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第45話 検証すべきこと
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「……? 何これ、どういう事?」
カレンが王であるデニスの代わりに書類の処理をしていた時、あることに気づく。アシュトン伯爵領内の食料の値段が、特に何もなさそうだというのに急に上がっているのだ。
食料の値上がり、つまりはそれだけ「食料が欲しい」という人間が多くなるという事。しかも人間用の食糧である小麦粉からハムやベーコンなどに加え、馬や家畜のエサであるエンバク、大麦も大きく値上がりしていた。
特に飢饉が起きたという知らせは無いのに、なぜ?
3時の休憩時にメイドに紅茶を淹れてもらい、飲んでいる最中にもアシュトン伯爵の噂話が入ってくる。
「王妃様、アシュトン伯爵の噂話は知っていますか?」
「噂話? 何かあるの?」
「ええ。何でも領内で募兵をしているそうで、動きが妙なんですよね」
「……怪しすぎるわね、その話」
「ですよね。でも彼はどうしても決定的な証拠を出さないから陛下ですら下手に動くことも出来ないんですよ」
アシュトン伯爵の動きは間違いなくエドワード王家の父親側につくデニスの出兵に関わることだろう。食料の値上がりはつまり兵糧に馬糧、要は軍馬用のエサをかき集めているためだと分かった。
彼が一体何を考えているのか? 読めないところが不気味だった。
その日、アランドル王国の貴族たちが王家の城に集められた。目的は、宗教所属の者たちが集まって議会を開くのをマネして作った会議を開くこと。
収入は予定通り上がりそうか? 治安維持に問題は無いか? 疫病の兆候は無いか? 情報交換を行って国の運営に悪影響が出ないようにするための大事な会議だ。
「ではまず、各自畑地に関して何か気がかりなことは無いか?」
「いい加減、陛下の直轄地の減税を辞めていただきたい。陛下がそのようなことをやると我々の領土でも減税をせざるを得なくなるのですが」
アシュトン伯爵はそうデニスに対して毒づく。
減税をしようが増税をしようがどちらも気に入らず、デニスのやることなすことその全てが気に入らない。彼に対し「純粋培養な殺意」を抱く男、それがアシュトン伯爵だ。
「それと陛下はエドワード王国の内輪もめに手を出すとお聞きしておりますが?」
「ああそうだ。今となっては一応は義理の父親だからな、協力してくれと言われたら断るわけにはいかない。それよりお前も挙兵するつもりだと聞いているが?」
「陛下がお困りだというのなら手を差し伸べるのが配下というもの。土地を賜り代々王家を守護してきた我がアシュトン家ならなおさらそうじゃないですか。何か問題でも?」
「……」
デニスに対し「純粋培養な殺意」を抱く男の言う事だ。あまりにも信用のないことだが表向きには配下、それもアランドル王国建国以来の重鎮中の重鎮である。むやみに彼の意見を潰すわけにもいかなかった。
彼とて「メンツ」がある。それを潰すことはいくら王であるデニスとはいえ、出来なかったのだ。
(……やっぱり!)
カレンは会議の内容を扉越しに聞いていた……アシュトン伯爵が挙兵するつもりらしい。彼女の中の疑惑が確信へと変わった。
何としても彼から話を聞かなくては、と彼女は会議が終わるのを待った。
そして会議室から貴族たちが出てくる中、カレンは若草色の髪をした男を止め、話をしだす。
「アシュトン伯爵殿、あなたは今回のエドワード王家の問題に関して派兵するつもりだそうですが、裏で何かするつもりなんですか!?」
「答える必要はございませんな」
(「はい」だって!?)
「待ちなさい! 詳しい話を……」
「申し訳ございませんが今出発しないで話をしていると帰りが遅くなってしまいます。ご用件があるのならまた別の機会にでもお願いできますかね?」
アシュトン伯爵は苦虫をかみつぶしたかのような顔で王城を後にした。
「アシュトン閣下。あの「魔女」はいかがいたしましょうか」
「『心を読める』というのが特に厄介だな、あのガキを消そうにも失敗続きだがな。それより募兵および兵糧の確保はどうなっている?」
「順調に集まっているところです。後数日もすれば想定量は確保できるかと思われます」
「いいだろう。そのまま進めてくれ」
「承知しました。それにしても閣下、嬉しそうですね」
「ああそうだな。明日が来るのが待ち遠しいなんて子供の頃の祭り前日の時以来だよ」
アシュトン伯爵はニヤリと邪悪な微笑みを浮かべた。
会議終了後、カレンはアレクに重大な頼みごとをするために話を切り出した。
「アレクさん。重要な話があります」
「……いかようなご用件でしょうか?」
カレンは意を決して口を開いた。恐怖と決意が混ざった声と目をしていた。
「準備が出来次第、私はアシュトン伯爵領へ行って、伯爵自らの口から今回のエドワード王家への派兵の裏側を探るつもりです。アレクさんは護衛をお願いできますか?」
「!! なんですって!? 王妃様! それはあまりにも危険です! 陛下の奥方もあろうお方が行くとなると、最悪命の保証はできかねませんぞ!」
「そんなのは分かってる! でもどうしても行って確かめないと、デニスさんにもしもの事があったら大変なことになる! だから! だから……」
カレンは必死だった。もし今回の出兵でデニスにもしもの事があったら! それを防ぎたくて出せる手はすべて出すつもりだった。
「アレクさんが出来ないのなら他の兵に頼みます。それも王妃直々の命令、という形で指示を出します。止めないでくださいね」
「……わかりました。そこまで言うのなら地の果てまでお供いたします。ところで当然陛下にはお伝えしていませんよね?」
「もちろんよ。知ったら何としても私を止めさせるはずよ」
アレクは無茶ぶりに大きなため息をついた。
カレンが王であるデニスの代わりに書類の処理をしていた時、あることに気づく。アシュトン伯爵領内の食料の値段が、特に何もなさそうだというのに急に上がっているのだ。
食料の値上がり、つまりはそれだけ「食料が欲しい」という人間が多くなるという事。しかも人間用の食糧である小麦粉からハムやベーコンなどに加え、馬や家畜のエサであるエンバク、大麦も大きく値上がりしていた。
特に飢饉が起きたという知らせは無いのに、なぜ?
