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輿入れしてきた王妃
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私がアレクと婚約してから、一年半が経った。婚約するまでは紆余曲折あった私たちだったが、それ以降は何事もなく日が過ぎていった、と思う。
半年前には国王陛下が退位されて、王太子殿下が即位された。それと同時にフランクール国王の姪が王女として輿入れなさった。マドレーヌ様と仰るその王女殿下は、御年十六歳の初々しい方で、王太子殿下とは十歳も離れているため、正直大丈夫かと思ったのは内緒だ。しかもマドレーヌ様は年よりもお若く見えるものだから、お二人が並んで立つと夫婦というよりも年の離れた兄妹にしか見えなかった。
フランクール国王の同腹の弟君のお子だったマドレーヌ様は、王領の田舎でお育ちになった。元々側妃腹だった前王妃様やフランクール国王陛下、そしてマドレーヌ様の父君の三人は、長年正妃に蔑ろにされて不遇にお過ごしだったと言う。
マドレーヌ様の父君は学者肌で植物学の研究にしか興味がなく、田舎の王領で山岳地帯でも作れる穀物の研究をされていた。マドレーヌ様も生まれた時から田舎暮らしだったせいか、非常に気さくで庶民的で、とても活発だった。そう、男性と同じ格好をして馬に乗り剣を振り回すような、そんなお方だったのだ。
「エリーお姉さま! クラリスも、一緒にお茶にしましょう」
そう言って淑女教育から逃げ出してくるのは日常茶飯事だ。それでも王族としての一通りのマナーは身についているし、それ以外の授業は真面目で精力的に励んでいらっしゃるので、私たちはついつい甘くなってしまう。
しかも、こんな時のマドレーヌ様は男装していることが多く、どこから見ても天使のような美少年なのだ。キラキラの笑顔が眩しい…!アレクも少年時代はこんな感じだったのだろうか。そう思いたくなるほどに凛々しくも可愛らしい美少年ぶりだった。
(美少年は対象外だけど……愛でるだけなら問題ないわよね)
一番の好みの顔はアレクだけど、ずっと同じものばかり見ていればいずれ飽きるかもしれない。時々は違うものを愛でるのも、長い目で見ればいいのかもしれない、と思う。
「王妃陛下、何やっているんですか?」
庭でお茶を頂いていると、大抵はアレクがやって来て苦言を呈した。彼は王太子として国王陛下を支えているけれど、王妃様には点が辛い。まだお若いのだし、慣れない他国で努力していらっしゃるのだからと思うのだけど、甘やかしすぎだと言うばかりだ。
「アレクったら…そんなに目くじら立てなくても……」
「何言っているんだ、エリー? エリーだって王妃の仕事まで押し付けられて、寝る時間も削っているだろうが」
「別に王妃様の仕事だけじゃないわ。私の仕事もあるし」
「それでも! 王妃の仕事が無けりゃもう少し寝る時間が確保出来るだろうが」
こんな感じで、アレクは私が仕事をしようとするとやり過ぎだと文句を言ってくるのだ。そうは言っても私も仕事中毒だったせいか、仕事をしていないと落ち着かないんだからいいじゃないかと思う。それに今は国にとっても正念場なのだ。
「無理はしていないからいいでしょう?」
「そう言って無理をするのがお前だから心配なんだよ」
こんな押し問答を繰り返していたのだけど……
「はいはい、お二人さん。痴話げんかなら二人きりでどうぞ」
そう言ってマドレーヌ様は、ニヤニヤした笑顔を浮かべてクラリスと共に行ってしまった。
「え? ちょっと、待って下さい!」
「待てよ、エリー。話は終わっていない。そういえば一昨日の貧民院の視察の件だが……」
こうして私は、今度はアレクにくどくどとお説教をされる羽目になった。一昨日の貧民院の視察は、マドレーヌ様とクラリスとで行ったもので、事後報告でいいだろうと思って出かけたものだ。護衛を二人連れて行ったからいいじゃないかと思ったら、アレクに見つかって散々叱られたし、王宮に戻ってからは国王陛下にさらに叱られた。お陰で当面は視察禁止になってしまったのだ。
「アレクは心配し過ぎなのよ」
「馬鹿言うな。先王の残党がどこにいるかわからないだぞ。もうじき俺達の結婚式だっていうのに、今何かあったら…」
「そ、それは……」
「お前を愛しているから、心配でたまらないんだ」
物凄く不安そうな、縋るような目で見つめられてしまえば、それ以上我を張ることなど出来そうになかった。これがアレクの作戦だとわかっていてもだ。
「俺の気持ち、まだ伝わっていないんだな」
「そ、そんなことは……」
