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第53話 勝者と敗者、交わる視線
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砕け散った防御球の残骸が、宙を舞う。
高熱に炙られた鉄粒子が、闇夜の中で赤く光りながら、ゆっくりと地面に降り注いでいく。
土煙が舞い、風が吹き抜ける戦場。
さっきまで張り詰めていた魔力の奔流は、すでに跡形もなく消え去っていた。
その中心に、一人の男が膝をついていた。
アーク・ゲオルグ。
黒衣は焦げ付き、仮面には無数のひびが走っている。
彼の誇る「絶対防御」とも言える防御球は、いまや完全に粉砕され、戦闘の余波をまともに受けていた。
静寂の中、微かに響く息遣い。
(……なるほど、これは……)
アークは微笑みながら、自らの体を見下ろした。
右腕の袖口が焼け焦げ、肌にはじりじりとした熱の余韻が残っている。
完全に防御が成立していたわけではない——ダメージを受けた。
それは、彼にとっては予想外のことだった。
戦闘中、彼はすでにいくつもの勝ち筋を計算していた。
迅の魔法の特性を分析し、可能な限り防御を最適化していたはずだった。
だが、その結果がこの有様だ。
「……驚きましたよ、勇者殿。」
仮面の奥で、淡々とした声が響く。
それは敗北の悔しさではなく、未知のものを目にした興奮 に満ちた響きだった。
「あなたは、私の予想を超えた。まさか、ここまでのものとは。」
風に乗って、静かな笑みがこぼれる。
迅は、戦闘態勢を解かないまま、じっとアークを見下ろしていた。
彼の瞳には、警戒と安堵、そしてわずかな疑念が混ざっていた。
「……お前、本気で負けを認めるのか?」
迅は問いかける。
アークほどの知性を持つ男が、こんなにもあっさりと負けを認めるとは思えない。
まだ何か企んでいるのではないか——そんな考えが脳裏をよぎる。
「ええ、少なくとも今回はね。」
アークはゆっくりと立ち上がる。
よろめくこともなく、まるで戦闘前と変わらぬ静かな動作。
迅の攻撃は確かに彼にダメージを与えた。
だが、それでなお、アークは揺らぐことなく立ち続けている。
(……やっぱりこいつ、完全には力を見せていないな。)
迅は確信する。
アークの底は、まだ見えていない。
だが、それでも——今回は、こちらの勝ちだ。
「あなたの”科学魔法”、実に興味深い。」
アークはそう呟く。
「魔法の概念を超え、物理法則を操作し、なおかつ戦術にまで落とし込む……。本来の魔導理論とは異なる、それでいて極めて合理的な戦闘理論。」
彼は仮面の奥で微笑む。
「正直に言いましょう。あなたのことを、少し侮っていました。」
その言葉に、リディアとロドリゲスがわずかに身構える。
「貴様……」
ロドリゲスが低く唸る。
「では、潔く負けを認め、村人の居場所を教えてもらおうか。」
迅は鋭い眼差しでアークを見据える。
アークは一瞬だけ沈黙し、やがて口を開いた。
「村人は……"アル=ゼオス魔導遺跡"の近くに行けば、分かるでしょう。」
「……魔導遺跡?」
迅が眉をひそめる。
(そんなものがこの近くに?王宮の書物にそんな記述は無かったが……?)
