114 / 116
天敵~アレクSide
しおりを挟む
「陛下、あいつを何とかしてくれ!」
今日も俺は朝から国王になった兄の元に参じてそう告げていた。事の発端は毎度同じで、フランクールから嫁いできた王女―今は兄の妻の王妃だった。フランクールの伯父上の姪だった王妃は、気さくで庶民的といえば聞こえはいいが、俺に言わせればがさつで令嬢としての礼儀も何もなっていない、令嬢とは名ばかりの女だった。
(いや、あれは女といっていいのか? )
金の髪は艶やかだが短くて男のようだし、気が付けばドレスを脱いで俺達と変わりない服装で過ごしているし、趣味はダンスや刺繍だと聞いていたのに、実際には乗馬と剣だという。淑女教育は受けたが好きではなく、本当は男に生まれたかったとのたまった。さすがに兄も暫く呆然としていて、このまま夫婦になって大丈夫なのか? とその場にいた者は思ったはずだ。
そして今日も朝から、エリーやクラリス嬢を伴って孤児院の慰問に出たという。勝手に市井に出るのがどれほど危険なのか、あいつらはわかっていない。お陰であいつらが外に出るたびに俺達が大捜索を繰り広げるというのが最近のパターンだ。行くのはいいが、事前に報告しろというのに、あの王妃は事前に通達を出したら民の自然な姿が見えないとかぬかす……
(あの女、王妃でなかったら騎士団でしばき倒すのに……)
そう思うくらい、あの女はエリーの安全を無視していた。何度も彼女は狙われているから危険だと言っても、心配し過ぎだの束縛が激しいだのと、まるで俺が嫉妬しているかのように言うのも腹立たしい。もしエリーに何かあったらどうしてくれるんだ? そう思うのに、肝心のエリーも王妃に同調する有様だ。影も付けてあるから今のところ事なきを得ているが、明日も無事だと保証なんか出来る筈もない。
「アレク、すまん……」
「謝罪が聞きたいわけではありません。大人しく王宮にいるよう、しっかり躾て下さい」
「そうは言うがな、王宮はストレスが溜まると言うから」
「だからって王妃がホイホイ市井に出てどうするんです? 誘拐されたらフランクールに何と報告されるおつもりで? 万が一の時にはその首を差し出す覚悟はおありなんでしょうね?」
大国フランクール王女の王妃が市井で暴漢にでも襲われたりしたら、それこそ国際問題だ。損害賠償を請求されても、先王の代の赤字で我が国の財政はかなり寂しい。国王の即位とそれに続く婚姻で、相当な出費もあった。ここで何かあったら我が国は傾くだろう。そして、そうなった場合に後始末をするのは俺なのだ。
「わ、私の首を?」
「当り前でしょう? 国同士の問題なんです。国王の首でなきゃ向こうも納得しませんよ」
「そんな……」
そこで兄が顔を青くしたが、ちょっと待て、何だよ、そのリアクションは。そんなことも想定せずにホイホイ許可を出していたんじゃないだろうな?
「兄上、あれは王妃としての自覚が皆無です。未だに我が国には観光に来た気分ですよ」
「まさか!」
「昨日は『目指せ、王都のスイーツ完全制覇!』と叫んでいましたけど?」
「ああ、私も聞きましたね」
「嘘だろ……」
俺とサロモンの言葉に、兄王が呆然と呟いた。規格外の我が王妃陛下の正体は、宰相府辺りでは知らぬ者がいないほどに有名なんだが……
(この兄は妻の何を見ているんだ?)
王としては優秀だと言われているのに、王妃が絡むと途端にポンコツになるのは何故だ? 十も年下の若い妻が可愛いのはわからなくもないが……
(王妃としての公務の六割はエリーに押し付けているんだぞ? エリーだって王太子妃としての公務を、まだ結婚前だっているのにこなしているっていうのに……!)
