大地のためのダンジョン運営

あがつま ゆい

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大地のための旅

第52話 寄進

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 ソルがダンジョンの外に出ると、既に諜報部員であるラタトスクが待機していた。

「調べはついたか?」
「はい。ご案内いたします」
「分かった。レナ、行くぞ」

 彼はそう言うと錬成部屋で作ったばかりの大量の水を持って、ラタトスクの先導のもと町へと向かった。



 町の中心部に建つ、教会兼孤児院。ソル達はそこへ水を持ってやってきた。

「……良いんですか? あなたたちにとっても貴重な水をこんなに寄進するだなんて」

 孤児院の院長を務める老いた聖職者は、今では貴重な水を大量に持ち込んだ若者たちに対し目を丸くしながら話を進める。

「良いんです。あなた方ならこれをか弱き者のためにお使いいただけると思いまして。私が配ったらきっと争いになるでしょうから」
「分かりました。では有難く受け取らせていただきます。神のご加護を」

 聖職者の顔は、どこか緩んでいた。彼の孤児院でもまた、水不足は深刻な物なのだろう。



「なるほど、孤児院に寄進するんですね。子供たちに優先的に水を回せる、って事なんですね」
「悪く言えば人任せなんだけど、俺が配るよりはマシだろうよ。まともな人間ならこんな時でも神に仕える人間相手に悪い事なんて出来やしないだろうし」

 神に仕える者の言う事なら非常事態でもある程度は聞いてくれる。聖職者という神がらみの権限は飢えや渇きにも有効なのだ。
 少なくとも見た目は普通の人間にしか見えないソルが同じ事をやったら、町の住人同士で奪い合いや争いが起こるのは目に見えている。
 見た感じ、神を「商売道具」に使うような不届き者ではなさそうだし、彼ならうまくやってくれるだろう。



 ソル一行がダンジョンを構えて数日。毎日のように水を寄進していたのもあって、子供たちの顔には元気が戻っていた。
 ダンジョンも順調に拡張し、大地のエネルギーは日を追うごとに増幅されていた。

「大地に潤いが……戻ったかな?」

 ソルは地上で地面を触って湿り具合を見ていた。特に雨が降ったわけじゃないのに少し湿り気が戻った……ように感じられていた。

「先生! 先生! 井戸から少しですけど水が出るようになったみたいなんです!」

 町の様子を見ていたレナが吉報を持って帰って来た。井戸から再び水が出るようになったらしい。
 順調に復興しつつあるヤイタ地方。そこに構えたソルのダンジョンに訪問者がやって来た。



「やはりここに居ましたか」

 孤児院の院長だ。やはり、という事はある程度の目星はついていたらしい。

「私たちの事、分かっていたんですか?」
「確信は持てませんでしたがある程度の予想は出来ていましたよ。こんな時にあれだけの水を用意できるなんて、普通の人間ではないとは思ってましたよ」

 レナの問いかけに院長はそう答える。やはり年を重ねただけあって洞察力は鋭い。無駄に長生きしているわけではなさそうだ。



「……失望しましたか? 魔王の手先に助けられるくらいなら。って思いません?」
「まさか! そんな事はこれっぽちも思いませんよ。ダンジョンマスターは全て魔王の手先だとは限らない話ですし、あなたのような善良な者も数多いと信じていましたから」
「……年の功には勝てませんな」

 自分達の正体がダンジョンマスターだとバレてもなお友好的に接してくれる聖職者にソルは頭が上がらない。
 普通の人間だったらダンジョンマスターだというのが分かったら即座に邪険に扱ってもおかしくないのに……。
 実際かつて滞在していた王国では魔王を討伐する方向で動いているにもかかわらず賞金首になった事もあった。これも町の住民の不安から賞金をけられた話である。



「あなた方は素晴らしい善行を積んでおられますな。必ずやあなた方は楽園へと導かれるでしょう」
「あなたこそ楽園へと行くにふさわしい善人ですよ。孤児院の院長をやっているのならそうだと思いますけど。神のご加護を」

 2人はお互いにニコリと笑いながら別れた。
 それぞれ「善人に会えた」という気持ちの良い、心にさわやかな春風が駆け抜けるかのような、またはこの春の陽気がそのまま心に宿るかのような晴れやかな気分だった。
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