3時の休憩時にメイドに紅茶を淹れてもらい、飲んでいる最中にもアシュトン伯爵の噂話が入ってくる。
「王妃様、アシュトン伯爵の噂話は知っていますか?」
「噂話? 何かあるの?」
「ええ。何でも領内で募兵をしているそうで、動きが妙なんですよね」
「……怪しすぎるわね、その話」
「ですよね。でも彼はどうしても決定的な証拠を出さないから陛下ですら下手に動くことも出来ないんですよ」
アシュトン伯爵の動きは間違いなくエドワード王家の父親側につくデニスの出兵に関わることだろう。食料の値上がりはつまり兵糧に馬糧、要は軍馬用のエサをかき集めているためだと分かった。
彼が一体何を考えているのか? 読めないところが不気味だった。
その日、アランドル王国の貴族たちが王家の城に集められた。目的は、宗教所属の者たちが集まって議会を開くのをマネして作った会議を開くこと。
収入は予定通り上がりそうか? 治安維持に問題は無いか? 疫病の兆候は無いか? 情報交換を行って国の運営に悪影響が出ないようにするための大事な会議だ。
「ではまず、各自畑地に関して何か気がかりなことは無いか?」
「いい加減、陛下の直轄地の減税を辞めていただきたい。陛下がそのようなことをやると我々の領土でも減税をせざるを得なくなるのですが」
アシュトン伯爵はそうデニスに対して毒づく。
減税をしようが増税をしようがどちらも気に入らず、デニスのやることなすことその全てが気に入らない。彼に対し「純粋培養な殺意」を抱く男、それがアシュトン伯爵だ。
「それと陛下はエドワード王国の内輪もめに手を出すとお聞きしておりますが?」
「ああそうだ。今となっては一応は義理の父親だからな、協力してくれと言われたら断るわけにはいかない。それよりお前も挙兵するつもりだと聞いているが?」
「陛下がお困りだというのなら手を差し伸べるのが配下というもの。土地を賜り代々王家を守護してきた我がアシュトン家ならなおさらそうじゃないですか。何か問題でも?」
「……」
デニスに対し「純粋培養な殺意」を抱く男の言う事だ。あまりにも信用のないことだが表向きには配下、それもアランドル王国建国以来の重鎮中の重鎮である。むやみに彼の意見を潰すわけにもいかなかった。
彼とて「メンツ」がある。それを潰すことはいくら王であるデニスとはいえ、出来なかったのだ。
(……やっぱり!)
カレンは会議の内容を扉越しに聞いていた……アシュトン伯爵が挙兵するつもりらしい。彼女の中の疑惑が確信へと変わった。
何としても彼から話を聞かなくては、と彼女は会議が終わるのを待った。
そして会議室から貴族たちが出てくる中、カレンは若草色の髪をした男を止め、話をしだす。
「アシュトン伯爵殿、あなたは今回のエドワード王家の問題に関して派兵するつもりだそうですが、裏で何かするつもりなんですか!?」
「答える必要はございませんな」
(「はい」だって!?)
「待ちなさい! 詳しい話を……」
「申し訳ございませんが今出発しないで話をしていると帰りが遅くなってしまいます。ご用件があるのならまた別の機会にでもお願いできますかね?」
アシュトン伯爵は苦虫をかみつぶしたかのような顔で王城を後にした。
「アシュトン閣下。あの「魔女」はいかがいたしましょうか」
「『心を読める』というのが特に厄介だな、あのガキを消そうにも失敗続きだがな。それより募兵および兵糧の確保はどうなっている?」
「順調に集まっているところです。後数日もすれば想定量は確保できるかと思われます」
「いいだろう。そのまま進めてくれ」
「承知しました。それにしても閣下、嬉しそうですね」
「ああそうだな。明日が来るのが待ち遠しいなんて子供の頃の祭り前日の時以来だよ」
アシュトン伯爵はニヤリと邪悪な微笑みを浮かべた。
会議終了後、カレンはアレクに重大な頼みごとをするために話を切り出した。
「アレクさん。重要な話があります」
「……いかようなご用件でしょうか?」
カレンは意を決して口を開いた。恐怖と決意が混ざった声と目をしていた。
「準備が出来次第、私はアシュトン伯爵領へ行って、伯爵自らの口から今回のエドワード王家への派兵の裏側を探るつもりです。アレクさんは護衛をお願いできますか?」
「!! なんですって!? 王妃様! それはあまりにも危険です! 陛下の奥方もあろうお方が行くとなると、最悪命の保証はできかねませんぞ!」
「そんなのは分かってる! でもどうしても行って確かめないと、デニスさんにもしもの事があったら大変なことになる! だから! だから……」
カレンは必死だった。もし今回の出兵でデニスにもしもの事があったら! それを防ぎたくて出せる手はすべて出すつもりだった。
「アレクさんが出来ないのなら他の兵に頼みます。それも王妃直々の命令、という形で指示を出します。止めないでくださいね」
「……わかりました。そこまで言うのなら地の果てまでお供いたします。ところで当然陛下にはお伝えしていませんよね?」
「もちろんよ。知ったら何としても私を止めさせるはずよ」
アレクは無茶ぶりに大きなため息をついた。
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