異世界に釣られたら婿殿にされた件について

のみかん

文字の大きさ
19 / 46

第十八話『ロキ・アルゴナウティカ・ウトガルデロック』

しおりを挟む


※※※


 不機嫌な足音を鳴らしながら、城内の廊下を歩く者がいた。
 ロキ・アルゴナウティカ・ウトガルデロック。ウトガルド王国の王子である。

「アキレス、あれは一体どういうつもりだ」

 ロキは通路からひょっこり顔を出してきた騎士に厳しい視線を向ける。
 アキレスが一人でいるということは訓練場で起こした騒ぎの説教をしていたアンナは彼に巻かれてしまったらしい。

 まったくもって要領だけはいい男だとロキは嘆息する。
 いや、アキレスが最も優れているのは剣の腕前か。
 そのおかげでこのアキレスは人の上に立てる器にないにも関わらず王城で地位を手にしているのだ。

『あの連中』への抑止力として、彼は王国が持つ最大のカードなのである。

 代替の利かない存在であるからそうそうのことでアキレスの立場は脅かされない。

 それをわかっていてギリギリのラインで勝手気ままに振る舞うアキレスのことを王族の責務を強く意識しているロキは好きになれなかった。

「おや? ロキ様が彼を挑発して私闘を吹っかけるようにと仰せられたのではないですか。エイル様の前でジゲン殿のみっともない姿を晒させるようにと」

 わざとらしく驚いた口調で述べるアキレス。
 その態度がなおさらロキを苛立たせる。

「泣いて侘びを乞う姿を引き出せればよかったのだ! それなのに貴様は一歩間違えたら殺していたかもしれない危険な真似をして……! 何を考えている!」

 そう、幼い頃からエイルに恋慕しているロキは儀式で現れたジゲンを快く思っておらず、彼女からジゲンに幻滅するよう仕向けるためアキレスに手を回していたのだった。

 例え目の前の男がいけ好かなかったとしても、騎士隊長で唯一の存在である彼は一兵卒よりは口を割る可能性が少ないし実力も確か。
話を持ちかけるにはうってつけの相手だった。

 そもそもアンナは間違いなく引き受けないだろうし、総隊長や副団長などでは逆にロキが窘められてしまう。
 そんなわけで消去法によってアキレスを頼ったわけだが、

「いやはや。思ったより、あの方は肝が据わってましてね。それと腕っ節の方もそれなりにありまして」

 王国最強のこの男が元の世界ではただの一般市民であった少年を脅威にするとは考え難い。
 アキレスは忠義を誓っているように見えて適当に流しているフシがある。
 恐らく怠惰な取り組みを覆い隠すための言い訳なのだろう。

「真剣とシナイでは圧倒的にやつが不利。それではたとえ上手く叩きのめせてもやつに同情がいってしまうだけになっていた。あれでは本当に意味がなかっただろう! どうなのだ、貴様!」

「ああ、それは失念しておりました」

 怒るロキに臆することもなくあっさりと過失を認めるアキレス。
 だが目端の利くこの男がそんな簡単なことを見通せないだろうか。
 そもそも真面目にロキの命令を遂行しようとする意志があったのかすら今となっては疑わしい。

 土台、このピエロやジョーカーのような男を自由に扱えると思ったことが間違いだったのだ。
 前提からアキレスは頼るべき存在ではなかった。
 ロキはがっくりと肩を落として己の青さを恥じ入る。

「フフッ。しかしエイル様は彼を気に入っていないと話していた割に随分心配なさっていたようでしたね。このままではエイル様はジゲン殿に持っていかれてしまいますよね?」

「うぐぐっ……」

「だから、いっそ――全てを終わらせてしまいませんか?」

「何だと……?」

「私にいい考えがあるのですよ――」

 嫌らしく、ねっとりとした声を立ててアキレスはロキに囁く。

 焦点の合わない瞳を見開いて両拳を握りしめる少年とそれを愉快そうに眺める騎士の姿がそこにはあった。


※※※

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

処理中です...