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いざ、夜会へ
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「オードリック第一王子殿下、並びにその婚約者であるリファール辺境伯アンジェリク嬢、ご入場!」
王宮の夜会は、貴族枠ではなく王族枠での入場となった。どうしてこうなったのかわからない。アデル様、オーリー様と共に王宮に向かい、そのまま控室へと通されて、気が付けば今に至る。ちなみに王族としては国王ご夫妻、王太子殿下ご夫妻に続いての入場で、私たちの後にアデル様が入場された。混乱の極みに放り出されて、足が震えているのがわかる。何なら手だって震えているだろう。
戸惑っているのは来場者も同じらしく、陛下や王太子ご夫妻の入場の時とは明らかに空気が違った。皆、私たちの存在をどう受け止めればいいのかと考えあぐねているのだろう。
「皆の者、よく集まってくれた。今宵は嬉しい知らせがある。長らく療養していたオードリックが回復した」
陛下のその言葉に会場は暫くの間シンと静まり返ったが、次の瞬間、割れるような拍手に覆いつくされた。
「オードリックがここまで回復したのも、リファール辺境伯家の尽力によるものだ。礼を言おう。そして以前も触れを出したが、オードリックとリファール家の息女アンジェリク嬢の婚約をここに宣言する。これは王命である。異議がある者はわしが聞こう」
陛下がそう仰ると、会場内が騒めいた。何人かが顔を見合わせて困惑しているのが見えた。彼らは列の前にいるから身分的にも上の方々だろう。もしかしたらオーリー様を狙っていたのかもしれない。
でも、陛下はこの婚約に文句がある者はご自身に言えと仰ったのだ。私やオーリー様に言っても無駄だと牽制なさったとも言える。
「陛下」
こんな中で一歩前に出て声を上げた男性がいた。年齢は私たちの親世代と同じか、それよりも少し上だろうか。中肉中背で陛下の前でも堂々としていて、不遜ですらあるかもしれない。金色の髪と紫の瞳を持ち、神経質そうな顔立ちをしていた。あの色は、もしかして……
「何だ、ベルクール公爵」
陛下の呼びかけに、ああ、この人が、と理解した。ジョアンヌ様の父で、オーリー様やルシアン様を利用し、我が国の王統に自身の血を入れようと躍起になっているその人だった。
「オードリック様は我が娘を無下に扱い、廃嫡されたお方。そのような方が王籍に名を連ねるのは如何なものかと」
いっそ不敬ですらあるその物言いに、公爵が自身の力に絶大な自信を持っているのだと感じた。オーリー様に毒を盛っていた彼にしてみれば、オーリー様がここにいることは想定外だろうに、そんな素振りを全く見せないのは大したものだな、と思った。
「うむ。その件に関してだが……今宵は五年前の出来事の真相を、皆の前で明らかにしようと思ってこの夜会を開いたのだ」
「……ほう、五年前の? それは……我が愛娘が無下に婚約破棄された例のことを指されているのですかな?」
いっそ挑発的なほどの公爵の言葉に、会場内の皆が息を呑む音が聞こえた気がした。陛下に対してそこまで言い切れるだけの自身と自負があるのだろう。
「無論だ。だがその前に一つ話しておきたい事がある。実は六年前に、リードホルム国王からとある要請があったのだ」
「ほう、要請でございますか」
「うむ。当時彼の国では珍妙な動きがあってな」
「珍妙、でございますか」
「そうだ。皆も知っておろうが、彼の国の王子が婚約破棄をし、平民上がりの娘を妻にと望んだ件だ」
陛下がそう告げると、会場内でざわめきが起きた。それは結構有名な話で、第五王子が男爵上がりの娘と恋仲になり、侯爵家の令嬢に婚約破棄を宣言したのだ。相手が第五王子ということであまり話題にはならなかったけれど、あの事件は確か……
「あの事件では、第五王子がその娘に魅了の術で操られておったことが判明している」
陛下の宣言に、会場が再び騒めいた。確かにあの騒動を知っている者は多いが、その後のことは知られていなかったからだ。陛下によるとリードホルム王がかん口令を敷いていたため、その後の話が人の口に上がることがなかったとも。
「ほう。ではオードリック様はその件をご存じで、魅了の術で操られていたと?」
ベルクール公爵がそう尋ねたけれど、その表情はとても王に向けるものではないだろう。小馬鹿にしたような、そんな表情だった。それだけで不敬罪を問われても仕方ないと思えるほどだ。
「はっはっは、公爵は冗談が好きなようだな」
「まさか……ですがオードリック様は確かに、子爵家の娘と懇意になっておりましたな。まるで第五王子のように」
「うむ。確かにそのように見えただろうな。なにせわしが魅了にかかったように見せかけ、真相を突き止めろと命じたのだからな」
「なっ……」
陛下の言葉に、会場内がシンと静まり返り、公爵の息を呑む声が響いた気がした。公爵にとってはこの話は想定外だったらしい。
「オードリックは王族。しかも高い魔力を持つゆえ、魅了にかかることはない」
「し、しかし……」
「あの頃、子爵令嬢が学園を騒がせていたのは皆も知っての通りだ。その娘を調べたところ……リードホルム王からの情報どおり、魅了の魔道具が見つかった」
「な!」
「まさか?」
「そんなことが……!」
