『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫

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真っすぐな想いと歪んだ思い

「ルジェク様、素敵だった…」

 ラドミールに絡まれたところをルジェクに助けて貰ったラヴィは、部屋に戻ってから一人、その喜びを噛みしめていた。あんなにたくさん話をしたのは、以前ルジェクが求婚するラヴィに詳しく話を聞きに来た時以来だ。
 あの時ルジェクは真摯にラヴィの話を聞いてくれたが、求婚はハッキリと断られた。ルジェクには番の感覚がわからないし、ラヴィはまだ若くて可愛い。自分のように醜い傷がある年上の男よりも、もっと見目のいい年の近い男の方がふさわしいだろうと言われたのだ。
 ラヴィにとって番以外は無価値で、どれほど美形だろうが王族で権力があろうが意味がない。番のルジェク以外に価値はないと言い切れるほどラヴィはルジェクに盲目だったが、それをルジェクに話しても理解して貰えず、今に至る。

 それでも、ルジェクが自分を守ってくれたことは、ラヴィには天にも昇る様な嬉しい出来事だった。もうこの日を記念日にしたいと思えるほどに。
 もちろん、ルジェクはラヴィだったから助けたわけではないだろう。あれが他の人だったとしても、ルジェクは声をかけて助けたはずだ。彼は公平で誠実で優しい人だ。困っていると感じたら迷わず手を差し伸べるだろう。
 それでも、そんな性質はラヴィには好ましかったし、心配して貰えて寮の中に入るまで見送ってくれた優しさは泣きたくなるほどに嬉しかった。今夜は嬉し過ぎて眠れそうもない…そんな余韻に浸るラヴィは、正に恋する乙女だった。




 ラヴィがルジェクに助けられて幸せに浸っているのと同じ頃、ラドミールは苛立ちを隠そうともせずに街の酒屋で憂さを晴らしていた。ラドミールにとって、ルジェクは忌々しい存在だったのだ。

 まずルジェクは、長年自分の妻の想い人でライバルだった。ラドミールにとって、ステラは初恋の相手だったのだ。淡く輝く金髪は柔らかそうで、大きな瞳はいつも潤み、儚げで守ってあげたくなる庇護欲をそそる姿が彼の心を鷲掴みにした。一つ年下なのもあってか、話をする時は窺うような上目使いで見上げてくるのも可愛かった。つまりラドミールは、すっかりステラに夢中だったのだ。

 それなのに…ステラはいつもルジェクばかりを見ていた。ステラとルジェクは幼い頃に結婚しようと約束を交わして、ルジェクは律義にもその約束を守るために魔獣討伐に志願して、大怪我をした。
 その時ラドミールは、直ぐに父に頼んで、ステラとの結婚を強請ったのだ。その頃にはルジェクは顔に大きな傷を負ったと広まっていたため、ステラの気持ちが離れるだろうと見越しての事だった。
ステラの父も、大怪我を負って回復や出世が見込めそうもないルジェクよりも、そこそこに裕福なラドミールの方が得る物が多いと判断したのか、あっさり結婚を許した。
 ステラはルジェクに義理立てするかと思ったが…意外にもあっさりと自分との結婚を承諾した。どう説得しようかと考えていたラドミールは、そんな彼女に肩透かしを食らった気分だった。

 結婚生活が楽しかったのは、最初の1年くらいだった。ずっと恋焦がれていたステラだったが、その儚げな外見に似ず、中身は我儘で強かな女だった。あの愁いを帯びた表情でお願いと言われると断り切れないのだが、気が付けばその要求は段々エスカレートしていった。
 それだけではない。男友達が異様に多いのだ。調べてみると、ステラは少なくとも五人の男と関係を持っていた。とんだ阿婆擦れだったが、その外見から両親も誰もその本性に気が付かないようだった。
 これまで天使の様だと思っていただけに、ラドミールの失望は大きく、それまでの恋心などあっという間に熱を失い、この結婚を心から後悔した。
 しかも二人は結婚して8年が経つのに、未だ子供が出来ない事もラドミールの心を蝕んだ。これも調べて分かったのだが、彼女は結婚してからずっと、夫に隠れて避妊の薬を飲んでいたのだ。つまり彼女は最初からラドミールの子を産む気はなかったのだ。彼女が欲しかったのはそこそこに裕福な生活と、信望者に囲まれてチヤホヤされる生活だったのだ。

 更には、ルジェクは自分と同じ年でありながら、副団長と騎士団の中では出世株だった。未だに小隊長でしかない自分とは大きな差だ。そのせいか、最近ステラはルジェクを気にしていた。小隊長の妻よりも、副騎士団長の妻の方が外聞もよく、収入も大きく差がある。
いくら実家が裕福でも、ラドミールは跡取りではないし、いつまでも実家の恩恵を受けられるわけでもないという事実もラドミールを陰鬱にさせた。もうすぐ兄が後を継いて、父親は隠居するのだ。両親と違い金銭感覚に厳しい兄は商会をより発展させるだろうが、自分が得られる恩恵は確実に減るのが予想されていた。

 その様な事情もあって、ラドミールはルジェクへの憤りを一人で勝手に育てていたのだが、先ほどのやり取りがその怒りに一層油を注いだ。自分が気に入っていたラヴィが、ルジェクを番と認識して求婚しているのも影響した。これはラヴィ側からの一方的な想いなのだが、ラドミールがその事を知ったのはラヴィを好ましく思うようになった後で、ルジェクが自分のお気に入りを次々と奪っていくように感じたのだ。

「くそっ!あいつに思い知らせてやりたい…」
「あら?何だかたのしそうね、ラドミール」

 声をかけてきたのは、キャメルブロンドの髪を緩く結い上た、紫紺の瞳の肉感的な女だった。
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