番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
52 / 85
連載

王子と王女の罪

しおりを挟む
 騒ぎはそれから三日後に起こりました。なんと、ユリウス王子が収容されていた貴族牢から火の手が上がったのです。監視していた騎士が焦げ臭いと直ぐに気が付いて消火にあたったのですが、その騒ぎの間にユリウス王子は逃げ出したそうです。
 しかし、ラルセンの騎士は獣人が殆どで、腕力だけでなく嗅覚や聴力、視力も人族よりずっと上です。その為、その足取りは直ぐにわかって発見されたのですが…ユリウス王子がいたのは、なんとカミラが収容されていた貴族牢だったのです。

「一体どうして王子が、カミラの部屋に…」
「それはこれから調べる事になるだろう。だが、あの二人が通じていた証拠が上がっているんだ」
「そんな…」

 ジーク様から聞かされた話は、私の想定のかなり上をいっていました。あのカミラがユリウス王子と通じていたなんて意外過ぎです。確かにマルダーンとルーズベールは昔から人族の王族という事で交流があり、昔から王族同士で婚姻を結んできましたし、ユリウス王子の婚約者候補の中には、カミラの名前もあったと聞きます。でも…

「カミラ王女が披露パーティーに出て来られたのも、ユリウス王子が絡んでいたんだ。王子は部屋に一人残っていた王女を連れ出して、自分のパートナーとして会場に入ったらしい。さすがに他国の王族のパートナーだと言われれば、こちらとしては何も言えないから」
「でも、マリーア様という婚約者がいらしたのに…」
「マリーアはエーギルと共に参加していたし、婚約してはいても決して仲がいいとは言えなかった。一方でユリウス王子は、異例な事に今回はパートナーを伴って来なかった。だからこちらも連れだと言われればそれ以上は追及出来なかったんだ」

 カミラがどうして会場に出てこられたのか不思議でしたが…それもユリウス王子が絡んでいたとなれば納得です。でも、どうやって連絡を取り合っていたのでしょうか…

「二人ともこの国に来たのは早い方だったし、ユリウス王子は一時期マルダーンに留学していたから、マルダーンの王太子とも顔見知りだったんだ。多分、カミラ王女とも面識があったのだろうな。式までの間、連絡を取り合っていても不思議ではない」
「そうですか…」

 私は王宮に近づく事も滅多になかったので知りませんでしたが、ユリウス王子はマルダーンに留学している時期もあったのですね。それなら、王子が私の元に押しかけて来たのも納得です。きっとカミラから私の事を聞いて、どんな奴かと見に来たのでしょう。そして私を下に見て、御しやすいと思っていたのでしょう。もしかしたら利用しようと考えていたのかもしれませんね。

 ジーク様のお話では、ユリウス王子はあれから結婚式当日の火矢の件も含めて事情聴取されたそうです。その調査も昨日にはほぼ終わり、あの件にユリウス王子が絡んでいた事が明らかになりました。王子の目的はベルタさんも言っていた通り、ラルセンとマルダーンの同盟阻止でした。
 しかし、火矢を放っても私が傷つくことはなく、結婚式も滞りなく終わりました。ユリウス王子は式でもその後の披露パーティーでも色々と企んでいたそうですが、それらは厳重な警備の中では実行する事が出来ず、私が私室に戻る時の襲撃も失敗に終わりました。
 その時に捕えられた者達は自死したため、証拠を残していないとユリウス王子は高を括っていたそうですが、その者達が身に着けていた物の中に、ルーズベールでしか使われていない物が複数あり、それらは王子の従者たちも持っている物だったのです。

 一方のカミラの持ち物から、ユリウス王子からの手紙がいくつも見つかったそうです。その中には私を害し、カミラを代わりにするという計画を記すものもあったのだとか。ただそれはジーク様だけでなく異母兄や父王によって拒否されたため、実現しなかったそうです。
 また、火矢を放つ事を言い出したのはカミラで、ジーク様の正妃になるために私を確実に殺そうとしていたそうです。カミラは自分が嫁ぐ事が両国の同盟を強化させると信じていたそうです。
 でも、ユリウス王子の方は花嫁の交換などあり得ないと最初から考え、私を害して同盟破棄に持って行きたかったのだとか。ただ、我が国の警備が想像以上に厳しく、思い通りに事が進まなかったため、最終的には直接私を害しようと部屋に押しかけたそうです。