慣れないからとか何とか言って公務をエリーに押し付け、エリーも可哀相だからといって言われるがまま引き受けている。そのせいで連日夜遅くまで仕事をしているのだ。お陰で俺との時間が殆ど取れない。ようやく婚約者としてゆっくり過ごせると思っていたのに、最近は邪魔者扱いされている。思い出すだけでも腹立たしい…
「これ以上王妃の公務をエリーに押し付けるなら、俺は王太子の座を下りて王領にでも引きこもりますので」
「な……! ま、待ってくれ、アレク!」
冷たくそう告げると、それは困ると慌てだしたが、俺は八割、いや、九割本気だ。
「早急に対処する。頼むから王太子の座を下りるなんて言わないでくれ!」
そう宣言した兄だったが……それが守られるまで、俺はあと一年を耐えねばならなかった。
今日も俺は朝から国王になった兄の元に参じてそう告げていた。事の発端は毎度同じで、フランクールから嫁いできた王女―今は兄の妻の王妃だった。フランクールの伯父上の姪だった王妃は、気さくで庶民的といえば聞こえはいいが、俺に言わせればがさつで令嬢としての礼儀も何もなっていない、令嬢とは名ばかりの女だった。
(いや、あれは女といっていいのか? )
金の髪は艶やかだが短くて男のようだし、気が付けばドレスを脱いで俺達と変わりない服装で過ごしているし、趣味はダンスや刺繍だと聞いていたのに、実際には乗馬と剣だという。淑女教育は受けたが好きではなく、本当は男に生まれたかったとのたまった。さすがに兄も暫く呆然としていて、このまま夫婦になって大丈夫なのか? とその場にいた者は思ったはずだ。
そして今日も朝から、エリーやクラリス嬢を伴って孤児院の慰問に出たという。勝手に市井に出るのがどれほど危険なのか、あいつらはわかっていない。お陰であいつらが外に出るたびに俺達が大捜索を繰り広げるというのが最近のパターンだ。行くのはいいが、事前に報告しろというのに、あの王妃は事前に通達を出したら民の自然な姿が見えないとかぬかす……
(あの女、王妃でなかったら騎士団でしばき倒すのに……)
そう思うくらい、あの女はエリーの安全を無視していた。何度も彼女は狙われているから危険だと言っても、心配し過ぎだの束縛が激しいだのと、まるで俺が嫉妬しているかのように言うのも腹立たしい。もしエリーに何かあったらどうしてくれるんだ? そう思うのに、肝心のエリーも王妃に同調する有様だ。影も付けてあるから今のところ事なきを得ているが、明日も無事だと保証なんか出来る筈もない。
「アレク、すまん……」
「謝罪が聞きたいわけではありません。大人しく王宮にいるよう、しっかり躾て下さい」
「そうは言うがな、王宮はストレスが溜まると言うから」
「だからって王妃がホイホイ市井に出てどうするんです? 誘拐されたらフランクールに何と報告されるおつもりで? 万が一の時にはその首を差し出す覚悟はおありなんでしょうね?」
大国フランクール王女の王妃が市井で暴漢にでも襲われたりしたら、それこそ国際問題だ。損害賠償を請求されても、先王の代の赤字で我が国の財政はかなり寂しい。国王の即位とそれに続く婚姻で、相当な出費もあった。ここで何かあったら我が国は傾くだろう。そして、そうなった場合に後始末をするのは俺なのだ。
「わ、私の首を?」
「当り前でしょう? 国同士の問題なんです。国王の首でなきゃ向こうも納得しませんよ」
「そんな……」
そこで兄が顔を青くしたが、ちょっと待て、何だよ、そのリアクションは。そんなことも想定せずにホイホイ許可を出していたんじゃないだろうな?
「兄上、あれは王妃としての自覚が皆無です。未だに我が国には観光に来た気分ですよ」
「まさか!」
「昨日は『目指せ、王都のスイーツ完全制覇!』と叫んでいましたけど?」
「ああ、私も聞きましたね」
「嘘だろ……」
俺とサロモンの言葉に、兄王が呆然と呟いた。規格外の我が王妃陛下の正体は、宰相府辺りでは知らぬ者がいないほどに有名なんだが……
(この兄は妻の何を見ているんだ?)
王としては優秀だと言われているのに、王妃が絡むと途端にポンコツになるのは何故だ? 十も年下の若い妻が可愛いのはわからなくもないが……
(王妃としての公務の六割はエリーに押し付けているんだぞ? エリーだって王太子妃としての公務を、まだ結婚前だっているのにこなしているっていうのに……!)
慣れないからとか何とか言って公務をエリーに押し付け、エリーも可哀相だからといって言われるがまま引き受けている。そのせいで連日夜遅くまで仕事をしているのだ。お陰で俺との時間が殆ど取れない。ようやく婚約者としてゆっくり過ごせると思っていたのに、最近は邪魔者扱いされている。思い出すだけでも腹立たしい…
「これ以上王妃の公務をエリーに押し付けるなら、俺は王太子の座を下りて王領にでも引きこもりますので」
「な……! ま、待ってくれ、アレク!」
冷たくそう告げると、それは困ると慌てだしたが、俺は八割、いや、九割本気だ。
「早急に対処する。頼むから王太子の座を下りるなんて言わないでくれ!」
そう宣言した兄だったが……それが守られるまで、俺はあと一年を耐えねばならなかった。
178
あなたにおすすめの小説
本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?
神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。
カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。
(※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる