【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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ツマニナッテって…何語ですか?

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 酔った勢いでやらかしてしまった私に、悲しいかな逃げ場はなかった。何よりも…ずっと隠していた姿を知られてしまったのだ。もう迂闊なんて言葉では言い表せないほどの失態だった。
 でも…奴の言う事が間違いじゃないのが一番の問題だった。実は私は…巨乳と言われる部類に入るのだ。しかも腰は細くてお尻は大きい、奴の言っていたボンキュッポンってやつだ。
 学生の頃は貧弱な体型だったのだけど、就職してから育ち始めてこうなってしまった。こうなると知っていたら侍女の道もあったかもしれないと思うと、なんか悔しい。でも悔しいから文官の道を進むけど。
 で、何故これを隠していたかと言うと…ただただ身の安全のため、だった。王宮で働くと言うと、もの凄く聞こえはいいけれど、王宮は身分が全てのとんでもない魔窟なのだ。身分の低い者は高い者に何をされても文句が言えないと言う一面があるだけに、見目のいい女性が好色な高位貴族の餌食になるのは珍しい話ではない。
 ちなみに侍女の中には結婚が決まっていたのに高位貴族に手籠めにされて…という女性もいたりする。そんな女性はもう結婚が出来ないから、一生を侍女として働くしかないのだ。

(そりゃあ、誰かに見初められて…って可能性もあったけど…)

 現実には好色な貴族に遊ばれて終わる確率の方がべらぼうに高い。クラリスみたいに侯爵家の後ろ盾があればそんな心配はないけど、貧乏な伯爵家なんて金持ちの子爵家にも負けるだろう。だから私はお腹の周りにタオルを巻いて、簡易コルセットで太っている様に見せかけていたのだ。寸胴にして化粧もせず、とにかく地味で陰気に見えるようにして、誰も食指が動かないように徹していたのに…

「エリーに提案と言うか、お願いがあるんだけど…」

 甘ったるい声でそう言われたけれど、湧き上がったのは歓喜ではなく恐怖と警戒心だった。何だろう、愛人にでもなれと言うのだろうか…確かに私はこいつの部下だから、手頃と言えば手ごろだろう。今は浮ついた話がなかったから真っ当になったのかと思っていたけれど、奴の本質は変わってなかったらしい…見直してもいいかもと思っていた私の心を返せ…

「…な、なん、でしょうか」
「ふふ、そんなに警戒しないで。何も取って食おうって訳じゃないんだから。あ、でも別の意味では食べたいけどね」
(な…!た、食べたいって…なにを…?)

 思わず叫びそうになったけど、何とか押しとどまった。もう何を言われるのかわからなくて、怖くて迂闊に返事も出来ない。誰か嘘だと言って…そして団長、この情況を間接的に作った事、お恨み申し上げます。あ、アルノワ殿も同罪か。いや、仕事を放り出して休みを取ったあいつが全ての元凶だった。

(くっそ―!覚えてろ!一生祟ってやるんだから…!)

 思わず拳に力が入ったけれど、慌てて力を抜いた。腹は立つけど相手は上司、殴ったら暴行罪で即逮捕されるだろう。家族のためにもそれは避けたい。

「俺の婚約者に…いや、俺の妻になって?」
「………は?」

 耳が悪くなったのだろうか…今何と言われたんだろう。何か、ツマニナッテって言われたけど…どこの言葉?

「ああ、勿論正式な妻、正妻だよ。俺は愛人とか作る気ないから」
「…は?」
「それに、ミュッセ家への援助もしよう。色々大変なんだろう?」
「は…ぁあああ?」

 勝手に話が進んでいるけれど…ちょっと待って!何でそうなるのかが全く理解出来ない。思わず振り返ったら、そこには満面の笑みを浮かべた色気駄々洩れのイケメンがいて…それが一層非現実的で、悪い夢を見ている様にしか思えなかった。


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