「ユリウス王子もカミラ王女も、今のところ罪を認めてはいないが、周りの者達は白状している上、証拠も揃った。言い逃れは出来ないだろう」
「そう、ですか…」

 あの二人が罪を認めるとは全く思えませんが…それでも有罪に出来るだけの材料がある事に私はホッとしました。カミラの性格からしても、こうなっては実力行使で突撃してくるか、想像を超える事をしでかしそうな気がしたからです。有罪と確定して牢に居れば、一先ずは安全でしょう。
 父王もカミラのした事を見過ごす事はしないと言っていましたし、こうなってはもう、父王も庇い切れないでしょう。事は他国との関係にも影響し、ここで実子だからと甘い顔をすれば、他国の不信を招いて国としての信用が著しく損なわれるからです。先日話をした父王や異母兄の様子からも、そんな事を良しとする事はないように思います。

「それで…カミラ達はどうなるのです?」
「他国の、既に王妃でもあるエリサを害しようとしたのだ。十分不敬罪に問えるだろう。ユリウス王子も同様だ。あとは、マルダーンやルーズベールがどう出るかによるだろう」
「不敬罪ですか……」
「マルダーン国王は致し方ないとのお考えだ」
「父が?」
「王妃の実家の力を削ぐためにも、この件は厳しく対応すると仰っている。我が国で裁く事も容認なさっているが、一方でそうすればマルダーンの民意が反ラルセンになるのではと危惧されている」
「民意ですか…」
「ああ。マルダーンは獣人差別が強い国だから、ラルセンへの心情は決して良くない。そこに自国の王女が処刑されたとなれば、あまりいい結果にはならないだろう」
「そう、ですわね。確かに…」
「カミラ王女に関しては、自国に戻ってからマルダーン国王が処罰される方がラルセンにも益がある。仮に罰が軽くとも、それはマルダーンへの不信感が強まるだけで、我が国に害はない。貴女は納得できないかもしれないが…私としては我が国が不利になる事は避けたいと考えている」

 なるほど、ジーク様はラルセンの王ですから、自国の利益を最大限にお考えになるのは当然の事でしょう。カミラの事は腹立たしいですが、だからと言ってこの国で裁けば、禍根が残るのは間違いありません。そして、両国間の民意の悪化も避けたいところです。それでなくても両国間の感情は決してよくはないのですから。
 それに、王妃とその実家を追い詰めるのであれば、母国で裁いた方がずっと効果的なのでしょうね。だとすれば、カミラは母国で裁いて貰った方が何かと都合がよさそうです。

「ジーク様の仰る通りですわ。私も、ラルセンに不利になる事は避けたいですし、出来れば両国民の感情を大事にしたいと思います。ですから、ジーク様の良い様にお取り計らい下さい」
「…すまない」

 ジーク様が謝られましたが…私もラルセンの王妃なのです。カミラの事は確かに嫌いですし、厳しい修道院で一生過ごせばいいと思いますが、命を奪うほどかと言われれば…一応半分は血の繋がった姉ですし、そこまでは…との思いもあります。それに、処刑した後の後味の悪さは何とも言い難いです。
 一方で、無罪放免はあり得ませんし、他国の王妃殺害未遂となれば、死罪が一般的でしょう。それを父王が認めるのなら、仕方ないとも思います。どちらにしても、ラルセンで裁くのは避けたいですわね。私の逃げかもしれませんが…こうなっては父王や異母兄のやろうとしている事に役立ててくれれば、と思ってしまいます。

「ユリウス王子はどうなのですか?」
「王子も全く反省の色が見えないが、既に側近や従者は罪を認めている。何度諫めても聞き入れられなかったと嘆いているし、自国でもそうだったらしい。まぁ、話をしていると何と言うか…独特の感性を持っている様で、話が噛み合わなくてな…」

 どうやらジーク様もユリウス王子の独特の物差しと言いますか、持論が理解出来ないご様子です。でも、私も同感ですわ。あの方は何を言っても自分の都合のいい事しか聞き入れない耳をお持ちのようですから、自分が悪い事をしたと思っていないような気もします。むしろ自国のためにやったのだから評価されて当然と言いそうな気がします。それってラルセン側からしたら迷惑でしかないのですが、そんな事は気にされないのでしょうね。

「ルーズベールには使者を送ったところだ。王子をどうするかは彼の国の判断にもよるだろう」

 なるほど、確かに他国の王子の事ですから、ラルセン側の主張だけで事を進める訳にもいきませんわね。出来れば国外追放にして二度とラルセンには来ないで欲しいですが…ついでにマリーア様との婚約も解消にならないでしょうか。あんな方が夫になるなんて、不幸になるとしか思えませんから。

しおりを挟む
感想 822

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。 そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。 お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。 愛の花シリーズ第3弾です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。