番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

文字の大きさ
48 / 85
連載

帰国に向けて

しおりを挟む
 その日の午後、私はジーク様と他国の賓客と歓談するための部屋にいました。明日にはマルダーンの父王たちが帰国するので、最後の挨拶をするためでした。さすがに父王だけでなく王太子まで国を空けているのはよくないという事で、まずは異母兄が先行して戻り、その後を父王が王妃とカミラを連れて戻るのだと聞きました。異母兄は母国に先に戻って、王妃たちの糾弾の準備をするのだそうです。

「ジークヴァルト陛下、今回は度重なる非礼、すまなかった」
「いや、済んだ事は何も言わぬ。こちらとしては同盟の維持を確認出来た上、王妃と王女を罰すると約束してくれただけで十分だ」

 父王の謝罪に、ジーク様はそう答えました。こちらとしては同盟を維持するとはっきり示されたのは大きいようです。それに、王妃とカミラの処分も。二人にはセーデン国からも正式な抗議がなされるので、国に帰ったら一波乱ありそうです。

「王妃もカミラも、反省の色が見えないのが残念だ…」
「左様ですか」

 どうやら貴族牢に入れられた二人は、全く反省していないようです。まぁ、あの性格では難しいでしょうが、でも他国で無礼を働いた事は非常に問題です。騒がずに大人しく貴族牢に入ったので、他国にこの事が知られるのは避けたいとの理性は働いているようですが…
 でも、王妃の力は大きいので大丈夫だろうかとの懸念はあります。異母兄の話では国内にも王妃派をよく思わない貴族も多いので、何とかなるだろうとの事ですが…何とかならなかったらどうするのかとも思います。
 でも、この先は私にどうこう出来る事もありませんわね。何かあったら協力は惜しみませんが…まずは父王と異母兄のお手並み拝見となりそうです。
 異母兄の話では、王妃は廃妃に、カミラも王女の身分剥奪の上、厳しい修道院送りになるだろうとの事でした。王妃の実家は不正の証拠が既に集まっているので、いずれ罪を明確にした後取り潰す予定だとか。それらが終わった後に父王は退位し、異母兄が即位するそうです。
 異母兄には来年には子供も生まれますし、妃との関係も良好で、妃の実家は良識派筆頭のような侯爵家だそうです。ラルセンやセーデン、フェセンは異母兄を支持すると約束しているので、滅多な事はないでしょう。




「エリサ様、お茶など如何ですか?」

 父王たちとの歓談を終えた私がジーク様と一緒に部屋に戻る途中、マリーア様に声を掛けられました。マリーア様は先ほどまで婚約者であるルーズベールの王子と会っていたそうですが、これから王子は他国との話合いがあるとかで時間が空いたそうです。近々帰国するので、もう一度ゆっくり話がしたかったのだと言われれば、私も否やはありません。
 そういう事なら…と私は自室にお誘いしました。ジーク様は部屋まで送って下さると、他の予定があるからと行ってしまいました。今は帰国する王族たちとの最後の話合いや挨拶が目白押しなのだそうです。
 お茶を淹れて貰ってすぐ、私は先日の王妃とカミラの不敬をお詫びしましたが、それに関しては私のせいではないから気にしないで欲しいと言われてしまいました。むしろ私も二人を煽った面もあるから同罪だとも。でも、あれは私を守るためにして下さった事なので、マリーア様に非はないでしょう。

「マリーア様はルーズベールのユリウス殿下と婚約されているのですよね?」
「ええ、そうね。政略ですけれどね」

 気になったので聞いてみたところ、マリーア様の声は予想外に固いものでした。何と言いますか…あまり嬉しくないような感じ?でしょうか…マリーア様の初恋はジーク様だったので、もしかしたらこの様な質問はお気に障ったかもしれませんね。

「ああ、エリサ様、ごめんなさいね。エリサ様のせいではないの。私、ユリウス王子が好きになれなくって…」

 マリーア様は婚約者のユリウス王子をよく思っていませんでした。この前見かけた時はそれなりにいい雰囲気だと思っていただけに意外です。ですが…

「あの人、自国に長年付き合っている恋人がいるのよ。もう…三年になるかしら?」
「ええ?」
「私には隠してはいるけど、国内では有名な話らしくって調査したらすぐにわかったわ。婚約を解消したいけど、母王は王配が三人いるせいか、愛人の一人や二人で騒ぐことはないって言うし…」
「そんな…」
「兄は協力してくれるとは言っているけど、実のところルーズベールとの関係を強めたいのもあって、中々ね…」

