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変な術をかけられたそうです
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話しておかなければならない事があると言われた私は、それなら…とソファに移動して話を聞く事にした。さすがに上司相手にベッドの上で話を聞く気にはなれなかった。立ち上がると少しふらついたが、これは三日も寝ていたせいだろう。三日も寝込んでいたなんて、学園時代に風邪で寝込んで以来だ。
「それで…話とは…」
とにかく話を聞かないわけにもいかない。副団長の様子からして大事な話のようだし、だったら早く片づけるべきだろう。本当はあの夜の顛末を色々知りたかったのだけど、後で聞けばいい。
「…実は…」
いつもの副団長の態度からは珍しく非常に言い難そうに口にしたその内容は、どこからどう突っ込んだらいいのかわからないほどに理解しがたいものだった。
「私に…禁呪の魔術が…・?」
「ああ」
禁呪だなんてどこの絵空事だと思ってしまったのは許して欲しい。だってつい最近までは、魔術というものすら見た事がなかったのだ。
「それじゃ…副団長が私に命令したら拒否する事は出来ない、と…」
なんて迷惑なものを掛けてくれたんだ!そう思わずにはいられなかった。副団長が鬼畜で変態だったらどうしてくれるのだ。いや、プライベートではその可能性もあるかもしれない…一方で、本当にそんな術が存在するのかと思う自分がいる。
「…すまない。だが誓って命令するつもりはない」
そう言って頭を下げられてしまったけれど…副団長の責任ではないだけに謝罪されるのも筋が違う気がした。まぁ、この様子なら無茶な命令をするつもりはない様に…見える。
「俺の側にいれば、無意識にでも命令してしまう可能性がある。些細な事も繰り返せば心身の負担になるだろう。それで、これは王太子殿下からの提案でもあるのだが…配置換えをと考えている」
「配置換え、ですか?」
「ああ。俺と接触がなければ命令のしようもない。幸い異動先は俺が近づく事はないし、狙われる心配のない場所だ。そこなら安心して過ごせるだろう」
なるほど、言いたい事はわかったけれど、異動先はどこだろうか。ここは案外居心地がよかったから、急に異動と言われて残念に思ってしまうくらいには馴染んでいた。エミール様や騎士団長をはじめとする多様なイケメンがいて目の保養になるし、そう言う意味でもいい職場だったのだけど…
「それで、その異動先と言うのは…」
「王妃様の侍女だ」
「はぁあ?王妃様?」
思わず大きな声が出てしまったのは許して欲しい。しかし、それくらいに想定外だったのだ。第一、私は文官で侍女としての教育なんて受けていない。文官も侍女も、学園卒業後に半年から一年の養成期間があるのだ。なんの教育も受けていない私が王妃様の侍女だなんて…絶対に無理だ。
「さすがにそれは…ご辞退申し上げます…」
「どうしてだ?王妃様も既に了承なさっていると聞いた。マルスリーヌ様の娘と聞いて喜ばれているそうだぞ」
「…母の…」
そう言えば母は王妃様の侍女だったと聞いている。そう言えば子供の頃に母と一緒に王妃様の元を訪ねて、王太子殿下と遊んだこともあったんだっけ。でも…
「それでも、さすがに王妃様の侍女はご辞退申し上げます」
そんな胃に穴が開きそうなお役目、私には無理だ。人には人の向き不向きがあって、王妃付侍女なんて不向きの最たるものだと思う。それなら多少の危険があってもここにいた方がマシな気がする。それに…王妃様の側となると、あの王女殿下と遭遇する可能性もあるわけで…そっちの方が危険な気がする。
「それに、その命令ってどの程度のレベルなんですか?」
「どの程度…とは?」
「例えば、命令系で言わなきゃ効果がないとか?それだったら仕事の命令はお願いの形にすればいいんじゃないですか?」
「は?」
「試しにやってみましょう」
結果として私の狙い通りだった。「お茶を淹れろ」と「お茶を淹れてくれないか」と言って貰ったところ、前者は断れないが後者は拒否出来たのだ。
「そんなバカな…こんな事で禁呪の効果が変わるなんて…」
