てば随分と距離が開いてしまった。こうなるとあちらの状況が全くわからない。
「オーリー様、大丈夫かしら……」
馬車から外を眺めていたら、ついそんな言葉が口から出てきてしまった。
「さぁな。でも、精鋭の騎士が護っているんだろう? 滅多なことはないんじゃないか?」
「そうね。しかもエストレ辺境伯の部隊も護衛に付いているんでしょう? そこに襲撃をかけようなんて命知らずなことはしないでしょ」
ジョエルもエリーも心配ないと一笑した。確かにあの仰々しい護衛を見ればそんな気は失せるかもしれない。でも、滅多に王城の外に、しかもこんなに王都から遠いところに陛下が来ることはない。これをチャンスと狙う者は何としてでも成そうとするだろう。それくらい王都と王宮の警備は厳しいから。
「アンは心配性だなぁ」
「ほんと。特に殿下には過保護ですよね」
「そ、そんなことは……」
「あ~わかるわかる。なんか、弟を心配する姉みたいだよな!」
「は?」
ジョエルがさも当然のようにそんなことを言ったけど、さすがにそれはないだろう。だってオーリー様の方が五歳も年上なんだから。さすがにそんな失礼なことは……
「そうよねぇ。最初は全く興味を示さなかったのに、最近は甲斐甲斐しいというか。ジョエルの言う通り、頼りない弟としっかり者の姉って感じね」
エリーにまで同じことを言われてしまった。そんなつもりはないのだけど……
「まぁ、最初は虚弱でどうしようかと思ったけど、最近はいい感じでしっかりしてきたからなぁ」
「そうね。王都育ちのお坊ちゃんかと思って期待してなかったけど、案外使えそうだし」
「……二人とも、言い過ぎよ……」
さすがにそこまでは……と思ったけど、確かに我が家に来た当初とは別人のように元気になられたと思う。二人の様子からもオーリー様が我が家や領地に受け入れられつつあるのを感じた。それは喜ぶべきだろう。
「まぁ、心配するのは悪いことじゃないわね」
「だよなぁ」
しみじみとそう言う二人に、それってどういう意味なのと聞こうとしたら、護衛がもう直ぐ宿のある街に着きますと声をかけて来たので、その話はそれを聞くことは出来なかった。街から漂う美味しそうな匂いに気を取られたのもある。今日も朝宿を発ってからは街らしい街もなく、お昼も携帯食だったのだ。こんな日が続いたせいか美味しそうな匂いには敏感になっていた。
「明後日には王都に着きそうだな」
「そっか。やっぱりこのメンバーだと早いわね」
行きはオーリー様の体調を見ながらだったから時間がないと言いながらも余裕を持たせていた。でも今回は身内だけなのもあって行きよりもペースが速い。ちょっと無理をすれば明日中に着いてしまうかもしれない。さすがに夜道は危険だからやらないけど。
オーリー様たちは今頃どこにいるのだろうか。予定では十日で王都に着くと聞いていたけれどあの人数だ。もしかするともう少し遅くなるかもしれない。
異変があったのはその日の夜だった。急に街中が慌ただしくなったのだ。何事かと外の様子を眺めると、多くの騎馬が街道をかけていくのが見えた。
「何か、あったのかしら?」
エリーが外を眺めながらつぶやいた。騎馬が向かうのは国境に向かう方向だ。あちらにはオーリー様達陛下の隊列がある筈……
暗くて騎馬の詳細までは見えないけれど、隊列を組んでいる様に見えるから正規の騎士だろう。何かあって駆けつけているのだろうか。私たちが街道にいる時は、早馬などは見かけなかったけれど……
「まさか……オーリー様が?」
暗闇のせいだろうか。嫌な予感が一気に押し寄せてきた。あんな風に騎馬が夜中にかけていくなんて尋常ではない。何か予想しなかったことが起きている可能性もある。
「殿下に何かあったとは思えんせんわ。あんなに護衛を引き連れているのですもの。それに結界もございますし」
「で、でも……」
「アン、落ち着いて。仮に誰かに襲われたとしても、簡単にやられるような殿下じゃありませんから」
「そ、うかしら……」
「そうですよ。それにこの暗闇では詳しいことはわかりませんわ。明日になったら街の者に聞いてみましょう。それに今頃は旦那様の斥候も調べているでしょうし」
「そう、ね……」
「今闇雲に動くのは危険です。明るくなるのを待ちましょう。さ、明日に備えてもう一度眠って下さい。眠れなくてもベッドで体を休めるだけでも違いますから」
「……わかったわ」
エリーが私を安心させるようにそう言ってくれたけれど、それでも胸騒ぎが止むことはなかった。
でも、確かに今は何も出来ることはないのだろう。お祖父様が貸してくれた諜報を任務とする騎士も一緒に来ているから、きっと今頃は何があったかを調べてくれるはずだ。オーリー様や陛下の無事を祈りながら私はベッドに身を預けた。
陛下に扮したオーリー様たちが出発する前、私たちは先に王都に向かう様に言われて砦を出た。向こうは騎士団の護衛付きの大人数で動きが遅く、別れてから七日も経てば随分と距離が開いてしまった。こうなるとあちらの状況が全くわからない。
