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1章:最果て編
9 真魔族
しおりを挟む強さは未知数。レベルもステータスも比較するには圧倒的でどうすればいいのかもさっぱり見当がつかない。
一度でもまともに攻撃を受けたら次があるかどうかも分からない。
飛翔の魔法で止まることなく飛び続ける私を、彼――災厄の魔物は、黒い光を放って牽制している。
射線は鋭くかなり正確で、これまで当たっていないのが単に私の飛行速度に偏差撃ちの精度がまだ調整出来ていないだけ。
長々と時間を稼いでいてもそのうち終わりが見えるってこと。
でも、迂闊に近づけない。
勇者さんを追い詰めた猛毒や呪いの状態異常に大罪の刻印、遅死の祝福がどんな条件で発動するのか。
それを把握するまで安易に手が出せない。
ステータスに表示されていた魔法耐性と魔力吸収のスキルも見過ごせない。この場合、私の攻撃手段が魔法一辺倒なのが問題かな。生命力が減少していたからダメージ自体は通ってはいるんだと思うけど、再生能力もあるしあまり効果的だとは思えない。
「マナに依って翼を生み出し人間が空を飛ぶ……否、その翼も形だけに過ぎない。物理法則を切り離し現象を引き寄せる術か。貴様等人間はそれを魔法と呼ぶのだったな?」
彼は、余裕の笑みを浮かべて質問を投げかけてくる。言ってる内容が気になると言えば気になるんだけど、いちいち訊いている余裕がない。
彼のいかにも悪魔的な外観にも色々思うところはある。蝙蝠みたいな翼で普通に飛んでたり、頭に角が生えてたり。
でも、ほとんど息を止めて集中していないと黒い光が避けられない。端々に見え隠れしている魔法陣が何をしようとしているのかさえ見極められない。
右手にチャージ済みの魔力も出番がない。彼は、私が攻撃するような間断を許さない。
「懲りず魔力を蓄えおって。よかろう」
それを見てか、彼は攻撃をやめて空中で無防備に大の字になる。
撃つなら撃て、と。そういう表情。
いや、それだけの自信も実力もあるんだろうけど……私の目には彼を取り巻くように展開されているいくつかの魔法陣が見えている。
明らかにドス黒い紫色といった色合いのそれ。ところどころ血のように赤みを帯びているし不吉な雰囲気を容赦なく放っている。
これで突撃する人がいたら、それはよほどの向こう見ずだと思う。誘われているのバレバレだし。
かと言って何もしないのも無意味だよね。せっかく攻撃するチャンスをくれているのに、みすみす見て見ぬ振りをする理由もない。
ここは真似してみよう。
右手の七色の魔力を放出し続けるイメージを膨らませる。
手は銃口、腕は銃身、身体は魔力の燃料タンク。
彼が不敵に笑ったってことは、こっちの切り口は察している気がする。防がれるか無力化されるか。どっちを取っても無事なんだろう。不意を突いたって大差ないかも。
ううん。それでもいい。攻略の基本はトライ&エラー、そして考察。トライしないことには何も始まらない。
右手に魔力を集中して通す。まっすぐに魔力を放つ道筋を描く。
「しっかり狙え。外すなどと下らん真似はしてくれるな」
言動から察するに、たぶん当てて欲しいのよね。別にチャンスをくれている訳でもなさそう。普通に吸収されて終わりそうな気もする。
じゃあ、しっかり狙いをつけよう。
目標は、彼の周囲の魔法陣全部。
「――っ“撃え”!」
七色の魔力が寄り集まって一筋の光となる。
一番外側、私から見て左の方に浮いていた魔法陣を貫いて霧散させた。
反動はない。制御は、出来る。
拍子抜けしたように光が射抜いた先を見た彼の表情が曇る前に、薙ぎ払うように他の魔法陣も消し飛ばす。
「――ッ」
一泊置いて、舌打ちが聞こえた。
彼のステータスを見ると数値に変動はない。
直接狙った魔法攻撃じゃないと耐性も吸収も効果がないってことなのかな。
あ、今少し減って――なに、その手に持ってる槍みたいなもの?
「ならばこちらから仕掛けてやろう」
「いや――来ないでいいです!」
彼が、肌の色と同じ翼を羽ばたかせて接近してくる。
一回の羽ばたきで迫る距離が思いの外に長い。例えるなら、短距離走のペースで長距離を走るみたいな。
追いつかれないように高度を取りながら七色の魔力を投げつけるけど、可能なら避けて、不可能なら直撃して、でも瞬時に再生する。
再生能力ずるいって。MP使って発動してるみたいだけど、それだって私の魔法で回復してるし。実質、燃費気にしなくていいオートヒールじゃん。
「もう一戦と望んでおきながら、こんな下らない立ち回りしか出来ぬか?」
挑発の言葉じゃない。誰がどう見ても呆れたような声色。
魔法耐性とか吸収とか、その辺のスキルがなかったらもっとやり方はあると思う。それも含めて対処出来ないから呆れられたのかな?
