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烈火の魔女?

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 副団長、それも公爵家の三男で実は第二王子に対し、青二才と言い放った母に私は卒倒しそうになった。母はいい意味でも悪い意味でも真っすぐな人だけど、格上の相手にその発言はマズいだろう…

「お、お母様。落ち着いて下さい」
「落ち着くのは貴方の方ね、エリー」

 焦る私に母はさらっと言い返したけど、ここは謝罪すべきじゃないだろうか。年齢的には娘と同じ年で確かに青二才と言える年だけど、我が家なんて簡単に潰せるくらいの力はありそうなのだ。

「なるほど、さすがはミュッセ伯爵、烈火の魔女との二つ名は伊達ではありませんね」
「れっか…の、魔女?」

 副団長の発した言葉の意味が直ぐにはわからなかった。れっかって…それに魔女って…

「知らないわよ、そんなセンスの欠片もない失礼な呼び名。周りが勝手に言っていただけで私には関係ないわ」
「なるほど。確かに仰る通りですね」
「言うわね」

 こんな状況でにこやかに対応する副団長に私の方が冷や冷やした。これは実はかなり怒っているのではないだろうか…笑顔で怒りを表すのは高位貴族の十八番だ。

「お、お母様。副団長は公爵家のご子息ですわ。その言い方はさすがに…」
「でも私、この子のおしめも変えたし、乳も与えたことがあるのよ。公爵家の息子だからって怖くもなんともないわよ」
「…え?」
「……は?」

 母の発言に固まったのは私だけではなかった。私の視界には茫然と母を見つめる副団長が映った。でも、それも仕方ないだろう…何なら乳って…母よ、あなたは一体…

「生まれたばかりの坊やを、王宮から連れ出したのは私だもの。あのくそ爺がしつこくって大変だったんだから」
「連れ出したって…どうしてそんな事、を…」

 そう言えば副団長は、紫瞳を持たなかったから死産とされて公爵家に養子に出されたと言っていた。あの時は、三代前までは文字通り死産にされたと言っていたから、今は紫瞳をもたない子は他家に養子に出されているものだと思っていたけれど…

「そりゃあ、あのくそ爺が殺そうとしたからよ」
「くそ爺って…」

 それは国王陛下の事、だろうか…

「全く、夫の陛下は弱腰だし、王弟のオーギュもへっぴり腰で動けないし。私と夫とヴィオで貴方を王宮から連れ出したのよ」
「陛下が…弱腰…」
「そうでしょう?我が子が殺されるかもって時にオロオロして。先王ぶん殴って、俺の子供に手を出すな!っていうくらいの気概が欲しかったわ」
「ぶん殴ってって…」

 母よ、さすがに暴力で事を治めようとするのはどうかと思う。そしてくそ爺とは先王陛下の事だったのか…聞いた話が想定外すぎて、消化が進まない…

「お母様、お母様こそその時は…」
「ああ、エリーを産んで二か月…だったかしら?でもまぁ、よかったわよ。ジュディの出産が予定より遅れてくれたから動けたのよね。それでもまだ首も座っていないエリーを連れて、王宮から生まれたての赤ん坊を連れ出すのは大変だったわ」
「……」

 副団長が私よりもわずかに年下だった事にびっくりだ…いや、今はそれどころじゃない。でも、聞いた話が私の理解の範囲を超えていて、脳が現実逃避しようとしているのを感じた。

「では…ミュッセ伯爵は私の命の恩人だったのですね」
「そうなるわね。まぁ、私はただジュディを助けてあげたかっただけだけどね」

 あっさりとそう言った母だけど…それって母達も命がけだったんじゃないだろうか…母よ、出産直後に何をしていたのですか…

「まぁでも、命の恩人の娘の純潔を奪って、その上で訳の分からない術を掛けようだなんて、百万年早いのよ!」

 一時空気が緩んでいた母だったけれど…話はまた振出しに戻ってしまった…


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