「オーリー様、大丈夫かしら……」
馬車から外を眺めていたら、ついそんな言葉が口から出てきてしまった。
「さぁな。でも、精鋭の騎士が護っているんだろう? 滅多なことはないんじゃないか?」
「そうね。しかもエストレ辺境伯の部隊も護衛に付いているんでしょう? そこに襲撃をかけようなんて命知らずなことはしないでしょ」
ジョエルもエリーも心配ないと一笑した。確かにあの仰々しい護衛を見ればそんな気は失せるかもしれない。でも、滅多に王城の外に、しかもこんなに王都から遠いところに陛下が来ることはない。これをチャンスと狙う者は何としてでも成そうとするだろう。それくらい王都と王宮の警備は厳しいから。
「アンは心配性だなぁ」
「ほんと。特に殿下には過保護ですよね」
「そ、そんなことは……」
「あ~わかるわかる。なんか、弟を心配する姉みたいだよな!」
「は?」
ジョエルがさも当然のようにそんなことを言ったけど、さすがにそれはないだろう。だってオーリー様の方が五歳も年上なんだから。さすがにそんな失礼なことは……
「そうよねぇ。最初は全く興味を示さなかったのに、最近は甲斐甲斐しいというか。ジョエルの言う通り、頼りない弟としっかり者の姉って感じね」
エリーにまで同じことを言われてしまった。そんなつもりはないのだけど……
「まぁ、最初は虚弱でどうしようかと思ったけど、最近はいい感じでしっかりしてきたからなぁ」
「そうね。王都育ちのお坊ちゃんかと思って期待してなかったけど、案外使えそうだし」
「……二人とも、言い過ぎよ……」
さすがにそこまでは……と思ったけど、確かに我が家に来た当初とは別人のように元気になられたと思う。二人の様子からもオーリー様が我が家や領地に受け入れられつつあるのを感じた。それは喜ぶべきだろう。
「まぁ、心配するのは悪いことじゃないわね」
「だよなぁ」
しみじみとそう言う二人に、それってどういう意味なのと聞こうとしたら、護衛がもう直ぐ宿のある街に着きますと声をかけて来たので、その話はそれを聞くことは出来なかった。街から漂う美味しそうな匂いに気を取られたのもある。今日も朝宿を発ってからは街らしい街もなく、お昼も携帯食だったのだ。こんな日が続いたせいか美味しそうな匂いには敏感になっていた。
「明後日には王都に着きそうだな」
「そっか。やっぱりこのメンバーだと早いわね」
行きはオーリー様の体調を見ながらだったから時間がないと言いながらも余裕を持たせていた。でも今回は身内だけなのもあって行きよりもペースが速い。ちょっと無理をすれば明日中に着いてしまうかもしれない。さすがに夜道は危険だからやらないけど。
オーリー様たちは今頃どこにいるのだろうか。予定では十日で王都に着くと聞いていたけれどあの人数だ。もしかするともう少し遅くなるかもしれない。
異変があったのはその日の夜だった。急に街中が慌ただしくなったのだ。何事かと外の様子を眺めると、多くの騎馬が街道をかけていくのが見えた。
「何か、あったのかしら?」
エリーが外を眺めながらつぶやいた。騎馬が向かうのは国境に向かう方向だ。あちらにはオーリー様達陛下の隊列がある筈……
暗くて騎馬の詳細までは見えないけれど、隊列を組んでいる様に見えるから正規の騎士だろう。何かあって駆けつけているのだろうか。私たちが街道にいる時は、早馬などは見かけなかったけれど……
「まさか……オーリー様が?」
暗闇のせいだろうか。嫌な予感が一気に押し寄せてきた。あんな風に騎馬が夜中にかけていくなんて尋常ではない。何か予想しなかったことが起きている可能性もある。
「殿下に何かあったとは思えんせんわ。あんなに護衛を引き連れているのですもの。それに結界もございますし」
「で、でも……」
「アン、落ち着いて。仮に誰かに襲われたとしても、簡単にやられるような殿下じゃありませんから」
「そ、うかしら……」
「そうですよ。それにこの暗闇では詳しいことはわかりませんわ。明日になったら街の者に聞いてみましょう。それに今頃は旦那様の斥候も調べているでしょうし」
「そう、ね……」
「今闇雲に動くのは危険です。明るくなるのを待ちましょう。さ、明日に備えてもう一度眠って下さい。眠れなくてもベッドで体を休めるだけでも違いますから」
「……わかったわ」
エリーが私を安心させるようにそう言ってくれたけれど、それでも胸騒ぎが止むことはなかった。
でも、確かに今は何も出来ることはないのだろう。お祖父様が貸してくれた諜報を任務とする騎士も一緒に来ているから、きっと今頃は何があったかを調べてくれるはずだ。オーリー様や陛下の無事を祈りながら私はベッドに身を預けた。
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