そのまま部屋に連れていかれてそう言われたけれど、気付いた時には遅かった。その後、彼に散々構い倒された私が翌朝起き上がれなかったのは言うまでもない。
半年前には国王陛下が退位されて、王太子殿下が即位された。それと同時にフランクール国王の姪が王女として輿入れなさった。マドレーヌ様と仰るその王女殿下は、御年十六歳の初々しい方で、王太子殿下とは十歳も離れているため、正直大丈夫かと思ったのは内緒だ。しかもマドレーヌ様は年よりもお若く見えるものだから、お二人が並んで立つと夫婦というよりも年の離れた兄妹にしか見えなかった。
フランクール国王の同腹の弟君のお子だったマドレーヌ様は、王領の田舎でお育ちになった。元々側妃腹だった前王妃様やフランクール国王陛下、そしてマドレーヌ様の父君の三人は、長年正妃に蔑ろにされて不遇にお過ごしだったと言う。
マドレーヌ様の父君は学者肌で植物学の研究にしか興味がなく、田舎の王領で山岳地帯でも作れる穀物の研究をされていた。マドレーヌ様も生まれた時から田舎暮らしだったせいか、非常に気さくで庶民的で、とても活発だった。そう、男性と同じ格好をして馬に乗り剣を振り回すような、そんなお方だったのだ。
「エリーお姉さま! クラリスも、一緒にお茶にしましょう」
そう言って淑女教育から逃げ出してくるのは日常茶飯事だ。それでも王族としての一通りのマナーは身についているし、それ以外の授業は真面目で精力的に励んでいらっしゃるので、私たちはついつい甘くなってしまう。
しかも、こんな時のマドレーヌ様は男装していることが多く、どこから見ても天使のような美少年なのだ。キラキラの笑顔が眩しい…!アレクも少年時代はこんな感じだったのだろうか。そう思いたくなるほどに凛々しくも可愛らしい美少年ぶりだった。
(美少年は対象外だけど……愛でるだけなら問題ないわよね)
一番の好みの顔はアレクだけど、ずっと同じものばかり見ていればいずれ飽きるかもしれない。時々は違うものを愛でるのも、長い目で見ればいいのかもしれない、と思う。
「王妃陛下、何やっているんですか?」
庭でお茶を頂いていると、大抵はアレクがやって来て苦言を呈した。彼は王太子として国王陛下を支えているけれど、王妃様には点が辛い。まだお若いのだし、慣れない他国で努力していらっしゃるのだからと思うのだけど、甘やかしすぎだと言うばかりだ。
「アレクったら…そんなに目くじら立てなくても……」
「何言っているんだ、エリー? エリーだって王妃の仕事まで押し付けられて、寝る時間も削っているだろうが」
「別に王妃様の仕事だけじゃないわ。私の仕事もあるし」
「それでも! 王妃の仕事が無けりゃもう少し寝る時間が確保出来るだろうが」
こんな感じで、アレクは私が仕事をしようとするとやり過ぎだと文句を言ってくるのだ。そうは言っても私も仕事中毒だったせいか、仕事をしていないと落ち着かないんだからいいじゃないかと思う。それに今は国にとっても正念場なのだ。
「無理はしていないからいいでしょう?」
「そう言って無理をするのがお前だから心配なんだよ」
こんな押し問答を繰り返していたのだけど……
「はいはい、お二人さん。痴話げんかなら二人きりでどうぞ」
そう言ってマドレーヌ様は、ニヤニヤした笑顔を浮かべてクラリスと共に行ってしまった。
「え? ちょっと、待って下さい!」
「待てよ、エリー。話は終わっていない。そういえば一昨日の貧民院の視察の件だが……」
こうして私は、今度はアレクにくどくどとお説教をされる羽目になった。一昨日の貧民院の視察は、マドレーヌ様とクラリスとで行ったもので、事後報告でいいだろうと思って出かけたものだ。護衛を二人連れて行ったからいいじゃないかと思ったら、アレクに見つかって散々叱られたし、王宮に戻ってからは国王陛下にさらに叱られた。お陰で当面は視察禁止になってしまったのだ。
「アレクは心配し過ぎなのよ」
「馬鹿言うな。先王の残党がどこにいるかわからないだぞ。もうじき俺達の結婚式だっていうのに、今何かあったら…」
「そ、それは……」
「お前を愛しているから、心配でたまらないんだ」
物凄く不安そうな、縋るような目で見つめられてしまえば、それ以上我を張ることなど出来そうになかった。これがアレクの作戦だとわかっていてもだ。
「俺の気持ち、まだ伝わっていないんだな」
「そ、そんなことは……」
そのまま部屋に連れていかれてそう言われたけれど、気付いた時には遅かった。その後、彼に散々構い倒された私が翌朝起き上がれなかったのは言うまでもない。
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