番が見つかったら即離婚! 王女は自由な平民に憧れる

灰銀猫

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帰国する人々

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「ええっ?カミラをラルセンで断罪出来ないんですか?」

 ジーク様が執務に向かわれた後でラウラ達にこの話をしたところ、ラウラが納得出来ないと語気を強めてきました。積もりに積もった母国でのカミラの嫌がらせを思えば、余計にそう感じても仕方がないでしょう。

「でも、仕方がないわ。他国の王族をラルセンが処刑するのはリスクが高いもの」
「だね。私も断罪劇は見たかったけど、下手すると戦争になるし。そうなれば私達も前線に行かなきゃいけなくなるかもしれないから…」
「うう、それは困りますが…でも悔しいです…」

 ラウラが言いたい事はとてもよくわかりますが、さすがに戦争になるのは避けたいです。そうなればジーク様だけでなくレイフ様やベルタさん、ルーベルト様も前線に行かなければいけなくなるかもしれませんし、そうでなくても誰かが傷つく事になります。あのカミラのために誰かが傷つくなんて…正直言ってカミラにそんな価値はありません。

「目の前で這いつくばらせてやりたかったのに…」
「あ~うん、そうだね。エリサ様の前で陛下に思いっきり拒否されて地団駄踏むの、見たかったかも…」
「そうですよ。死刑宣告されて、泣いて命乞いする姿も見たかったです」
「もう、二人とも悪趣味よ。でも、気持ちはわかるけれど…」

 ユリア先生まで、二人を窘めるかと思いきや同意していました。どうやら皆さん、カミラの事は随分腹立たしく思っていたのですね。そんな風に思って下さっただけでも、私の溜飲が下る気がしました。だって、あのカミラにはこんな風に親身になってくれる友達がいる様には見えませんから。そういう意味では、未だに婚約者もいないカミラはもしかするとあまり幸せではなかったのかもしれません。だからと言って、今までされた事を水に流す事など出来そうもありませんが…

「カミラには相応の罰を与えると、父王や異母兄は言っていましたわ。だから、このまま無罪放免はない筈よ。そんな事をしたら同盟にひびが入るし、父王たちは王妃とその実家のこれまでの不正なども暴いて、追放するつもりのようよ」
「そうですか…その断罪劇も見たかったです!いっそ死刑になればいいのに」

 ラウラはどうしても許しがたいのでしょうね。私は…いざとなると怖気づいてしまうみたいで、死罪と言われると躊躇してしまいます。

「でもまぁ、カミラ王女だけでなくユリウス王子の非常識さも他国にも知れてしまったから、あの二人が無罪放免はないと思うよ」
「そうね、あれだけ他国から言われたら、ルーズベールも無視も出来ないだろうし」
「あとは、ルーズベールの王族がユリウス王子と同類でない事を祈るしかないね」
「ああ、それは確かに…」

 ユリア先生とベルタさんの話を聞きながら、私はその可能性について考えてしまいました。確かにあの国の王族が同じ様な思考回路だったら…かなり怖いですわね。話が通じない相手があんなにも怖いとは思いませんでしたし、それが王族ともなれば厄介極まりないですから。
 そういう意味ではカミラなんて考えている事が丸わかりでしたから、ある意味安心でしたわね。まぁ、時々突拍子もない事をしますが、それでも目的はわかる分だけマシです。




 それからさらに二日後、挨拶に訪れたのはマリーア様でした。

「明日には帰国しますわ」

 エーギル様と一緒に挨拶に来られるかと思っていましたが、来られたのはマリーア様お一人でした。先日のユリウス王子の突撃もあって、エーギル様は遠慮されたそうです。あの後ユリウス王子を伴って会議に戻ったジーク様の怒りは相当なもので、虎人のエーギル様ですら身の危険を感じたのだとか。ジーク様は竜人にしては珍しく独占欲が弱いのだと思っていたそうですが、それが勘違いだと気が付いてしまった以上、エーギル様は私との接触は避けたいと言われたそうです。

