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最後にこれだけは…
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「そうだ。影が家庭を持てない理由は貴女も理解している筈だ。貴女の家庭がそれを証明している」
確かに我が家は母子家庭だ。リアムが生まれた後、父は帰ってこなくなった。母にもう一緒にいられないのだと言われた私は離婚したのかと勝手に納得していた。元より家に帰って来る事が極端に少なかったからだ。大人しい父は気が強い母の婿という立場が苦痛だったのだろうとも思っていた。
でもそれも、私達を守るための措置だった。結局未だに父には会えていないけれど、父は私達の知らぬところから守ってくれているらしいし。そう言われると、確かに一緒にいるのは難しいのだろう、と思う。
「エリアーヌ嬢、これ以上私の近くにいればあなただけでなく、母君や弟君も危険に晒すかもしれない。それではあなたにも、あなたのご両親にも申し訳が立たない」
その答えも予想したものだった。父がそうしたように、彼も私の身を案じて遠ざけようとしているのだ。決して私が嫌いだからではないと、その逆の理由からだと思いたい。
「…私が…」
望んだらどうなさいますか?そう言い掛けて言葉を飲み込んだ。そんな言い方をしてもきっと、副団長は私を遠ざけようとするだろう。
「…私が、狙われていると…聞きました」
「ああ。だがそれも婚約を解消すれば…」
「私が狙われているのは、副団長の婚約者だからではありません」
「そんな訳ないだろう」
「私が狙われているのは、私自身がやった事の結果です」
「…っ」
そう、私が狙われている本当の理由は、不正を見つけたからだ。そのせいで罪に問われた者やその結果没落した家が幾つもあり、私は彼らとその縁者から恨まれている。逆恨みもいいところだけど、人の心とは善悪だけで割り切れるものではない。ラドン伯の一件でその数は一層増えただろう。そして副団長の様子からして、彼もそれを理解している。
「私の方こそ、一緒にいれば副団長のご迷惑になるでしょう。ですから…婚約を白紙にして頂きたいのです」
そう告げてにこりと笑みを浮かべると、副団長が目を見開いた。今、私はちゃんと笑えているだろうか…
考えて考えて、母には父が影だという事がどれくらい私達の生活に影響しているのかも問い詰めて、私はこの事実に行き付いた。副団長と一緒にいるから危険なのではない、私自身が危険を招く存在なのだ。一緒にいれば副団長は私も守らねばならなくなって、その負担は倍になるだろう。そして万が一の時、彼は自分よりも私を優先する。だから私達は…一緒にいてはいけない。
「エリアーヌ嬢…」
振り絞る様に告げられた声には、どんな感情が含まれているのだろうか。それが少しでも好意的なものであればいいのに、と思う。
「仮とは言え、副団長の婚約者でいる間、貴重な体験が出来てとても楽しかったです」
「……」
「お手数ですが婚約白紙の手続きをお願いしても?」
「…ああ」
「それでは、近々こちらのお屋敷もお暇させて頂きます。母達にも移動するように伝えます。今迄お世話になりました」
そう言って深く頭を下げた。目の奥がツンとしたけれど、その感覚を無理やり振り払った。まだ私の最後の大仕事は終わっていないのだから。
「最後に、よろしいでしょうか?」
「…ああ。何でも言って欲しい。出来る限りエリアーヌ嬢の希望通りに…」
「婚約解消の手続き以外に望む事はありません。ただ…」
「ただ?」
最後にこれだけは笑顔で言いたい。怯みそうになる心を叱咤して、もう一度笑顔を引っ張り出した。
「好きです、副団長」
「…っ」
万感を込めて、そう告げた。ああ、彼をこうも驚かせるとは思わなかった。出し抜いてやったと言う悪戯心と、最後まで笑顔で言い切れた満足感が、溢れ出しそうになる涙を辛うじて押しとどめた。
「それでは失礼します」