手段があるならとっくにそうしてる。方法が思いつかないから困ってる訳で。
「そんなこと言われたって……」
あ、いや。方法あった。
物理的な攻撃手段がないって思ったけど、簡単ですごいのあるじゃん。
アリアちゃんだってびびってたみんな共通の物理法則が。
槍っぽいのを持ってるのは……右手か。
右手に集中して魔力を投げつける。
「そう嫌ってくれるな。貴様を屠る一撃なのだぞ」
その槍を守るように身体の後ろに隠す。
……意外と狙い通りに動いてくれた。
「――っ、けええええええええええええええええええええ!」
武器を恐れたと思ったのか、後ろ手に槍を庇った体勢の彼に、真上から、初速からトップスピードで体当たり。
そのまま翼に引っ掛けて、地表すれすれで放り投げて叩きつける。
自分には乱暴にブレーキをかけて停止。あと瞬き一つ分遅れてたら私も地面に激突していた。
追い討ちをかけるかどうか迷って、遠慮なく撃たせてもらう。
いくら魔法耐性があったって吸収出来たって、魔法でダメージを追うのはちゃんと見てたんだから。全部が全部無駄って訳じゃない筈。
「――っ“撃え”えええええええええええ!」
ちゃんとそこにいるのを見逃さないように直前まで注視しながら、七色の魔力を束ねて放った。
確実に直撃。そのままステータスを監視しながら続ける。
生命力が一瞬で二桁まで落ちて、そこで回復が働いたのか数値の増減が拮抗する。
減らなくてもいい。増えないように調節しながら攻撃を維持する。
MPの方も拮抗してる。ううん。少しずつ増えてる。
再生は追いついてないけど、魔力を吸収する速度はそれより上ってこと?
ま、いっか。このまま続ける。
要は何も出来ない状況を作れればよかった。
これ以上は意味がなくても、この状況であと一手、彼に攻撃を繰り出せることを示せれば勝負ありってことだから。
左手で攻撃を維持しながら右手に七色の魔力を集める。
ほんのちょっとでいい。二桁まで落ちた生命力をゼロにするならほんの少し破裂するだけで足りる。
「勝負、ついたと思います」
MPと魔力の数値が増えるのは無視して生命力の維持にだけ気を付けながら話しかける。
魔法の光がものすごくて姿が見えないんだけど、ちゃんと原型留めてるのかな……?
ついでに言えば音もひどい。例えるなら、地面が無理やり圧縮されていろいろ崩れてるような音?
「――貴様の……ドが全て消耗仕切……れば我の勝ちだが?」
光の向こう側から返事がした。なんとか聞き取れた部分から察すると、私の魔力が切れたらお終いだ、的な?
「これ、見えてます? たぶん再生能力を超えて消し飛ばすぐらいの威力は確保出来てると思うんですが」
「これほどの力を行……ておきながら余裕がある筈が無……」
攻撃中だから他の事は出来ないだろうって?
現に右手は待機中なんだけど……もしかしなくてもこの人、周りが見えてない。
「このまま貴様のオド、生命の底まで吸い尽くしてやろう――!」
ちょっと意外。詰めたと思ったんだけどなあ。
私から見れば、彼は明らかにトドメを刺される一歩手前な訳で、説得とか交渉の余地はかなりあると踏んだ。
彼から見れば、私は明らかに無駄なことをしている一方で、その後で仕切り直すなりなんなりしようと思ってる。
どうしよう。トドメ刺すわけにもいかないし。でも、周りが見えてないから何言っても無駄っぽいし。
あ、とりあえず私のMP確認しとこ。あとどのくらいこうやっていられるのか不安だし。
ステータスっと……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
名 前:御堂 憧子 種 族:ヒューマン 年 齢:16
職 業:なし クラス:白翼の魔女 レベル:1
称 号:エルフの友達
HP:2046 ┌――――――――――――――┐
MP:65535 │ │
筋力:10 │ │
器用:12 │ │
体力:16 │ │
知能:14 │ │
魔力:8079 │ │
敏捷:10 │ │
信仰:100 │ No Picture │
淫蕩:14 │ │
│ │
スキル │ │
├言霊理詛 │ │
├健康体 │ │
├非凡 │ │
├精霊の加護 │ │
├魔法適正:全 │ │
└不老長寿 └――――――――――――――┘
―――――――――――――――――――――――――――――――
うん?
なんの冗談かなバグかな笑えばいいのかな?
なんで私のステータス、こんなに魔力おばけになってるのかな?
魔力の桁が明らかにおかしいし、MPなんか65535と65534の値をひたすら往復してる。
レベルアップはしてないみたいだけど、それだっておかしい……でもレベルアップなしでステータスがあがるゲームもあった……いやいやここゲームの中じゃないから。おかしいから。
「――……貴様、何者だ」
なんか彼の様子が変わった。
高笑いしていたのが、気が付いたら苦しむような声になってる。
……え?
なんでこの人、苦しんでるの?
ステータスはずっと監視してる。生命力は維持してるし、魔力もMPもずっと増え続けてる。
苦しむ要素がまるで分からない。
つまり、演技だこれ。
「――ッ!やめ、止めろ……!」
「やだよ。やめたら攻撃してくるでしょ。そういう演技には騙されませーん」
「クソッ――ぐ、っぐうう……抑え、きれん……!?」
ここで中二病ですか?
確かに魔力の数値は溢れそうなぐらいに伸びてる。そろそろ三万台。MPは、私と同じだね。
「……貴様、名は何という」
「御堂憧子です。そういえば、あなたのお名前は? 災厄の魔物って人間が付けた呼び名ですよね」
「我に人間に名乗る名は無い――貴様よ」
「――ぐぶっ」と何か吐いたような呻き声が聞こえた。
……あれ。ほんとに苦しんでる?
「覚えておけ。我を――“四天宮”が真魔族を打ち倒したことを。覚えておくぞ、ミドウ=アコ。貴様の名を」
「え……え……?」
なんか死に間際のセリフのような、負けた悪役が逃げる時に言うテンプレみたいな。
え、なに?
突然、視界の端に表示していた彼のMPの表示がバグったように文字化けして、生命力の数値が一気に膨れ上がる。
「え、ちょ――なになになになに!?」
攻撃の手を維持したまま上空に逃げる。
「他の人間など捨て置いてやる……貴様に――借りを返すまではッ!」
そう叫んで、破裂した。
……………………。
え?
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