さようなら、白い結婚。私は自由になります。

Ame

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第二話 実家への帰還と、ユリウスとの出会い

 実家に戻った翌朝、私は久しぶりに“誰にも気を遣わずに眠った”という感覚を味わった。
 目を開けると、窓から差し込む光が柔らかく、部屋の空気はどこか懐かしい。
 アランの屋敷では、朝の光すら冷たく感じられたのに、ここでは胸の奥が少しだけ温かくなる。

 ――ああ、私は帰ってきたのだ。

 そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。



 朝食の席に着くと、父と母がすでに待っていた。
 父は厳しい表情を崩さないが、どこか落ち着かない様子で私を見ている。
 母は心配そうに手を握り、私の顔色を確かめるように覗き込んだ。

「よく眠れたかしら、リディア」

「はい。……久しぶりに、ぐっすり眠れました」

 母はほっと息をつき、父は小さく頷いた。

「そうか。それなら良い」

 父の声はいつも通り低く、厳格だ。
 けれど、その言葉の奥に“安堵”があることに気づいた。

 私は、家族に心配をかけていたのだ。

 アランの屋敷では、誰にも弱さを見せられなかった。
 けれど、ここでは違う。
 私は娘であり、家族であり、守られる存在だった。

 その事実が、胸にじんと染みた。



 朝食を終えた後、私は庭へ出た。
 バークス家の庭は、子どもの頃から大好きな場所だった。
 季節ごとに花が咲き、風が通り抜けるたびに葉がさざめく。
 その音を聞いていると、心が落ち着く。

 ――こんなふうに、ただ庭を歩くことすら、アランの屋敷ではできなかった。

 私は深く息を吸い込んだ。
 胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけ軽くなる。

 その時だった。

「失礼いたします。バークス家護衛任務を拝命しております、王国騎士団長、ユリウス・レーンと申します」

 振り返ると、銀の鎧をまとった騎士が立っていた。
 陽光を受けて淡い金髪が輝き、整った横顔は彫刻のように美しい。
 けれど、それ以上に印象的だったのは――彼の瞳が、まっすぐに私を見ていたことだ。

 『評価』はなく、『観察』でもなく、
 ただ一人の人間として、丁寧に向き合う視線。

 私は思わず息を呑んだ。

「リディア・エルフォードです。……護衛を?」

「はい。宰相閣下より、しばらくの間、リディア様の身辺を守るよう命じられております」

 宰相閣下――アラン。
 その名を聞いた瞬間、胸が少しだけ痛んだ。

「……私はもう、宰相夫人ではありません」

 ユリウスは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。

「失礼いたしました。では、リディア様とお呼びします」

 その笑みは、押しつけがましくなく、ただ自然で温かかった。
 私は思わず視線を逸らす。

「護衛など、必要ありません。私はただの……」

「いいえ」

 ユリウスは静かに首を振った。

「あなたがどの立場であろうと、守るべき人は守ります。それが、私の務めです」

 その言葉は、私の胸にすっと染み込んだ。
 誰かに守られるという感覚を、私はいつから忘れていたのだろう。

「……ありがとうございます」

 そう答えると、ユリウスは穏やかに微笑んだ。

「こちらこそ。どうか、ご無理をなさらないように」

 その優しさに触れた瞬間、胸の奥に小さな灯がともった気がした。



 その後も、ユリウスは控えめに距離を取りながら、私の散歩に付き添った。
 彼は決して話しかけてこない。
 けれど、私が立ち止まれば足を止め、風に揺れる花を見つめれば、同じ方向を静かに見つめる。

 ――この人は、私の『自由』を奪わない。

 アランの屋敷では、常に誰かの視線を気にしていた。
 けれど、ユリウスの存在は不思議と負担にならなかった。

 むしろ、安心できた。

 私は、久しぶりに深呼吸をした。

 胸の奥に溜まっていた重さが、少しずつ溶けていく。

 ――私は、ここからやり直せるのだろうか。

 そんな希望が、ほんの少しだけ胸に芽生えた。

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