立ち上がって最後にもう一度深く頭を下げた。もう少しだけ頑張れ自分、そう思いながら表情筋にもう一度力を込めて、私は部屋を出た。
確かに我が家は母子家庭だ。リアムが生まれた後、父は帰ってこなくなった。母にもう一緒にいられないのだと言われた私は離婚したのかと勝手に納得していた。元より家に帰って来る事が極端に少なかったからだ。大人しい父は気が強い母の婿という立場が苦痛だったのだろうとも思っていた。
でもそれも、私達を守るための措置だった。結局未だに父には会えていないけれど、父は私達の知らぬところから守ってくれているらしいし。そう言われると、確かに一緒にいるのは難しいのだろう、と思う。
「エリアーヌ嬢、これ以上私の近くにいればあなただけでなく、母君や弟君も危険に晒すかもしれない。それではあなたにも、あなたのご両親にも申し訳が立たない」
その答えも予想したものだった。父がそうしたように、彼も私の身を案じて遠ざけようとしているのだ。決して私が嫌いだからではないと、その逆の理由からだと思いたい。
「…私が…」
望んだらどうなさいますか?そう言い掛けて言葉を飲み込んだ。そんな言い方をしてもきっと、副団長は私を遠ざけようとするだろう。
「…私が、狙われていると…聞きました」
「ああ。だがそれも婚約を解消すれば…」
「私が狙われているのは、副団長の婚約者だからではありません」
「そんな訳ないだろう」
「私が狙われているのは、私自身がやった事の結果です」
「…っ」
そう、私が狙われている本当の理由は、不正を見つけたからだ。そのせいで罪に問われた者やその結果没落した家が幾つもあり、私は彼らとその縁者から恨まれている。逆恨みもいいところだけど、人の心とは善悪だけで割り切れるものではない。ラドン伯の一件でその数は一層増えただろう。そして副団長の様子からして、彼もそれを理解している。
「私の方こそ、一緒にいれば副団長のご迷惑になるでしょう。ですから…婚約を白紙にして頂きたいのです」
そう告げてにこりと笑みを浮かべると、副団長が目を見開いた。今、私はちゃんと笑えているだろうか…
考えて考えて、母には父が影だという事がどれくらい私達の生活に影響しているのかも問い詰めて、私はこの事実に行き付いた。副団長と一緒にいるから危険なのではない、私自身が危険を招く存在なのだ。一緒にいれば副団長は私も守らねばならなくなって、その負担は倍になるだろう。そして万が一の時、彼は自分よりも私を優先する。だから私達は…一緒にいてはいけない。
「エリアーヌ嬢…」
振り絞る様に告げられた声には、どんな感情が含まれているのだろうか。それが少しでも好意的なものであればいいのに、と思う。
「仮とは言え、副団長の婚約者でいる間、貴重な体験が出来てとても楽しかったです」
「……」
「お手数ですが婚約白紙の手続きをお願いしても?」
「…ああ」
「それでは、近々こちらのお屋敷もお暇させて頂きます。母達にも移動するように伝えます。今迄お世話になりました」
そう言って深く頭を下げた。目の奥がツンとしたけれど、その感覚を無理やり振り払った。まだ私の最後の大仕事は終わっていないのだから。
「最後に、よろしいでしょうか?」
「…ああ。何でも言って欲しい。出来る限りエリアーヌ嬢の希望通りに…」
「婚約解消の手続き以外に望む事はありません。ただ…」
「ただ?」
最後にこれだけは笑顔で言いたい。怯みそうになる心を叱咤して、もう一度笑顔を引っ張り出した。
「好きです、副団長」
「…っ」
万感を込めて、そう告げた。ああ、彼をこうも驚かせるとは思わなかった。出し抜いてやったと言う悪戯心と、最後まで笑顔で言い切れた満足感が、溢れ出しそうになる涙を辛うじて押しとどめた。
「それでは失礼します」
立ち上がって最後にもう一度深く頭を下げた。もう少しだけ頑張れ自分、そう思いながら表情筋にもう一度力を込めて、私は部屋を出た。
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