副団長にとっては想定外だったらしく、頭を抱えながらもの凄く驚いていたけれど、これなら問題ないのではないだろうか。元より副団長は命令形を使う事も少なかったし。それにここにいるのもラドン伯爵の件が解決するまでで、ずっといるわけではないのだから。
「それで…話とは…」
とにかく話を聞かないわけにもいかない。副団長の様子からして大事な話のようだし、だったら早く片づけるべきだろう。本当はあの夜の顛末を色々知りたかったのだけど、後で聞けばいい。
「…実は…」
いつもの副団長の態度からは珍しく非常に言い難そうに口にしたその内容は、どこからどう突っ込んだらいいのかわからないほどに理解しがたいものだった。
「私に…禁呪の魔術が…・?」
「ああ」
禁呪だなんてどこの絵空事だと思ってしまったのは許して欲しい。だってつい最近までは、魔術というものすら見た事がなかったのだ。
「それじゃ…副団長が私に命令したら拒否する事は出来ない、と…」
なんて迷惑なものを掛けてくれたんだ!そう思わずにはいられなかった。副団長が鬼畜で変態だったらどうしてくれるのだ。いや、プライベートではその可能性もあるかもしれない…一方で、本当にそんな術が存在するのかと思う自分がいる。
「…すまない。だが誓って命令するつもりはない」
そう言って頭を下げられてしまったけれど…副団長の責任ではないだけに謝罪されるのも筋が違う気がした。まぁ、この様子なら無茶な命令をするつもりはない様に…見える。
「俺の側にいれば、無意識にでも命令してしまう可能性がある。些細な事も繰り返せば心身の負担になるだろう。それで、これは王太子殿下からの提案でもあるのだが…配置換えをと考えている」
「配置換え、ですか?」
「ああ。俺と接触がなければ命令のしようもない。幸い異動先は俺が近づく事はないし、狙われる心配のない場所だ。そこなら安心して過ごせるだろう」
なるほど、言いたい事はわかったけれど、異動先はどこだろうか。ここは案外居心地がよかったから、急に異動と言われて残念に思ってしまうくらいには馴染んでいた。エミール様や騎士団長をはじめとする多様なイケメンがいて目の保養になるし、そう言う意味でもいい職場だったのだけど…
「それで、その異動先と言うのは…」
「王妃様の侍女だ」
「はぁあ?王妃様?」
思わず大きな声が出てしまったのは許して欲しい。しかし、それくらいに想定外だったのだ。第一、私は文官で侍女としての教育なんて受けていない。文官も侍女も、学園卒業後に半年から一年の養成期間があるのだ。なんの教育も受けていない私が王妃様の侍女だなんて…絶対に無理だ。
「さすがにそれは…ご辞退申し上げます…」
「どうしてだ?王妃様も既に了承なさっていると聞いた。マルスリーヌ様の娘と聞いて喜ばれているそうだぞ」
「…母の…」
そう言えば母は王妃様の侍女だったと聞いている。そう言えば子供の頃に母と一緒に王妃様の元を訪ねて、王太子殿下と遊んだこともあったんだっけ。でも…
「それでも、さすがに王妃様の侍女はご辞退申し上げます」
そんな胃に穴が開きそうなお役目、私には無理だ。人には人の向き不向きがあって、王妃付侍女なんて不向きの最たるものだと思う。それなら多少の危険があってもここにいた方がマシな気がする。それに…王妃様の側となると、あの王女殿下と遭遇する可能性もあるわけで…そっちの方が危険な気がする。
「それに、その命令ってどの程度のレベルなんですか?」
「どの程度…とは?」
「例えば、命令系で言わなきゃ効果がないとか?それだったら仕事の命令はお願いの形にすればいいんじゃないですか?」
「は?」
「試しにやってみましょう」
結果として私の狙い通りだった。「お茶を淹れろ」と「お茶を淹れてくれないか」と言って貰ったところ、前者は断れないが後者は拒否出来たのだ。
「そんなバカな…こんな事で禁呪の効果が変わるなんて…」
副団長にとっては想定外だったらしく、頭を抱えながらもの凄く驚いていたけれど、これなら問題ないのではないだろうか。元より副団長は命令形を使う事も少なかったし。それにここにいるのもラドン伯爵の件が解決するまでで、ずっといるわけではないのだから。
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