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第三十話『離別の時が、間もなくやって来る』
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ロキは儀式に使われるゲートの前に立ち、自分たちが居住する城を一人で眺めていた。
篝火や各部屋から漏れ出るランプの明かりは夜であっても建物を見えるようにしていて、あそこが温かく人の住まう場所であることを認識させていた。
城から離れたこの薄暗い場所にいると、自分がもう二度とあそこへは戻ることのできない遠いところへ来てしまったのではないかという錯覚を覚える。
一応、何も明かりがなければ夜目が効かないのでロキもゲートの周囲に置かれていた篝火を勝手に焚いて近辺を明るくしているが、それは最低限の視界を確保するだけのもので孤独に佇んだ現状の心許なさを補完するものにはならない。
てらてらと燃え盛る火が照らし出すロキのその瞳はどこか物憂げで悲哀に滲んでいた。
「まだか……」
ロキは城の方角をじっと見つめて終焉がやって来るのを待つ。
じわりじわりと訪れる終末をただ待ち続ける。
自分の身勝手な清算のために巻き込むような真似をするのは申し訳ないと思う。
あの男には謝罪するのは癪なので代わりにエイルに謝っておこう。
王国の繁栄のためにはやむを得ないことだったと話せば、皆まで言わずとも彼女なら理解してくれるはずだ。
そういえば、儀式後にジゲンと初めて会ったのはこの場所だったなと回顧する。
やつには初対面であるにも関わらずエイルに向ける思慕の念を見抜かれた。
脳味噌のない野獣のような相貌とは裏腹に油断のならない鋭い輩だと認識を改めたのは記憶に深く残っている。
あの時は柄にもなく取り乱してしまい、後に自分の未熟さを猛省した。
アキレスによる提案は当初は受け入れがたいものだったが、それでも最後には腹を決めた。
いつまでも叶えてはいけない想いを引きずり続けている自分には決定的に心から諦めるための大きな契機が必要なのだ。
その話を持ちかけた本人は急な任務が入ったと言って立ち会うこともせず、現在は城の外へ出てしまっているが。
無責任なとも思うものの、むしろ無様な自分の姿を他者に晒さずに済んでよかったのかもしれない。
あれは一見うつけ者のように振る舞ってはいるが、人の心の機微に敏感でそれに応じた適切な行動が何かを見定めるのが非常に得意な男だ。
実力と、上手く立ち回れるしたたかさがなくてはあの南方部隊の連中を大人しく従えさせられるわけがない。
頭のよく回るやつだからこそ、今回は気まぐれに良心を働かせロキが第三者の視線を気にせず事を運べるよう気を回したのではないか。
「……それは考えすぎかな」
ギリギリのラインがはっきりわかるからこそ一線を踏まない程度に茶化した真似をするので今ひとつ信頼することができないというのは公知のアキレス評だった。
この計画を実行に移すなら、国王である父や大人たちがいない今のタイミングでやるしかない。ここを逃せば身軽に動くことはできない。
父や騎士団長、その他の王族たちの目を盗んで清廉で誇り高くあるべき王位継承者に相応しくない裏切り行為を働くのは容易いことではない。
王国の中核を担う者たちがいない、今が唯一の好機なのだ。
……僅かな可能性があるのではとどこかに醜く縋ろうとする心が片隅にあり、それをへし折ってくれるような現実を誰かに突きつけてもらわなくては決断できない自分は弱い心の持ち主だと思う。
人の上に立つべき者にも関わらず、外的な要因の介入なしには義務を義務として割り切れない。
エイルが釣り上げたジゲンに意味のない八つ当たりのような態度をかまして、アキレスをけしかけたりもした。
そしてジゲンにはあっさりとその全てを受け流された。
「振り返ってみればとんだ醜態だったな」
これからさらなる醜態を見せるのだ。恥の上塗りで恥を消すとは滑稽なものだな。
苦笑しながら、ロキは持ち出した木剣を撫でた。
……もうすぐだ。もうすぐ。その時はくる。
長年の想いを打ち消す、そのために行う自分にとっての『儀式』の訪れは。
頼むぞ。
夜空を見上げ、彼の者に願う。
全てを消し去ってくれ。
全てを無に帰してくれ。
この想いが叶わぬのなら。
いっそ綺麗さっぱりと終わらせてしまおう。
この国と王族の血を背負って粛々と別れを告げよう。
離別の時が、間もなくやって来る――
※※※
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