87 / 107
現れた人影
そよ風に揺れるカーテンのように光の幕が揺れながら消えると、辺りは再び闇に包まれた、はずだった。二番目の要が光らなければ。
「こ、れは……」
「アンジェリク様? 一体何が?」
「……」
エドガール様に尋ねられたけれど、私には答えられる何かを持っていなかった。こんなことは初めてだったからだ。
(何、が起きている、の……?)
目の前でその存在感を示すのは、焔のように揺らめく光を纏う二番目の要と、その中に透けて見える、眠っている誰かの姿だった。
(だ、誰……?)
期待と不安と、違った時に感じるだろう失望に慄いた。この状況下で思い当たる人物は一人だけで、でも、絶対とは限らなくて。
「アンジェリク様、あれは……!」
どうやらエドガール様にも何かが見えたらしい。その声の隠し切れない渇望した何かを感じる。期待に胸が弾みそうになるのを、必死に抑えようとするせいか、私の鼓動が信じられないくらいに高まった。
「オーリー……様?」
そうだろうか、そうあって欲しい、そんな思いを込めて呼びかけたけれど、それはまだ眠っているように見えた。何が起きているのかわからないけれど、何かが起きようとしているのだけは感じた。
「オードリック様!!」
事態が飲みきれない私と違い、エドガール様は真っ直ぐに動いた。その人影に大きな声で呼びかけた。
「アン?」
「どうした?」
「殿下が見つかったのか!?」
エドガール様の大声は、少し離れた場所で野営の準備をしていた三人にも届いたらしい。手を止めて慌ててこちらに向かってくる気配と靴音がした。側までくると、揺らめくように光を発する要に息を呑んだ。
「な……これって……」
「何が起きているんだ?」
「あれは……人か!?」
どうやら三人にも私が見ているものが見えるらしい。私にしか見えない魔力の残存か何かかと持っていたけれど、それは私が見たような人型として目の前に存在していた。じわじわと期待が膨らむのを抑えられない。
「な、何だよ……これ……」
「中に見えるのは……人間?」
ジョエルとエリーも初めて見る光景に顔を引き攣らせていた。魔術と関りの少ない彼らにとっては何が起きているのか全く分からないだろう。私にだってわからないのだ。
「あれ、殿下か?」
「ジョエル殿もそう思うか?」
「え? あ、ああ。だってここ、殿下が消えた場所だろ?」
エドガール様の鬼気迫る問いかけに、ジョエルが狼狽えながらもそう答えた。確かにこの状況下ではそう思っても仕方がないだろう。だって、私だって……
「だったら起こすまでだ! おい! 殿下! 起きろよ!!」
「そうよ! 三年も眠っていたなんて寝坊よ!」
「殿下、目覚めて下さい!」
皆が皆、思い思いにその人影に語りかけた。ううん、これはもう、怒鳴っていると言ったほうが正しいかもしれない。ジョエルとエドガール様の声が大き過ぎて静寂の森が悲鳴を上げているようにも感じた。
「ちょっと、アン。何したらこうなったのよ?」
「な、何って……」
「そうです、アンジェリク様! こうなったきっかけは何ですか?」
「何って……ちょっと魔力を、流して……」
皆に問い詰められて、あまりにも激しいその剣幕に思わず一歩下がってしまった。
「だったら、もっと流してみて!」
「え?」
「え、じゃなくて。アンが魔力を流したからこうなったんでしょ? だったらもっと流せば情況が変わるんじゃないの?」
「え? あ……」
「そうだよ! ほら、せっかくのチャンスなんだ。消える前にやってくれよ!」
「う、うん……」
そう言う問題じゃないように思ったけれど、皆の勢いに負けて魔力をもう一度流しこんだ。今度はさっきの倍くらいの領だ。そうすると再び結界がカーテンのように輝いて揺れ、魔石を中心に光が増して……中にいる人影が一層濃くなった気がした。
「ほら! さっきよりもはっきりしてきたわ! もっとよ!」
「頑張って下さい、アンジェリク様!! ここが正念場です!」
「ぶっ倒れたら背負ってでも連れて帰ってやるよ!」
確かにこれはチャンスで、もしかしたら最初で最後かもしれない。既にかなりの量の魔力を流したけれど、流せば流すほどに実体化しているようにも見える。そう思った私は……オーリー様でありますようにと願いながら、ありったけの魔力を流し込んだ。
「ええっ?!」
「なんだ?!」
「こ、これは……!!!」
一瞬魔石がカッと明るく光ったと思ったら、何かが要の上の方からゆっくりと剥がれ落ちるように現れた。咄嗟に最前列で魔石の前に跪いていたエドガール様が、その何かを受け止めた。
「なんだよ、これ!」
「……殿下?」
「オードリック様?!」
人影が剥がれ落ちると、それまで要が放っていた淡く光がすっと消えて、周りは再び暗闇に包まれた。
「今日は月もなかったな」
光が消えた森は、最初よりも一層暗く感じた。
「おい、誰か灯りを!」
ジョエルの声に私は魔力で光の玉を作り出すと、エドガール様が抱きかかえている人物の元に近付けた。
「こ、れは……」
「アンジェリク様? 一体何が?」
「……」
エドガール様に尋ねられたけれど、私には答えられる何かを持っていなかった。こんなことは初めてだったからだ。
(何、が起きている、の……?)
