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天敵~アレクSide
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「陛下、あいつを何とかしてくれ!」
今日も俺は朝から国王になった兄の元に参じてそう告げていた。事の発端は毎度同じで、フランクールから嫁いできた王女―今は兄の妻の王妃だった。フランクールの伯父上の姪だった王妃は、気さくで庶民的といえば聞こえはいいが、俺に言わせればがさつで令嬢としての礼儀も何もなっていない、令嬢とは名ばかりの女だった。
(いや、あれは女といっていいのか? )
金の髪は艶やかだが短くて男のようだし、気が付けばドレスを脱いで俺達と変わりない服装で過ごしているし、趣味はダンスや刺繍だと聞いていたのに、実際には乗馬と剣だという。淑女教育は受けたが好きではなく、本当は男に生まれたかったとのたまった。さすがに兄も暫く呆然としていて、このまま夫婦になって大丈夫なのか? とその場にいた者は思ったはずだ。
そして今日も朝から、エリーやクラリス嬢を伴って孤児院の慰問に出たという。勝手に市井に出るのがどれほど危険なのか、あいつらはわかっていない。お陰であいつらが外に出るたびに俺達が大捜索を繰り広げるというのが最近のパターンだ。行くのはいいが、事前に報告しろというのに、あの王妃は事前に通達を出したら民の自然な姿が見えないとかぬかす……
(あの女、王妃でなかったら騎士団でしばき倒すのに……)
そう思うくらい、あの女はエリーの安全を無視していた。何度も彼女は狙われているから危険だと言っても、心配し過ぎだの束縛が激しいだのと、まるで俺が嫉妬しているかのように言うのも腹立たしい。もしエリーに何かあったらどうしてくれるんだ? そう思うのに、肝心のエリーも王妃に同調する有様だ。影も付けてあるから今のところ事なきを得ているが、明日も無事だと保証なんか出来る筈もない。
「アレク、すまん……」
「謝罪が聞きたいわけではありません。大人しく王宮にいるよう、しっかり躾て下さい」
「そうは言うがな、王宮はストレスが溜まると言うから」
「だからって王妃がホイホイ市井に出てどうするんです? 誘拐されたらフランクールに何と報告されるおつもりで? 万が一の時にはその首を差し出す覚悟はおありなんでしょうね?」
大国フランクール王女の王妃が市井で暴漢にでも襲われたりしたら、それこそ国際問題だ。損害賠償を請求されても、先王の代の赤字で我が国の財政はかなり寂しい。国王の即位とそれに続く婚姻で、相当な出費もあった。ここで何かあったら我が国は傾くだろう。そして、そうなった場合に後始末をするのは俺なのだ。
「わ、私の首を?」
「当り前でしょう? 国同士の問題なんです。国王の首でなきゃ向こうも納得しませんよ」
「そんな……」
そこで兄が顔を青くしたが、ちょっと待て、何だよ、そのリアクションは。そんなことも想定せずにホイホイ許可を出していたんじゃないだろうな?
「兄上、あれは王妃としての自覚が皆無です。未だに我が国には観光に来た気分ですよ」
「まさか!」
「昨日は『目指せ、王都のスイーツ完全制覇!』と叫んでいましたけど?」
「ああ、私も聞きましたね」
「嘘だろ……」
俺とサロモンの言葉に、兄王が呆然と呟いた。規格外の我が王妃陛下の正体は、宰相府辺りでは知らぬ者がいないほどに有名なんだが……
(この兄は妻の何を見ているんだ?)
王としては優秀だと言われているのに、王妃が絡むと途端にポンコツになるのは何故だ? 十も年下の若い妻が可愛いのはわからなくもないが……
(王妃としての公務の六割はエリーに押し付けているんだぞ? エリーだって王太子妃としての公務を、まだ結婚前だっているのにこなしているっていうのに……!)