「彼らには、遺跡の封印を解く為の実験に付き合っていただいていましたが……残念ながら、あの遺跡は"私が求めていた物"ではありませんでしたので。」
アークはそれだけ言い残し、ゆっくりと背を向ける。
「……次に会う時、あなたがどれほど理論を磨いているか、楽しみにしていますよ。」
魔法陣が展開される。
淡い光の粒子が空間に舞い、アークの姿がゆっくりと薄れていく。
撤退の魔法。
迅は、それを止めようとはしなかった。
「……また何か企んでるな。」
アークの姿が完全に消えると、場に残ったのは静寂のみだった。
しかし、その静けさを切り裂くように——
「——ッ!」
迅の体が、ぐらりと傾いだ。
限界が来た。
「迅ッ!?」
リディアの声が、遠く聞こえる。
膝が折れ、意識が急激に遠のいていく。
戦闘の疲労。
神経加速の影響による、全身の筋肉の限界。
すべてが一気に襲いかかる。
「……チッ……やっば……」
視界が歪む。
「——迅!!」
最後に聞こえたのは、リディアの叫び声だった。
そして——
意識は、闇の中へと沈んでいった。
高熱に炙られた鉄粒子が、闇夜の中で赤く光りながら、ゆっくりと地面に降り注いでいく。
土煙が舞い、風が吹き抜ける戦場。
さっきまで張り詰めていた魔力の奔流は、すでに跡形もなく消え去っていた。
その中心に、一人の男が膝をついていた。
アーク・ゲオルグ。
黒衣は焦げ付き、仮面には無数のひびが走っている。
彼の誇る「絶対防御」とも言える防御球は、いまや完全に粉砕され、戦闘の余波をまともに受けていた。
静寂の中、微かに響く息遣い。
(……なるほど、これは……)
アークは微笑みながら、自らの体を見下ろした。
右腕の袖口が焼け焦げ、肌にはじりじりとした熱の余韻が残っている。
完全に防御が成立していたわけではない——ダメージを受けた。
それは、彼にとっては予想外のことだった。
戦闘中、彼はすでにいくつもの勝ち筋を計算していた。
迅の魔法の特性を分析し、可能な限り防御を最適化していたはずだった。
だが、その結果がこの有様だ。
「……驚きましたよ、勇者殿。」
仮面の奥で、淡々とした声が響く。
それは敗北の悔しさではなく、未知のものを目にした興奮 に満ちた響きだった。
「あなたは、私の予想を超えた。まさか、ここまでのものとは。」
風に乗って、静かな笑みがこぼれる。
迅は、戦闘態勢を解かないまま、じっとアークを見下ろしていた。
彼の瞳には、警戒と安堵、そしてわずかな疑念が混ざっていた。
「……お前、本気で負けを認めるのか?」
迅は問いかける。
アークほどの知性を持つ男が、こんなにもあっさりと負けを認めるとは思えない。
まだ何か企んでいるのではないか——そんな考えが脳裏をよぎる。
「ええ、少なくとも今回はね。」
アークはゆっくりと立ち上がる。
よろめくこともなく、まるで戦闘前と変わらぬ静かな動作。
迅の攻撃は確かに彼にダメージを与えた。
だが、それでなお、アークは揺らぐことなく立ち続けている。
(……やっぱりこいつ、完全には力を見せていないな。)
迅は確信する。
アークの底は、まだ見えていない。
だが、それでも——今回は、こちらの勝ちだ。
「あなたの”科学魔法”、実に興味深い。」
アークはそう呟く。
「魔法の概念を超え、物理法則を操作し、なおかつ戦術にまで落とし込む……。本来の魔導理論とは異なる、それでいて極めて合理的な戦闘理論。」
彼は仮面の奥で微笑む。
「正直に言いましょう。あなたのことを、少し侮っていました。」
その言葉に、リディアとロドリゲスがわずかに身構える。
「貴様……」
ロドリゲスが低く唸る。
「では、潔く負けを認め、村人の居場所を教えてもらおうか。」
迅は鋭い眼差しでアークを見据える。
アークは一瞬だけ沈黙し、やがて口を開いた。
「村人は……"アル=ゼオス魔導遺跡"の近くに行けば、分かるでしょう。」
「……魔導遺跡?」
迅が眉をひそめる。
(そんなものがこの近くに?王宮の書物にそんな記述は無かったが……?)
「彼らには、遺跡の封印を解く為の実験に付き合っていただいていましたが……残念ながら、あの遺跡は"私が求めていた物"ではありませんでしたので。」
アークはそれだけ言い残し、ゆっくりと背を向ける。
「……次に会う時、あなたがどれほど理論を磨いているか、楽しみにしていますよ。」
魔法陣が展開される。
淡い光の粒子が空間に舞い、アークの姿がゆっくりと薄れていく。
撤退の魔法。
迅は、それを止めようとはしなかった。
「……また何か企んでるな。」
アークの姿が完全に消えると、場に残ったのは静寂のみだった。
しかし、その静けさを切り裂くように——
「——ッ!」
迅の体が、ぐらりと傾いだ。
限界が来た。
「迅ッ!?」
リディアの声が、遠く聞こえる。
膝が折れ、意識が急激に遠のいていく。
戦闘の疲労。
神経加速の影響による、全身の筋肉の限界。
すべてが一気に襲いかかる。
「……チッ……やっば……」
視界が歪む。
「——迅!!」
最後に聞こえたのは、リディアの叫び声だった。
そして——
意識は、闇の中へと沈んでいった。
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