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番外編
番外編④ 国王の理性との戦い
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ブロムに連れ去られたエリィが見つかってから一月ほどが経った。戻ってきた直後にまた熱を出してしまったエリィも、最近は熱も出さずに落ち着いてきて、やっと俺も安心する事が出来た。
ブロムの事は…未だに心臓を握りつぶされるような痛みを感じる時もあるが…一方であいつらしい最期だったと思う自分もいた。あいつは不器用で、変なところで生真面目で、照れ屋でもあった。
もしもっと話をしていたら…互いに相手の立場を尊重し過ぎなければ…気が付けば、別の可能性を考えてしまう自分がいた。
物心つく前から一緒にいた、番とは別の意味で自分の半身とも言える存在だった。人生の殆どを共有し、励まし合いながら共に育った、兄とも弟とも言える存在だったのだ。失ってみてその大きさを感じるなど、愚か者の極みだろう。
だが…過去を嘆いても意味はない。せめて彼の遺志を継いで、彼と目指したこの国の発展を、国民の安寧を守り続けるしかないのだ。それが王になる事を選んだ俺自身の責任でもあった。
「…ヴァル?」
無意識に腕に力が入っていたのだろうか…不思議そうな表情で俺を見上げてくるのは…俺の唯一の番のエリィだった。いつもより早く目が覚めてしまったのは…夢にあいつが出てきたせいだろうか…子どもの頃の、まだ何も知らない幸せだったころの夢。あの頃に戻れたら…などと考えていたが…エリィも目が覚めてしまったらしい。
「目が覚めた?」
「ええ。どうか、したの?」
疲れているだろうに、連れ去られたのは俺のせいだったというのに、そんな風に俺を気遣ってくれるエリィが可愛すぎて困る。それでなくても番除けを使わなくなったエリィからは、常に甘くて誘うようないい匂いがしているのだ。それだけで理性が崩れそうだというのに…
「いや、何となく目が覚めてしまっただけだ」
「そう」
「エリィこそ、どうかした?」
「私も…何となく目が覚めてしまったの」
いつもなら中々目を覚まさず、私が執務に行く頃も夢の中を漂っているエリィだから、こんなに早くに目を覚ますなんて珍しい。こうして朝の会話が出来るのはやはり嬉しく、自然と頬が緩んでしまう…ブロム、すまない、やはり俺の半身はお前ではなくエリィかもしれない…
俺と番った後のエリィは、可哀想なくらいに体調を崩してしまった。最初は俺が手加減出来なかったせいで疲労困憊に陥り、寝込んでしまったのだ。人族の体力を、俺は別の意味で見誤っていた。俺が想像する以上に、エリィは体力がなくて弱かったのだ。
あの時は、医師に接近禁止を言い渡されるほどに叱られた。一歩間違えば、死に至る可能性もあったと。特に最初の十日間は重要で、場合によっては身体が馴染まず亡くなってしまう事もあるのだ。知識としては知っていたが…エリィの香しい甘い匂いと愛らしい反応に、その事はすっかり忘れ去っていた。
とにかく今は、我慢の時だ。番えるようになっただけでも十分ではないか。そう自分に言い聞かせているが…むしろ今の方が辛い。いっそ触れられないくらいの方が我慢出来たし、していた。手が出せるのに加減が必要な今の方が…ずっと苦しいのだ。
早くエリィの身体が俺に馴染んで欲しいと思う。そうすれば…その時には…今はそう思う事で欲を何とか押し留めていた。
番ってからのエリィは、以前とは変わって俺に甘えてくれるようになった。一部では疲れすぎて抵抗する気力も尽きているだけだと言われているらしいが、それはないだろう。ない筈だ。
無理させないように理性を最大限に駆使して加減しているし、この忍耐力を褒めてくれてもいいレベルだと思っている。ちゃんと睡眠時間も確保しているし、食事も自分で与えて、量やバランスなども確認しているのだ。
