【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

文字の大きさ
65 / 107

いざ、夜会へ

しおりを挟む
「オードリック第一王子殿下、並びにその婚約者であるリファール辺境伯アンジェリク嬢、ご入場!」

 王宮の夜会は、貴族枠ではなく王族枠での入場となった。どうしてこうなったのかわからない。アデル様、オーリー様と共に王宮に向かい、そのまま控室へと通されて、気が付けば今に至る。ちなみに王族としては国王ご夫妻、王太子殿下ご夫妻に続いての入場で、私たちの後にアデル様が入場された。混乱の極みに放り出されて、足が震えているのがわかる。何なら手だって震えているだろう。
 戸惑っているのは来場者も同じらしく、陛下や王太子ご夫妻の入場の時とは明らかに空気が違った。皆、私たちの存在をどう受け止めればいいのかと考えあぐねているのだろう。

「皆の者、よく集まってくれた。今宵は嬉しい知らせがある。長らく療養していたオードリックが回復した」

 陛下のその言葉に会場は暫くの間シンと静まり返ったが、次の瞬間、割れるような拍手に覆いつくされた。

「オードリックがここまで回復したのも、リファール辺境伯家の尽力によるものだ。礼を言おう。そして以前も触れを出したが、オードリックとリファール家の息女アンジェリク嬢の婚約をここに宣言する。これは王命である。異議がある者はわしが聞こう」

 陛下がそう仰ると、会場内が騒めいた。何人かが顔を見合わせて困惑しているのが見えた。彼らは列の前にいるから身分的にも上の方々だろう。もしかしたらオーリー様を狙っていたのかもしれない。
 でも、陛下はこの婚約に文句がある者はご自身に言えと仰ったのだ。私やオーリー様に言っても無駄だと牽制なさったとも言える。

「陛下」

 こんな中で一歩前に出て声を上げた男性がいた。年齢は私たちの親世代と同じか、それよりも少し上だろうか。中肉中背で陛下の前でも堂々としていて、不遜ですらあるかもしれない。金色の髪と紫の瞳を持ち、神経質そうな顔立ちをしていた。あの色は、もしかして……

「何だ、ベルクール公爵」

 陛下の呼びかけに、ああ、この人が、と理解した。ジョアンヌ様の父で、オーリー様やルシアン様を利用し、我が国の王統に自身の血を入れようと躍起になっているその人だった。

「オードリック様は我が娘を無下に扱い、廃嫡されたお方。そのような方が王籍に名を連ねるのは如何なものかと」

 いっそ不敬ですらあるその物言いに、公爵が自身の力に絶大な自信を持っているのだと感じた。オーリー様に毒を盛っていた彼にしてみれば、オーリー様がここにいることは想定外だろうに、そんな素振りを全く見せないのは大したものだな、と思った。

「うむ。その件に関してだが……今宵は五年前の出来事の真相を、皆の前で明らかにしようと思ってこの夜会を開いたのだ」
「……ほう、五年前の? それは……我が愛娘が無下に婚約破棄された例のことを指されているのですかな?」

 いっそ挑発的なほどの公爵の言葉に、会場内の皆が息を呑む音が聞こえた気がした。陛下に対してそこまで言い切れるだけの自身と自負があるのだろう。

「無論だ。だがその前に一つ話しておきたい事がある。実は六年前に、リードホルム国王からとある要請があったのだ」
「ほう、要請でございますか」
「うむ。当時彼の国では珍妙な動きがあってな」
「珍妙、でございますか」
「そうだ。皆も知っておろうが、彼の国の王子が婚約破棄をし、平民上がりの娘を妻にと望んだ件だ」

 陛下がそう告げると、会場内でざわめきが起きた。それは結構有名な話で、第五王子が男爵上がりの娘と恋仲になり、侯爵家の令嬢に婚約破棄を宣言したのだ。相手が第五王子ということであまり話題にはならなかったけれど、あの事件は確か……

「あの事件では、第五王子がその娘に魅了の術で操られておったことが判明している」

 陛下の宣言に、会場が再び騒めいた。確かにあの騒動を知っている者は多いが、その後のことは知られていなかったからだ。陛下によるとリードホルム王がかん口令を敷いていたため、その後の話が人の口に上がることがなかったとも。

「ほう。ではオードリック様はその件をご存じで、魅了の術で操られていたと?」

 ベルクール公爵がそう尋ねたけれど、その表情はとても王に向けるものではないだろう。小馬鹿にしたような、そんな表情だった。それだけで不敬罪を問われても仕方ないと思えるほどだ。

「はっはっは、公爵は冗談が好きなようだな」
「まさか……ですがオードリック様は確かに、子爵家の娘と懇意になっておりましたな。まるで第五王子のように」
「うむ。確かにそのように見えただろうな。なにせわしが魅了にかかったように見せかけ、真相を突き止めろと命じたのだからな」
「なっ……」

 陛下の言葉に、会場内がシンと静まり返り、公爵の息を呑む声が響いた気がした。公爵にとってはこの話は想定外だったらしい。

「オードリックは王族。しかも高い魔力を持つゆえ、魅了にかかることはない」
「し、しかし……」
「あの頃、子爵令嬢が学園を騒がせていたのは皆も知っての通りだ。その娘を調べたところ……リードホルム王からの情報どおり、魅了の魔道具が見つかった」
「な!」
「まさか?」
「そんなことが……!」

 陛下の言葉に又も会場が騒然とした。魅了のことは皆が知っていたけれど、魔道具が使われていたことまでは知らなかったらしい。




しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...