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風の騒めく夜
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それから一月が経った。あの怪しい書類の裏取りは副団長が調べると言っていたけれど、その後どうなったのかまで知らされる事はなかった。ただ、あの書類の山はそれから数日後には回収され、その後はあの領地に関わる書類のチェックを頼まれるようになったけれど、仕事量は格段に少なくなった。
だったらそろそろ寮に戻って…と思ったけれど、伯爵夫人としての教育のために屋敷に滞在しているという触れ込みだったので、それは止められてしまった。それに婚約者として公にしたせいで、一層ラドン伯爵に狙われるかもしれないとも。もし狙われたら寮に住む者も危険に晒されるかもしれないと言われると、強行する事も憚られた。
風が冬の冷たさを運び、木々が騒めく夜。私は中々寝付けなくて、薄暗くした部屋の中でぼんやりと侍女が用意してくれたハーブティーを飲んでいた。すっきりした味わいの中にも甘みがあるこのお茶は、ここで出されるお茶の中でもお気に入りの一つだ。ここに来るまではハーブティーなんか飲んだ事がなかったのだけど…
(何というか、ここの生活も悪くないのよね…)
すっかりここでの贅沢な生活に慣れつつある自分がいた。ずっと仕送り優先でお金をかけない生活を心がけていただけに、最初は贅沢過ぎて戸惑ったくらいだ。いいのかと思うのだけど、副団長はこれも報酬の一部だと思えばいいと言うばかりだ。人がいいのか悪いのか…よくわからない。
はぁ、とため息をついた私だったけれど、不意に何かを感じた。何だろう、窓の外で音がした気がする。窓の向こうはバルコニーになっていて、テーブルを出してお茶が飲めるほどの広さがある。気になって窓際に寄ると、外に人影を見つけた。あれって…
(は?もしかして…副団長?!)
そこにいたのは、バルコニーの手すりに背を預けて座り込む副団長だった。こんな寒い中で何をやっているんだ?何だか尋常じゃないものを感じて、慌てて窓を開けて外に出た。
「ちょ…!どうしたんです?こんなところで?」
「あ、ああ…すまない。部屋を、間違えたらしい、な…」
何だか言い辛そうで表情を押し殺している感じに見えた。自分の屋敷とはいえ、こんなところで何をしているのだろうか…そう思ったが、脇腹を抑えている手が視界に入った。
「副団長…もしかして怪我を?」
暗くてよく見えないけれど、何かを堪えている表情にも見えるし、寒いのに汗が滲んでいる。
「と、とにかく人を…」
「…待ってくれ」
人を呼びに行こうと立ち上がろうとした私の腕を掴まれた。どうしてと振り返った私に副団長は、人を呼ぶ必要はないと言い、部屋まで肩を貸して欲しいと言った。それは構わないけれど…医者を呼んだ方がいいのではないだろうか…
でも、その前に部屋に寝かせるのが先かと思った私は、肩を貸して副団長を自室まで支えて歩いた。さすがに夜遅くで誰にも会わずに部屋に付いたけれど…
「ああ、助かった。もう休んでくれ」
ソファに座らせると直ぐにそう言われたけど…この状態で置いて行くのも気が引ける。絶対に気になるし、表情が冴えないのも心配だ。
「そうは言っても…怪我をしているのではありませんか?」
「…大した事はない。それに…治癒魔法があるから自分で治せる」
そう言われてしまうと何も言い返せなかった。確かに彼は希少な治癒魔法の使い手だ。それは私も実際に体験したけれど…
「じゃ、どうして使わないんですか?怪我をしてもすぐに使えばよかったでしょう?」
もしかして…と疑念が浮かんだ。私なら怪我をしたら直ぐに使うだろう。なのにそれをしないのは…
「もしかして…自分には使えない、んですか?」
だったらそろそろ寮に戻って…と思ったけれど、伯爵夫人としての教育のために屋敷に滞在しているという触れ込みだったので、それは止められてしまった。それに婚約者として公にしたせいで、一層ラドン伯爵に狙われるかもしれないとも。もし狙われたら寮に住む者も危険に晒されるかもしれないと言われると、強行する事も憚られた。
風が冬の冷たさを運び、木々が騒めく夜。私は中々寝付けなくて、薄暗くした部屋の中でぼんやりと侍女が用意してくれたハーブティーを飲んでいた。すっきりした味わいの中にも甘みがあるこのお茶は、ここで出されるお茶の中でもお気に入りの一つだ。ここに来るまではハーブティーなんか飲んだ事がなかったのだけど…
(何というか、ここの生活も悪くないのよね…)
すっかりここでの贅沢な生活に慣れつつある自分がいた。ずっと仕送り優先でお金をかけない生活を心がけていただけに、最初は贅沢過ぎて戸惑ったくらいだ。いいのかと思うのだけど、副団長はこれも報酬の一部だと思えばいいと言うばかりだ。人がいいのか悪いのか…よくわからない。
はぁ、とため息をついた私だったけれど、不意に何かを感じた。何だろう、窓の外で音がした気がする。窓の向こうはバルコニーになっていて、テーブルを出してお茶が飲めるほどの広さがある。気になって窓際に寄ると、外に人影を見つけた。あれって…
(は?もしかして…副団長?!)
そこにいたのは、バルコニーの手すりに背を預けて座り込む副団長だった。こんな寒い中で何をやっているんだ?何だか尋常じゃないものを感じて、慌てて窓を開けて外に出た。
「ちょ…!どうしたんです?こんなところで?」
「あ、ああ…すまない。部屋を、間違えたらしい、な…」
何だか言い辛そうで表情を押し殺している感じに見えた。自分の屋敷とはいえ、こんなところで何をしているのだろうか…そう思ったが、脇腹を抑えている手が視界に入った。
「副団長…もしかして怪我を?」
暗くてよく見えないけれど、何かを堪えている表情にも見えるし、寒いのに汗が滲んでいる。
「と、とにかく人を…」
「…待ってくれ」
人を呼びに行こうと立ち上がろうとした私の腕を掴まれた。どうしてと振り返った私に副団長は、人を呼ぶ必要はないと言い、部屋まで肩を貸して欲しいと言った。それは構わないけれど…医者を呼んだ方がいいのではないだろうか…
でも、その前に部屋に寝かせるのが先かと思った私は、肩を貸して副団長を自室まで支えて歩いた。さすがに夜遅くで誰にも会わずに部屋に付いたけれど…
「ああ、助かった。もう休んでくれ」
ソファに座らせると直ぐにそう言われたけど…この状態で置いて行くのも気が引ける。絶対に気になるし、表情が冴えないのも心配だ。
「そうは言っても…怪我をしているのではありませんか?」
「…大した事はない。それに…治癒魔法があるから自分で治せる」
そう言われてしまうと何も言い返せなかった。確かに彼は希少な治癒魔法の使い手だ。それは私も実際に体験したけれど…
「じゃ、どうして使わないんですか?怪我をしてもすぐに使えばよかったでしょう?」
もしかして…と疑念が浮かんだ。私なら怪我をしたら直ぐに使うだろう。なのにそれをしないのは…
「もしかして…自分には使えない、んですか?」
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