呪殺王と読心姫 ~疎まれ者同士が一緒に歩むことになりました~

あがつま ゆい

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第44話 アシュトン伯爵の野望

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 アシュトン伯爵領の領主の館。ここにも一報は届いていた。
 エドワード王家に起こった「クーデター」も、アランドル王家がそれに関わる事になるのも、その全てが。

「……何? デニスがエドワード王家の『お家騒動』に首を突っ込むことにした、だと?」

「はいそうです。ロトエロ新国王と先代の王とが対立しており、デニスは先代側について近々挙兵をするつもりだそうです。いかがいたしますか閣下?」

「ふむ……」



 アシュトン伯爵はアランドル王家の色である若草色のアゴひげをいじりつつどうすべきかを探っていた。何か考え事をするときは決まってこのしぐさをするのだ。

「ふむ、何かに使えそうではあるな……まぁいい、今のところは表立って何かするつもりはない。静観はするが引き続き注視してくれ」

「ハッ!」

 今のところはどうかしようとは思わないため日和見を決め込むよう、配下に指示を出したアシュトン伯爵。だがその日の夜、決定的な事が起きた。



◇◇◇



 呪殺王じゅさつおうだ。目の前にあの呪殺王がいる。

 あの呪殺王がアシュトン伯爵を見て肉食獣に怯える小動物のような目をして命乞いをしていた。
 トレードマークの紅色のルツェルンハンマーも持って無いし、帯剣もしていない丸腰の状態で地面に座り込み必死になりながらアシュトン伯爵に頼み込んでいた。
 何を言っているのかはなぜか聞き取れない。だがその態度や表情で心底恐怖していることは確かだ。彼にとってはそれで十分だった。



 2人がいたのは見慣れない場所だが戦場であることは確かだ。周りを兵士が何者かの軍勢……おそらく人だろう。それら相手に戦っている。
 呪殺王の目からは涙がボロボロとこぼれ落ちている。助かりたいのだろう、生きたいのだろう。だがアシュトン伯爵はそれを許さないし、許す気にもならない。
 彼は冷酷に、呪殺王の首を代々伝わる業物の宝刀で斬り捨てた。


 涙でぐしゃぐしゃになった呪殺王の首を持って、彼は高らかに宣言した。
「呪殺王は、死んだ!」と。



◇◇◇



「ハッ!」

 歓喜の瞬間、世界は暗転しアシュトン伯爵はベッドの中から目覚める。窓からは朝日がいつもと変わらず光を放ち、輝いていた。

「……何だ、夢か」

 さっきのは夢だったのか……アシュトン伯爵の頭は、夢の影響か寝起きだというのに妙にえていた。
 このタイミングでこんな夢を見ることが、あるだろうか? もしかしたら超越的な何か、ベタな言い方では「神」による仕業かもしれない。

 待てよ待てよ。これを現実の物に出来るかもしれない。いや、できると思うぞ。彼の頭はハイスピードで回りだし、とある計画を練り上げていく。まもなくそれが完成し、彼は歓声をあげる。



「ククク……ハハハハハ! そうか! そういう事か!」

 瞬時に呪殺王のエドワード国遠征を自分の都合のいいように「利用」する手はずを立てた。

「? 閣下、いかがなされましたか?」

 アシュトン伯爵の着替えのために来た使用人がキョトン、として彼の声を聴く。今朝は妙にテンションが高いな、何でまたこんなことに? という疑問が浮かんでいる。

「挙兵だ! 我らも挙兵しよう! 急で悪いが準備してくれ!」

 彼は配下にそう指示する。あの夢は神からのお告げだと直感で悟っていた。
 普段はろくに教会に行かずに、ましてや真剣に神に祈りをささげるような事は「年に数回あれば多い方」というアシュトン伯爵ではあったが、この時ばかりは神に感謝していた。



 戦場とは情報伝達が命と言える場所であるのだが、各隊と連携を取るには地球と比べれば通信技術の進歩はまだまだで、とても苦労する。
 逆に言えば「秘密裏にあの呪殺王にトドメを刺す」には絶好の機会だ。

 表向きには「我々は戦にのぞんだものの、デニス陛下は勇敢ゆうかんに戦い戦場で散った」と『事後報告』すればいいだけの事。
 口裏合わせさえしっかりやれば、誰もその報告の真偽を証明することはできない。


 あの「呪殺王」さえいなくなれば、あとはロロムに自分の孫娘を嫁がせれば王家は盤石なものになり、正しい形に復興することができる。
 合法的に奴を抹殺するには絶好の機会。今朝の夢はおそらく天上の神が見せてくださった「予知夢」だろう。あとはそれを現実の物にするだけだ。



「待った甲斐があるな。今こそ! あの呪殺王から王家を取り戻し! 元ある形に直すことも出来よう! もし天上に神がおわすのなら、いくら感謝してもし足りないくらいだ!」

 呪殺王を殺せない、あるいは王家から追放できない事に苛立ちいらだちを覚えていたアシュトン伯爵は、ついに絶好の機会が巡ってきたと不敵にほほ笑む。
 またとない機会だ。奴を正面から堂々と殺せる機会がやってきた、絶対に逃がすわけにはいかない。胸に秘めた野望の炎が彼の全身を隅々すみずみまで巡り、血が騒ぐのを感じていた。
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