王としての仕事だってちゃんと果たしている。番を見つけてからはことごとく仕事を放棄していた先王に比べたら雲泥の差だし、歴代の王のように執務室に番を連れ込んで一時も離さない…なんてしていないだけマシだろう?いや、これはあいつらにエリィを見せたくないからでもあるが。
「エリィ、これを」
「ありがとう、ヴァル」
そう言って差し出したのは、今が見頃のフェルセの花だ。フェルセの花はリムの花と並んで女性にも人気の花で、プレゼントの定番の花でもあり、王宮の庭にもたくさん植えられている。
プレゼントを贈り始めてから程なくして、エリィからアクセサリーなどの高価な物はもう十分です!と言われてしまったので、それからはエリィが好きな菓子類や花を届けるようにしている。
最近は食欲がないというので、専ら花だ。寝室から出られないエリィが花を喜んでくれるからというのもある。
ただ、あまりたくさん贈ると飾る場所がないと言われたので、今は数輪だけだが…少しでも俺の気持ちを込めたくて、出来る限り自分で摘むようにしている。
「ヴァル、毎日でなくていいのよ?」
「私がしたくてやっているんだ。私の楽しみを減らさないでくれ」
「そう?だったらいいのだけど…」
俺を気遣ってか、数回に一度はこうして遠慮してくるエリィが可愛くてしようがない。そんな小さな事で心が躍るのだから、竜人とは度し難いものだな、と思う。この思いが負担になっては…と控えるようにはしているが、やり過ぎるとエリィへの想いが伝わらない気がするので加減が難しい。政治の方がよっぽど簡単に思えてしまう。
「身体が馴染んだら…外でお茶したいわ」
「ああ、そうだな」
「それに…街にも行ってみたいですし」
「街に?」
「ええ。ラウラが…レイフ様と街に遊びに行っているんですけど、いつも楽しそうで…私も…ヴァルと行きたいなぁって」
遠慮がちに、でも期待を込めたキラキラした目で俺を見上げるエリィに、理性が崩壊しそうだ。まずい、意識を別の方に向けないと…
街に…か。考えた事はなかったが、エリィが望むならいくらでも行こう。そうだな、町娘風の服装のエリィもきっと、いや、絶対に可愛いだろう。俺はあまり街に出た事がないが、買い物や食事などに行くのもいいかもしれない。何ならエリィの好きな菓子の店に行くのも。
そこまで考えた俺だったが…街に出たエリィを想像して、ふとある事に気が付いた。外に出るとなると…他の男にもエリィを見せる事になる。お忍びだし、顔を出さないと不審がられるから仕方ないが…可愛い町娘の恰好をしたエリィに他の男の視線が向くという事だ…
それじゃ、不埒な輩がエリィに懸想するかもしれないではないか!もし俺よりも好ましいと感じる相手がいたら…エリィはそちらに行ってしまうのではないか?エリィは人族で、俺のような番至上主義ではないのに…
「ヴァル?」
そんな事を考えて軽く絶望していたら、エリィが声をかけてきた。恐る恐るエリィの方に視線を向けると…不思議そうにキョトンとした表情のエリィがいた。なんだ、その殺人的に可愛らしい表情は…!こんな可愛いエリィを外に出すなんて…やっぱりダメだ…!!!
「どうしたの?何か…あったの?」
「い、いや…」
待て…落ち着け、自分。まだそうなると決まった訳じゃない。それに…エリィは真面目で誠実な女性だ。そう簡単に他の男になど…いや、でも…
「ヴァルの私服姿、かっこいいでしょうね。う~ん、もしかして他の女性に声をかけられてしまうかしら…」
「いや、私になど…」
「それはないわ、だってヴァルはとってもかっこよくて素敵だもの」
「…!」
「やだ、どうしよう…ヴァルってモテるから…」
急に塞ぎこんで、何やら独り言を呟き始めたエリィだったが…何て殺人的な愛らしさなんだ…!エリィが、白い結婚と離婚を望んでいたエリィが、俺が誰かにとられないかと心配しているなんて…!それはつまり、嫉妬してくれているという事か?