目の前でその存在感を示すのは、焔のように揺らめく光を纏う二番目の要と、その中に透けて見える、眠っている誰かの姿だった。
(だ、誰……?)
期待と不安と、違った時に感じるだろう失望に慄いた。この状況下で思い当たる人物は一人だけで、でも、絶対とは限らなくて。
「アンジェリク様、あれは……!」
どうやらエドガール様にも何かが見えたらしい。その声の隠し切れない渇望した何かを感じる。期待に胸が弾みそうになるのを、必死に抑えようとするせいか、私の鼓動が信じられないくらいに高まった。
「オーリー……様?」
そうだろうか、そうあって欲しい、そんな思いを込めて呼びかけたけれど、それはまだ眠っているように見えた。何が起きているのかわからないけれど、何かが起きようとしているのだけは感じた。
「オードリック様!!」
事態が飲みきれない私と違い、エドガール様は真っ直ぐに動いた。その人影に大きな声で呼びかけた。
「アン?」
「どうした?」
「殿下が見つかったのか!?」
エドガール様の大声は、少し離れた場所で野営の準備をしていた三人にも届いたらしい。手を止めて慌ててこちらに向かってくる気配と靴音がした。側までくると、揺らめくように光を発する要に息を呑んだ。
「な……これって……」
「何が起きているんだ?」
「あれは……人か!?」
どうやら三人にも私が見ているものが見えるらしい。私にしか見えない魔力の残存か何かかと持っていたけれど、それは私が見たような人型として目の前に存在していた。じわじわと期待が膨らむのを抑えられない。
「な、何だよ……これ……」
「中に見えるのは……人間?」
ジョエルとエリーも初めて見る光景に顔を引き攣らせていた。魔術と関りの少ない彼らにとっては何が起きているのか全く分からないだろう。私にだってわからないのだ。
「あれ、殿下か?」
「ジョエル殿もそう思うか?」
「え? あ、ああ。だってここ、殿下が消えた場所だろ?」
エドガール様の鬼気迫る問いかけに、ジョエルが狼狽えながらもそう答えた。確かにこの状況下ではそう思っても仕方がないだろう。だって、私だって……
「だったら起こすまでだ! おい! 殿下! 起きろよ!!」
「そうよ! 三年も眠っていたなんて寝坊よ!」
「殿下、目覚めて下さい!」
皆が皆、思い思いにその人影に語りかけた。ううん、これはもう、怒鳴っていると言ったほうが正しいかもしれない。ジョエルとエドガール様の声が大き過ぎて静寂の森が悲鳴を上げているようにも感じた。
「ちょっと、アン。何したらこうなったのよ?」
「な、何って……」
「そうです、アンジェリク様! こうなったきっかけは何ですか?」
「何って……ちょっと魔力を、流して……」
皆に問い詰められて、あまりにも激しいその剣幕に思わず一歩下がってしまった。
「だったら、もっと流してみて!」
「え?」
「え、じゃなくて。アンが魔力を流したからこうなったんでしょ? だったらもっと流せば情況が変わるんじゃないの?」
「え? あ……」
「そうだよ! ほら、せっかくのチャンスなんだ。消える前にやってくれよ!」
「う、うん……」
そう言う問題じゃないように思ったけれど、皆の勢いに負けて魔力をもう一度流しこんだ。今度はさっきの倍くらいの領だ。そうすると再び結界がカーテンのように輝いて揺れ、魔石を中心に光が増して……中にいる人影が一層濃くなった気がした。
「ほら! さっきよりもはっきりしてきたわ! もっとよ!」
「頑張って下さい、アンジェリク様!! ここが正念場です!」
「ぶっ倒れたら背負ってでも連れて帰ってやるよ!」
確かにこれはチャンスで、もしかしたら最初で最後かもしれない。既にかなりの量の魔力を流したけれど、流せば流すほどに実体化しているようにも見える。そう思った私は……オーリー様でありますようにと願いながら、ありったけの魔力を流し込んだ。
「ええっ?!」
「なんだ?!」
「こ、これは……!!!」
一瞬魔石がカッと明るく光ったと思ったら、何かが要の上の方からゆっくりと剥がれ落ちるように現れた。咄嗟に最前列で魔石の前に跪いていたエドガール様が、その何かを受け止めた。
「なんだよ、これ!」
「……殿下?」
「オードリック様?!」
人影が剥がれ落ちると、それまで要が放っていた淡く光がすっと消えて、周りは再び暗闇に包まれた。
「今日は月もなかったな」
光が消えた森は、最初よりも一層暗く感じた。
「おい、誰か灯りを!」
ジョエルの声に私は魔力で光の玉を作り出すと、エドガール様が抱きかかえている人物の元に近付けた。
あなたにおすすめの小説
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。