慣れないからとか何とか言って公務をエリーに押し付け、エリーも可哀相だからといって言われるがまま引き受けている。そのせいで連日夜遅くまで仕事をしているのだ。お陰で俺との時間が殆ど取れない。ようやく婚約者としてゆっくり過ごせると思っていたのに、最近は邪魔者扱いされている。思い出すだけでも腹立たしい…
「これ以上王妃の公務をエリーに押し付けるなら、俺は王太子の座を下りて王領にでも引きこもりますので」
「な……! ま、待ってくれ、アレク!」
冷たくそう告げると、それは困ると慌てだしたが、俺は八割、いや、九割本気だ。
「早急に対処する。頼むから王太子の座を下りるなんて言わないでくれ!」
そう宣言した兄だったが……それが守られるまで、俺はあと一年を耐えねばならなかった。
今日も俺は朝から国王になった兄の元に参じてそう告げていた。事の発端は毎度同じで、フランクールから嫁いできた王女―今は兄の妻の王妃だった。フランクールの伯父上の姪だった王妃は、気さくで庶民的といえば聞こえはいいが、俺に言わせればがさつで令嬢としての礼儀も何もなっていない、令嬢とは名ばかりの女だった。
(いや、あれは女といっていいのか? )
金の髪は艶やかだが短くて男のようだし、気が付けばドレスを脱いで俺達と変わりない服装で過ごしているし、趣味はダンスや刺繍だと聞いていたのに、実際には乗馬と剣だという。淑女教育は受けたが好きではなく、本当は男に生まれたかったとのたまった。さすがに兄も暫く呆然としていて、このまま夫婦になって大丈夫なのか? とその場にいた者は思ったはずだ。
そして今日も朝から、エリーやクラリス嬢を伴って孤児院の慰問に出たという。勝手に市井に出るのがどれほど危険なのか、あいつらはわかっていない。お陰であいつらが外に出るたびに俺達が大捜索を繰り広げるというのが最近のパターンだ。行くのはいいが、事前に報告しろというのに、あの王妃は事前に通達を出したら民の自然な姿が見えないとかぬかす……
(あの女、王妃でなかったら騎士団でしばき倒すのに……)
そう思うくらい、あの女はエリーの安全を無視していた。何度も彼女は狙われているから危険だと言っても、心配し過ぎだの束縛が激しいだのと、まるで俺が嫉妬しているかのように言うのも腹立たしい。もしエリーに何かあったらどうしてくれるんだ? そう思うのに、肝心のエリーも王妃に同調する有様だ。影も付けてあるから今のところ事なきを得ているが、明日も無事だと保証なんか出来る筈もない。
「アレク、すまん……」
「謝罪が聞きたいわけではありません。大人しく王宮にいるよう、しっかり躾て下さい」
「そうは言うがな、王宮はストレスが溜まると言うから」
「だからって王妃がホイホイ市井に出てどうするんです? 誘拐されたらフランクールに何と報告されるおつもりで? 万が一の時にはその首を差し出す覚悟はおありなんでしょうね?」
大国フランクール王女の王妃が市井で暴漢にでも襲われたりしたら、それこそ国際問題だ。損害賠償を請求されても、先王の代の赤字で我が国の財政はかなり寂しい。国王の即位とそれに続く婚姻で、相当な出費もあった。ここで何かあったら我が国は傾くだろう。そして、そうなった場合に後始末をするのは俺なのだ。
「わ、私の首を?」
「当り前でしょう? 国同士の問題なんです。国王の首でなきゃ向こうも納得しませんよ」
「そんな……」
そこで兄が顔を青くしたが、ちょっと待て、何だよ、そのリアクションは。そんなことも想定せずにホイホイ許可を出していたんじゃないだろうな?
「兄上、あれは王妃としての自覚が皆無です。未だに我が国には観光に来た気分ですよ」
「まさか!」
「昨日は『目指せ、王都のスイーツ完全制覇!』と叫んでいましたけど?」
「ああ、私も聞きましたね」
「嘘だろ……」
俺とサロモンの言葉に、兄王が呆然と呟いた。規格外の我が王妃陛下の正体は、宰相府辺りでは知らぬ者がいないほどに有名なんだが……
(この兄は妻の何を見ているんだ?)
王としては優秀だと言われているのに、王妃が絡むと途端にポンコツになるのは何故だ? 十も年下の若い妻が可愛いのはわからなくもないが……
(王妃としての公務の六割はエリーに押し付けているんだぞ? エリーだって王太子妃としての公務を、まだ結婚前だっているのにこなしているっていうのに……!)
慣れないからとか何とか言って公務をエリーに押し付け、エリーも可哀相だからといって言われるがまま引き受けている。そのせいで連日夜遅くまで仕事をしているのだ。お陰で俺との時間が殆ど取れない。ようやく婚約者としてゆっくり過ごせると思っていたのに、最近は邪魔者扱いされている。思い出すだけでも腹立たしい…
「これ以上王妃の公務をエリーに押し付けるなら、俺は王太子の座を下りて王領にでも引きこもりますので」
「な……! ま、待ってくれ、アレク!」
冷たくそう告げると、それは困ると慌てだしたが、俺は八割、いや、九割本気だ。
「早急に対処する。頼むから王太子の座を下りるなんて言わないでくれ!」
そう宣言した兄だったが……それが守られるまで、俺はあと一年を耐えねばならなかった。
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