陛下の言葉に又も会場が騒然とした。魅了のことは皆が知っていたけれど、魔道具が使われていたことまでは知らなかったらしい。
王宮の夜会は、貴族枠ではなく王族枠での入場となった。どうしてこうなったのかわからない。アデル様、オーリー様と共に王宮に向かい、そのまま控室へと通されて、気が付けば今に至る。ちなみに王族としては国王ご夫妻、王太子殿下ご夫妻に続いての入場で、私たちの後にアデル様が入場された。混乱の極みに放り出されて、足が震えているのがわかる。何なら手だって震えているだろう。
戸惑っているのは来場者も同じらしく、陛下や王太子ご夫妻の入場の時とは明らかに空気が違った。皆、私たちの存在をどう受け止めればいいのかと考えあぐねているのだろう。
「皆の者、よく集まってくれた。今宵は嬉しい知らせがある。長らく療養していたオードリックが回復した」
陛下のその言葉に会場は暫くの間シンと静まり返ったが、次の瞬間、割れるような拍手に覆いつくされた。
「オードリックがここまで回復したのも、リファール辺境伯家の尽力によるものだ。礼を言おう。そして以前も触れを出したが、オードリックとリファール家の息女アンジェリク嬢の婚約をここに宣言する。これは王命である。異議がある者はわしが聞こう」
陛下がそう仰ると、会場内が騒めいた。何人かが顔を見合わせて困惑しているのが見えた。彼らは列の前にいるから身分的にも上の方々だろう。もしかしたらオーリー様を狙っていたのかもしれない。
でも、陛下はこの婚約に文句がある者はご自身に言えと仰ったのだ。私やオーリー様に言っても無駄だと牽制なさったとも言える。
「陛下」
こんな中で一歩前に出て声を上げた男性がいた。年齢は私たちの親世代と同じか、それよりも少し上だろうか。中肉中背で陛下の前でも堂々としていて、不遜ですらあるかもしれない。金色の髪と紫の瞳を持ち、神経質そうな顔立ちをしていた。あの色は、もしかして……
「何だ、ベルクール公爵」
陛下の呼びかけに、ああ、この人が、と理解した。ジョアンヌ様の父で、オーリー様やルシアン様を利用し、我が国の王統に自身の血を入れようと躍起になっているその人だった。
「オードリック様は我が娘を無下に扱い、廃嫡されたお方。そのような方が王籍に名を連ねるのは如何なものかと」
いっそ不敬ですらあるその物言いに、公爵が自身の力に絶大な自信を持っているのだと感じた。オーリー様に毒を盛っていた彼にしてみれば、オーリー様がここにいることは想定外だろうに、そんな素振りを全く見せないのは大したものだな、と思った。
「うむ。その件に関してだが……今宵は五年前の出来事の真相を、皆の前で明らかにしようと思ってこの夜会を開いたのだ」
「……ほう、五年前の? それは……我が愛娘が無下に婚約破棄された例のことを指されているのですかな?」
いっそ挑発的なほどの公爵の言葉に、会場内の皆が息を呑む音が聞こえた気がした。陛下に対してそこまで言い切れるだけの自身と自負があるのだろう。
「無論だ。だがその前に一つ話しておきたい事がある。実は六年前に、リードホルム国王からとある要請があったのだ」
「ほう、要請でございますか」
「うむ。当時彼の国では珍妙な動きがあってな」
「珍妙、でございますか」
「そうだ。皆も知っておろうが、彼の国の王子が婚約破棄をし、平民上がりの娘を妻にと望んだ件だ」
陛下がそう告げると、会場内でざわめきが起きた。それは結構有名な話で、第五王子が男爵上がりの娘と恋仲になり、侯爵家の令嬢に婚約破棄を宣言したのだ。相手が第五王子ということであまり話題にはならなかったけれど、あの事件は確か……
「あの事件では、第五王子がその娘に魅了の術で操られておったことが判明している」
陛下の宣言に、会場が再び騒めいた。確かにあの騒動を知っている者は多いが、その後のことは知られていなかったからだ。陛下によるとリードホルム王がかん口令を敷いていたため、その後の話が人の口に上がることがなかったとも。
「ほう。ではオードリック様はその件をご存じで、魅了の術で操られていたと?」
ベルクール公爵がそう尋ねたけれど、その表情はとても王に向けるものではないだろう。小馬鹿にしたような、そんな表情だった。それだけで不敬罪を問われても仕方ないと思えるほどだ。
「はっはっは、公爵は冗談が好きなようだな」
「まさか……ですがオードリック様は確かに、子爵家の娘と懇意になっておりましたな。まるで第五王子のように」
「うむ。確かにそのように見えただろうな。なにせわしが魅了にかかったように見せかけ、真相を突き止めろと命じたのだからな」
「なっ……」
陛下の言葉に、会場内がシンと静まり返り、公爵の息を呑む声が響いた気がした。公爵にとってはこの話は想定外だったらしい。
「オードリックは王族。しかも高い魔力を持つゆえ、魅了にかかることはない」
「し、しかし……」
「あの頃、子爵令嬢が学園を騒がせていたのは皆も知っての通りだ。その娘を調べたところ……リードホルム王からの情報どおり、魅了の魔道具が見つかった」
「な!」
「まさか?」
「そんなことが……!」
陛下の言葉に又も会場が騒然とした。魅了のことは皆が知っていたけれど、魔道具が使われていたことまでは知らなかったらしい。
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