異世界に釣られたら婿殿にされた件について

のみかん

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第十六話『……上等だ』

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「ギャラリーはああ言ってるけど。それでもやめておきますか?」

 断れないだろうということを見越してアキレスが訊ねてきた。
 小憎たらしく笑いやがってこの野郎。

「こういう場の空気に踊らされるのは好きじゃないんだけどな」

 とはいえ、ここで引くのは初手としてよくない方向へ向きそうだ。

 マイナス評価とでもいうのだろうか。

 元の世界でもオレに標準以上の力があったからこそ、攻撃は直接的ではない姿を見せずに行われる陰湿なものだけで大半はおさまっていた。

 あれでオレが反撃のできない弱者であったなら、周囲は得意げになって正面からの罵倒を常に行っていただろう。
 つまり、腰抜けのそしりを受ければ遠慮というものはなくなる。
 畏れをなくせば尊厳を失う。
 
 オレが王族の婿という立場である以上、正面切って舐めた態度を取られることはありえないだろう。
 だが威厳がなくなればそれはただの裸の王。
 張りぼての権力の前に吊るされた道化だ。

 そうなることは確実にオレをこの世界で生き辛くさせるだろう。

「まったく、厄介な提案をしてくれたもんだ。とんだ食わせ者だぜ、あんた」

「うちの隊は荒くれ者が多いのでね。こういうことへの食いつきはすこぶるいいんですよ。申し訳ないことですが」

 荒くれ者が多いのは見たらわかる。
 どちらが勝つかという賭けまでし始めたしな。
 オレに賭けてるやつはいなさそうだけど。

 それ、賭けになるのか? 
 自由なやつらだ。
 チンピラと変わらない。

 大丈夫なのかこの国の兵士は。

「…………」

 エア子もエア子で相も変わらず澄ました顔で案山子のように突っ立っている。
 黙ってないで何か喋ったらどうなんだ。

「得物はそれでいいですか? なら、早速始めましょう」

「は? お前、これ竹刀で……」

 オレが意義を唱える間もなく、アキレスは剣の先端を思い切り突き出してきた。

「あぶねっ」

 迫りくる切っ先を間一髪で回避。後方に跳ねて安全圏へと移動する。

「へえ、なかなかやるものだ」

 ニヤリと口元を上げて、飄々とした態度で口笛を吹く。

「この野郎……。どういうつもりだ」

「はて、なんのことやら。次、行きますよ」

 とぼけたふうに言ってアキレスは再び間合いを詰めてくる。
 こいつ何考えてやがる。
 マジで殺す気か?

「……っ!」

 真剣と竹刀じゃ強度が違いすぎる。
 相手の攻撃を正面から受けることもできないし、防ぐこともできない。
 頭おかしいだろ。こんなことして許される世界なのか?

 だとしたらオレはこちらの世界を少々懐疑的な目で見ざるを得なくなる。

「死にたくないなら乗り切って下さいね」

 アキレスの態度は冗談ではない。
 本気でオレに殺意を向けてきている。
 周りの連中はアキレスの殺気に気付いているのかいないのか。馬鹿騒ぎをして大盛り上がり。

 止めに入ってくる気配はない。

「……上等だ」

 こいつがどの程度の使い手なのかは知らないが、オレは最悪死なないようにする手立ては持っている。
 なら隙を突いて抑え込めばいい。

「結局、ここでも自分の力だけが頼りってことかよ」

 オレはアキレスが振り下してくる剣を避ける。
 そして空振って低い位置に降りた剣を上から踏みつけて地面に強引に押し付けさせた。
 股関節の柔らかさに定評のあるオレだからなせる技である。

 元の世界では派手な赤髪と噂が噂を呼んで複数人の不良を相手にすることはザラだった。
 おかげで喧嘩慣れはしていて機転は割と利く方なのだ。
 剣を踏みつけた足はそのまま、前に踏み込んで竹刀の先端でアキレスの喉を狙う。

 最小限で相手の動きを止めるには急所を的確に捉えるしかない。
 しかしアキレスもそう甘くはない。
 竹刀が触れる前に素早く身を屈めてオレの視界から姿を消す。

 その見失ってしまった一瞬が決定的な隙になってしまった。

「うッ」

 アキレスに力強い蹴りで足を払われたオレは重心を崩されて後方へ無様に倒れ込む。

 地べたに背中を打った衝撃にハフッと息を吐き出すと、跨ぐように仁王立ちになって剣を突き立てようとしているアキレスがいた。

「不本意ですが、これも運命だと思ってください」

「アホか、こんなんでやられてたまるかってんだよ」

 
 鋭利な剣先がオレの喉笛に一直線に突き立てられる――


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