「せっかく仲良くなれましたのに…残念ですわ」
「私もです。でも、また遊びに来ますわ」
「ええ、是非いらしてくださいね」

 お互いに簡単に国外に出られる立場ではないので、次にお会い出来るのはいつになるでしょうか。それにマリーア様もいずれは、ルーズベールに輿入れするかもしれないのですよね。そうなってしまっては会う事もままならなくなるのでしょう。いえ、個人的には婚約解消になって欲しいと思ってしまいます。あのユリウス王子が相手では、心配が尽きそうにありませんから…

「ユリウス様の事はお気になさらないで。今回の事で兄も思うところがあったようで、母に婚約解消を提案すると言ってくれましたから」
「そうですか…無事解消される事を祈っていますわ」
「ありがとうございます。私もそうなって欲しいですわ」

 ここは是非ともエーギル様に頑張って頂きたいですわね。ユリウス王子が面倒な方だとはっきりしましたし、今回の件で問題児と見られるのは避けられないでしょうから。

「婚約が解消されたらエリサ様に会いに参りますわ」
「ええ、早くその日が来るのをお祈りしています」

 こうしてマリーア様もエーギル様と共に帰国されました。今回はマリーア様には何度も助けて頂いて感謝しかありません。早くあの不気味王子との婚約がなくなって、もっと素敵な方との出会いがありますようにと祈るしか出来ません。
 ジーク様に相談すれば、何とかなるでしょうか…でも、他国の事に口を出すのはタブーなのですよね。それでマリーア様の立場が悪くなるのも避けたいですし…悩ましいところです。



 マリーア様が帰国した翌日、結婚式からちょうど十日目には、父王が王妃とカミラを連れて帰国しました。これでラルセンに滞在していた王族や大使はほぼ帰国した事になりました。
 父王たちの帰国が遅れたのは、カミラへの事情聴取があったからでした。ユリウス王子が逃げた先がカミラの貴族牢だったので、それに関係した調査が更に追加されたのです。これには異母兄のために帰国を遅らせたかった父王への援護射撃となり、またカミラの罪状が追加されたせいで、帰国後の王妃の実家へのけん制になりそうです。

 父王とは、その後話をする機会がなく終わりました。父王からの面会の要求もなかったので、これ以上の会話を望んでいなかったのでしょうね。私としても今更感が強くて、会っても何を話せばいいのかと思っていたので、ほっとしている自分がいました。

 ジーク様の話では、父王は他国の王族などと積極的に会談をして、今後の協力を求めていたのだとか。ラルセンとの同盟を機に、鎖国的だった国を徐々に開放したいのだと言っていたそうです。これはきっと異母兄が即位した後の事を考えての事で、今後マルダーンがいい方向に向かう布石となるのでしょう。

 一方のユリウス王子は…まだ貴族牢でした。ルーズベールに使者を送るのに片道でも半月はかかるそうなので、返事が来るのはまだ先になりそうです。早く引き取りに来て頂きたいところですが…こればかりはどうしようもありませんわね。他国の王族が帰ってしまっただけに、何となくあの王子だけが残る事には不安を感じますが…

 それでも、ユリウス王子を残して他国の王族たちが去った王宮内は、ようやく以前の静けさを取り戻したように感じました。何と言いますか、怒涛の二十日間でしたわね。ジーク様に本音を知られてしまった事、父王の本音と実情を知った事、トラブルに見舞われた結婚式とその後のカミラ達の突撃など、これまで王宮で静かに暮らしていた私にとってはどれも大きな出来事でした。

 そして…式が終った私は、今度こそジーク様と向き合う事になります。その事に関しては…何と言いますか、気恥ずかしさや困惑する思いも混じって、とても複雑な気持ちです。今は…あの時の戸惑いや不安は影を薄めて、それ以外のものの方が大きくなっているからでしょうか…
 それは、ジーク様からの贈り物が増えていく事に比例しているようにも感じました。髪飾りから始まって、小さな花束や可愛いアクセサリーに置物、珍しいお菓子などが一つずつ増える度に、私の心の中がほっこりと温かいものが少しずつ大きくなっているからです。お忙しい中でも律義に渡しに来られるのが、くすぐったいような恥ずかしいような不思議な感覚で、それは日に日に今までとは違うものに変わっていくようでした。
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