「…は?ちょ…ヴァル?」
「エリィ、愛している!」
もう無理だ。この愛らしい俺だけの姫は、どこまで俺の理性を試せば気が済むのだ…こんなに小悪魔だったなんて知らなかった…
俺は小悪魔エリィの誘惑に勝てず、そのままエリィを押し倒し…その後、トールとラウラにこっぴどく叱られたが…俺は悪くなかったと思う。
ブロムの事は…未だに心臓を握りつぶされるような痛みを感じる時もあるが…一方であいつらしい最期だったと思う自分もいた。あいつは不器用で、変なところで生真面目で、照れ屋でもあった。
もしもっと話をしていたら…互いに相手の立場を尊重し過ぎなければ…気が付けば、別の可能性を考えてしまう自分がいた。
物心つく前から一緒にいた、番とは別の意味で自分の半身とも言える存在だった。人生の殆どを共有し、励まし合いながら共に育った、兄とも弟とも言える存在だったのだ。失ってみてその大きさを感じるなど、愚か者の極みだろう。
だが…過去を嘆いても意味はない。せめて彼の遺志を継いで、彼と目指したこの国の発展を、国民の安寧を守り続けるしかないのだ。それが王になる事を選んだ俺自身の責任でもあった。
「…ヴァル?」
無意識に腕に力が入っていたのだろうか…不思議そうな表情で俺を見上げてくるのは…俺の唯一の番のエリィだった。いつもより早く目が覚めてしまったのは…夢にあいつが出てきたせいだろうか…子どもの頃の、まだ何も知らない幸せだったころの夢。あの頃に戻れたら…などと考えていたが…エリィも目が覚めてしまったらしい。
「目が覚めた?」
「ええ。どうか、したの?」
疲れているだろうに、連れ去られたのは俺のせいだったというのに、そんな風に俺を気遣ってくれるエリィが可愛すぎて困る。それでなくても番除けを使わなくなったエリィからは、常に甘くて誘うようないい匂いがしているのだ。それだけで理性が崩れそうだというのに…
「いや、何となく目が覚めてしまっただけだ」
「そう」
「エリィこそ、どうかした?」
「私も…何となく目が覚めてしまったの」
いつもなら中々目を覚まさず、私が執務に行く頃も夢の中を漂っているエリィだから、こんなに早くに目を覚ますなんて珍しい。こうして朝の会話が出来るのはやはり嬉しく、自然と頬が緩んでしまう…ブロム、すまない、やはり俺の半身はお前ではなくエリィかもしれない…
俺と番った後のエリィは、可哀想なくらいに体調を崩してしまった。最初は俺が手加減出来なかったせいで疲労困憊に陥り、寝込んでしまったのだ。人族の体力を、俺は別の意味で見誤っていた。俺が想像する以上に、エリィは体力がなくて弱かったのだ。
あの時は、医師に接近禁止を言い渡されるほどに叱られた。一歩間違えば、死に至る可能性もあったと。特に最初の十日間は重要で、場合によっては身体が馴染まず亡くなってしまう事もあるのだ。知識としては知っていたが…エリィの香しい甘い匂いと愛らしい反応に、その事はすっかり忘れ去っていた。
とにかく今は、我慢の時だ。番えるようになっただけでも十分ではないか。そう自分に言い聞かせているが…むしろ今の方が辛い。いっそ触れられないくらいの方が我慢出来たし、していた。手が出せるのに加減が必要な今の方が…ずっと苦しいのだ。
早くエリィの身体が俺に馴染んで欲しいと思う。そうすれば…その時には…今はそう思う事で欲を何とか押し留めていた。
番ってからのエリィは、以前とは変わって俺に甘えてくれるようになった。一部では疲れすぎて抵抗する気力も尽きているだけだと言われているらしいが、それはないだろう。ない筈だ。
無理させないように理性を最大限に駆使して加減しているし、この忍耐力を褒めてくれてもいいレベルだと思っている。ちゃんと睡眠時間も確保しているし、食事も自分で与えて、量やバランスなども確認しているのだ。
王としての仕事だってちゃんと果たしている。番を見つけてからはことごとく仕事を放棄していた先王に比べたら雲泥の差だし、歴代の王のように執務室に番を連れ込んで一時も離さない…なんてしていないだけマシだろう?いや、これはあいつらにエリィを見せたくないからでもあるが。
