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第二話 実家への帰還と、ユリウスとの出会い
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実家に戻った翌朝、私は久しぶりに“誰にも気を遣わずに眠った”という感覚を味わった。
目を開けると、窓から差し込む光が柔らかく、部屋の空気はどこか懐かしい。
アランの屋敷では、朝の光すら冷たく感じられたのに、ここでは胸の奥が少しだけ温かくなる。
――ああ、私は帰ってきたのだ。
そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
◆
朝食の席に着くと、父と母がすでに待っていた。
父は厳しい表情を崩さないが、どこか落ち着かない様子で私を見ている。
母は心配そうに手を握り、私の顔色を確かめるように覗き込んだ。
「よく眠れたかしら、リディア」
「はい。……久しぶりに、ぐっすり眠れました」
母はほっと息をつき、父は小さく頷いた。
「そうか。それなら良い」
父の声はいつも通り低く、厳格だ。
けれど、その言葉の奥に“安堵”があることに気づいた。
私は、家族に心配をかけていたのだ。
アランの屋敷では、誰にも弱さを見せられなかった。
けれど、ここでは違う。
私は娘であり、家族であり、守られる存在だった。
その事実が、胸にじんと染みた。
◆
朝食を終えた後、私は庭へ出た。
バークス家の庭は、子どもの頃から大好きな場所だった。
季節ごとに花が咲き、風が通り抜けるたびに葉がさざめく。
その音を聞いていると、心が落ち着く。
――こんなふうに、ただ庭を歩くことすら、アランの屋敷ではできなかった。
私は深く息を吸い込んだ。
胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけ軽くなる。
その時だった。
「失礼いたします。バークス家護衛任務を拝命しております、王国騎士団長、ユリウス・レーンと申します」
振り返ると、銀の鎧をまとった騎士が立っていた。
陽光を受けて淡い金髪が輝き、整った横顔は彫刻のように美しい。
けれど、それ以上に印象的だったのは――彼の瞳が、まっすぐに私を見ていたことだ。
『評価』はなく、『観察』でもなく、
ただ一人の人間として、丁寧に向き合う視線。
私は思わず息を呑んだ。
「リディア・エルフォードです。……護衛を?」
「はい。宰相閣下より、しばらくの間、リディア様の身辺を守るよう命じられております」
宰相閣下――アラン。
その名を聞いた瞬間、胸が少しだけ痛んだ。
「……私はもう、宰相夫人ではありません」
ユリウスは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「失礼いたしました。では、リディア様とお呼びします」
その笑みは、押しつけがましくなく、ただ自然で温かかった。
私は思わず視線を逸らす。
「護衛など、必要ありません。私はただの……」
「いいえ」
ユリウスは静かに首を振った。
「あなたがどの立場であろうと、守るべき人は守ります。それが、私の務めです」
その言葉は、私の胸にすっと染み込んだ。
誰かに守られるという感覚を、私はいつから忘れていたのだろう。
「……ありがとうございます」
そう答えると、ユリウスは穏やかに微笑んだ。
「こちらこそ。どうか、ご無理をなさらないように」
その優しさに触れた瞬間、胸の奥に小さな灯がともった気がした。
◆
その後も、ユリウスは控えめに距離を取りながら、私の散歩に付き添った。
彼は決して話しかけてこない。
けれど、私が立ち止まれば足を止め、風に揺れる花を見つめれば、同じ方向を静かに見つめる。
――この人は、私の『自由』を奪わない。
アランの屋敷では、常に誰かの視線を気にしていた。
けれど、ユリウスの存在は不思議と負担にならなかった。
むしろ、安心できた。
私は、久しぶりに深呼吸をした。
胸の奥に溜まっていた重さが、少しずつ溶けていく。
――私は、ここからやり直せるのだろうか。
そんな希望が、ほんの少しだけ胸に芽生えた。
目を開けると、窓から差し込む光が柔らかく、部屋の空気はどこか懐かしい。
アランの屋敷では、朝の光すら冷たく感じられたのに、ここでは胸の奥が少しだけ温かくなる。
――ああ、私は帰ってきたのだ。
そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
◆
朝食の席に着くと、父と母がすでに待っていた。
父は厳しい表情を崩さないが、どこか落ち着かない様子で私を見ている。
母は心配そうに手を握り、私の顔色を確かめるように覗き込んだ。
「よく眠れたかしら、リディア」
「はい。……久しぶりに、ぐっすり眠れました」
母はほっと息をつき、父は小さく頷いた。
「そうか。それなら良い」
父の声はいつも通り低く、厳格だ。
けれど、その言葉の奥に“安堵”があることに気づいた。
私は、家族に心配をかけていたのだ。
アランの屋敷では、誰にも弱さを見せられなかった。
けれど、ここでは違う。
私は娘であり、家族であり、守られる存在だった。
その事実が、胸にじんと染みた。
◆
朝食を終えた後、私は庭へ出た。
バークス家の庭は、子どもの頃から大好きな場所だった。
季節ごとに花が咲き、風が通り抜けるたびに葉がさざめく。
その音を聞いていると、心が落ち着く。
――こんなふうに、ただ庭を歩くことすら、アランの屋敷ではできなかった。
私は深く息を吸い込んだ。
胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけ軽くなる。
その時だった。
「失礼いたします。バークス家護衛任務を拝命しております、王国騎士団長、ユリウス・レーンと申します」
振り返ると、銀の鎧をまとった騎士が立っていた。
陽光を受けて淡い金髪が輝き、整った横顔は彫刻のように美しい。
けれど、それ以上に印象的だったのは――彼の瞳が、まっすぐに私を見ていたことだ。
『評価』はなく、『観察』でもなく、
ただ一人の人間として、丁寧に向き合う視線。
私は思わず息を呑んだ。
「リディア・エルフォードです。……護衛を?」
「はい。宰相閣下より、しばらくの間、リディア様の身辺を守るよう命じられております」
宰相閣下――アラン。
その名を聞いた瞬間、胸が少しだけ痛んだ。
「……私はもう、宰相夫人ではありません」
ユリウスは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「失礼いたしました。では、リディア様とお呼びします」
その笑みは、押しつけがましくなく、ただ自然で温かかった。
私は思わず視線を逸らす。
「護衛など、必要ありません。私はただの……」
「いいえ」
ユリウスは静かに首を振った。
「あなたがどの立場であろうと、守るべき人は守ります。それが、私の務めです」
その言葉は、私の胸にすっと染み込んだ。
誰かに守られるという感覚を、私はいつから忘れていたのだろう。
「……ありがとうございます」
そう答えると、ユリウスは穏やかに微笑んだ。
「こちらこそ。どうか、ご無理をなさらないように」
その優しさに触れた瞬間、胸の奥に小さな灯がともった気がした。
◆
その後も、ユリウスは控えめに距離を取りながら、私の散歩に付き添った。
彼は決して話しかけてこない。
けれど、私が立ち止まれば足を止め、風に揺れる花を見つめれば、同じ方向を静かに見つめる。
――この人は、私の『自由』を奪わない。
アランの屋敷では、常に誰かの視線を気にしていた。
けれど、ユリウスの存在は不思議と負担にならなかった。
むしろ、安心できた。
私は、久しぶりに深呼吸をした。
胸の奥に溜まっていた重さが、少しずつ溶けていく。
――私は、ここからやり直せるのだろうか。
そんな希望が、ほんの少しだけ胸に芽生えた。
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