 どうやら国土柄、食糧問題が尽きないセーデンは、農業国でもあるルーズベールとの関係を強めたいのでしょう。一方で、ルーズベールが他国を属国にしようとの野心をのぞかせている事に警戒しているようです。マルダーンもそれを感じ取って、ラルセンとの同盟を結んだ経緯もあるので余計にそう感じるのでしょう。そしてルーズベールの野心の元は、マリーア様の婚約者でもあるユリウス王子だと言われています。

「誰か、上位種の獣人が私を番だとでも言ってくれたら、いいのでしょうけど…」
「番ですか?」
「ええ。番となれば母王も何も言わないわ。あの人、王配が三人もいるのに未だに番を求めていますのよ」

 なんと、国同士の政略結婚でも、番の方が上なのですね…って、よく考えれば私もそうでしたわね。だったら、マリーア様にとって好ましい方が番だと言って下さればいいのでしょうか…あれ?でもそう言えば…

「マリーア様、確かお小さい頃に番だと言ってきた、あの虎人の方はどうなったのです?」

 そうです、確かマリーア様は子どもの頃に虎人の騎士から番だと言われて求婚されていたと聞きました。その方ではだめなのでしょうか。

「あの方は…もう、いらっしゃらないの」
「いらっしゃらない?」
「ええ、あの方は…私に釣り合う地位を手に入れるのだと言って前線に出て…それっきり帰ってこなかったの」

 ぽつりぽつりと、マリーア様は昔を思い出す様に話をしてくれました。伯爵家の次男だったその虎人の騎士は、王女の夫に相応しい地位を手に入れようと、前線に志願されたそうです。そうする事が出世には一番手っ取り早かったからです。
 また、その頃は自分を怖がるマリーア様と少し離れて、成長するまで待つ気持ちもあったのでしょう。近くに居れば手に入れたくなりますが、さすがにまだ幼女相手にそういう訳にもいかなかったからです。
 しかし…前線に行って二年目のある日、敵の急襲を受けた部隊は大打撃を被り、その虎人は仲間を庇って大怪我を負い、そのまま帰らぬ人になったのだそうです。

「子供だったから…あの怖い人がもう来ないと思って、あの時はホッとしたの。今にして思えば…あの人は私を大切に想っていてくれたのでしょうね。申し訳ない事をしたわ…」
「でも、マリーア様のせいでは…」
「そうかもしれないけど…私が怖がらなければ、あの人は王都を離れる事もなかったかもしれない。そうしたら…まだ生きていたかもしれないわ」

 目を伏せてそう告げたマリーア様に、私はかける言葉が見つけられませんでした。マリーア様も相手の虎人の方も悪くないと思います。ただ、出会った時期が早過ぎたのでしょう。もしマリーア様が成長してから出会っていたら、違う未来があったように感じます。でも、それも今更なのでしょうね。

「失礼します、エリサ様。あの、エリサ様にお会いしたいという方が…」

 マリーア様の告白の後、声をかけそびれていた私に声をかけたのは、いつも側に控えて下さっている侍女さんでした。今日は人に会う予定などなかった筈なので、急な申し出でしょうか。もしかして異母兄でしょうか?

「どなたがそう仰っているの?」
「それが…」

 侍女が言い難そうに告げた相手は、ルーズベールのユリウス王子でした。

「ユリウス王子が?」
「ええ。一度ご挨拶がしたいと」

 私は思わずマリーア様やベルタさん達と顔を見合わせました。この部屋には女性は招待しても、男性が入る事をジーク様はお許しになっていません。そもそも、男性との面会はジーク様が許可して下さらないと無理なのです。
 侍女さんにユリウス王子にはそう告げるように伝えましたが、帰ってきた返事はジーク様が会議中で取次できない、でも、こちらも時間がないので一目ご挨拶だけでも、というものでした。
 困りましたわね…ジーク様のお許しもなくお会いするのはどうかと思いますし、私もあまり会いたくはないのですが…

 仕方なくルーベルト様に相談すると、ルーベルト様も難色を示しました。獣人が番に他の男性と合わせたがらないのは当然だからです。ルーベルト様やレイフ様などの側近や父王や異母兄などは別ですが、それ以外の男性が私に近づくのを、ジーク様は酷く警戒されます。特に今は結婚式での襲撃犯の身元も判明していないだけに尚更です。
 一方で、気付いてしまう獣人は別としても、他国には私が番だとはまだ公表していません。そのため、番でないのだからいいだろうとユリウス王子が考えても仕方のない事ではあります。
 とにかく、全てはジーク様のご判断を仰いでから…と私が重ねて言ったのですが…

「やぁ、エリサ王妃陛下。突然訪問したご無礼、お許しください」

 そう言ってドアから現れたのは、何とユリウス王子でした。

しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。