「エリィ、これを」
「ありがとう、ヴァル」
そう言って差し出したのは、今が見頃のフェルセの花だ。フェルセの花はリムの花と並んで女性にも人気の花で、プレゼントの定番の花でもあり、王宮の庭にもたくさん植えられている。
プレゼントを贈り始めてから程なくして、エリィからアクセサリーなどの高価な物はもう十分です!と言われてしまったので、それからはエリィが好きな菓子類や花を届けるようにしている。
最近は食欲がないというので、専ら花だ。寝室から出られないエリィが花を喜んでくれるからというのもある。
ただ、あまりたくさん贈ると飾る場所がないと言われたので、今は数輪だけだが…少しでも俺の気持ちを込めたくて、出来る限り自分で摘むようにしている。
「ヴァル、毎日でなくていいのよ?」
「私がしたくてやっているんだ。私の楽しみを減らさないでくれ」
「そう?だったらいいのだけど…」
俺を気遣ってか、数回に一度はこうして遠慮してくるエリィが可愛くてしようがない。そんな小さな事で心が躍るのだから、竜人とは度し難いものだな、と思う。この思いが負担になっては…と控えるようにはしているが、やり過ぎるとエリィへの想いが伝わらない気がするので加減が難しい。政治の方がよっぽど簡単に思えてしまう。
「身体が馴染んだら…外でお茶したいわ」
「ああ、そうだな」
「それに…街にも行ってみたいですし」
「街に?」
「ええ。ラウラが…レイフ様と街に遊びに行っているんですけど、いつも楽しそうで…私も…ヴァルと行きたいなぁって」
遠慮がちに、でも期待を込めたキラキラした目で俺を見上げるエリィに、理性が崩壊しそうだ。まずい、意識を別の方に向けないと…
街に…か。考えた事はなかったが、エリィが望むならいくらでも行こう。そうだな、町娘風の服装のエリィもきっと、いや、絶対に可愛いだろう。俺はあまり街に出た事がないが、買い物や食事などに行くのもいいかもしれない。何ならエリィの好きな菓子の店に行くのも。
そこまで考えた俺だったが…街に出たエリィを想像して、ふとある事に気が付いた。外に出るとなると…他の男にもエリィを見せる事になる。お忍びだし、顔を出さないと不審がられるから仕方ないが…可愛い町娘の恰好をしたエリィに他の男の視線が向くという事だ…
それじゃ、不埒な輩がエリィに懸想するかもしれないではないか!もし俺よりも好ましいと感じる相手がいたら…エリィはそちらに行ってしまうのではないか?エリィは人族で、俺のような番至上主義ではないのに…
「ヴァル?」
そんな事を考えて軽く絶望していたら、エリィが声をかけてきた。恐る恐るエリィの方に視線を向けると…不思議そうにキョトンとした表情のエリィがいた。なんだ、その殺人的に可愛らしい表情は…!こんな可愛いエリィを外に出すなんて…やっぱりダメだ…!!!
「どうしたの?何か…あったの?」
「い、いや…」
待て…落ち着け、自分。まだそうなると決まった訳じゃない。それに…エリィは真面目で誠実な女性だ。そう簡単に他の男になど…いや、でも…
「ヴァルの私服姿、かっこいいでしょうね。う~ん、もしかして他の女性に声をかけられてしまうかしら…」
「いや、私になど…」
「それはないわ、だってヴァルはとってもかっこよくて素敵だもの」
「…!」
「やだ、どうしよう…ヴァルってモテるから…」
急に塞ぎこんで、何やら独り言を呟き始めたエリィだったが…何て殺人的な愛らしさなんだ…!エリィが、白い結婚と離婚を望んでいたエリィが、俺が誰かにとられないかと心配しているなんて…!それはつまり、嫉妬してくれているという事か?
「…は?ちょ…ヴァル?」
「エリィ、愛している!」
もう無理だ。この愛らしい俺だけの姫は、どこまで俺の理性を試せば気が済むのだ…こんなに小悪魔だったなんて知らなかった…
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