科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第74話 科学勇者、モテ始める②――しかし鈍感系主人公だった件

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リディア・アークライトは、研究室の片隅でひとり頭を抱えていた。

「……このままじゃ、本当にマズいかもしれないわ……。」

彼女の脳裏には、さっきまで耳にしていた 「勇者様って、めちゃくちゃ優良物件なのでは?」 という女性魔法士たちの言葉がこびりついて離れなかった。

(優良物件……!?)

迅のことを “勇者” としてではなく、“異性” として意識する魔法士たちが増えてきている。

それだけならまだしも、彼女たちは 本気で迅に惹かれ始めている ように見えた。

リディアは机に突っ伏しながら、静かに呻いた。

(……そりゃ、確かに迅《じん》はすごいわよ。)

異世界から召喚されて間もないのに、これまでの戦績は十分すぎるほどのものだった。


 “黒の賢者”アーク・ゲオルグを単身撃退


 “剣聖”カリム・ヴェルトールとの決闘に勝利


この2つの功績だけで、彼の名声は一気に高まった。
特にカリムとの決闘は、王都の上層部だけでなく、 一般の兵士や魔法士たちにまで衝撃を与えた。

王国最強とまで称される剣士に 「私は勇者殿に従う」 と言わせた男。

それが、九条迅《くじょうじん》だった。


(それだけじゃないわ……)


冷静に考えてみれば、迅の魅力は 戦闘力だけではない。

彼の頭の回転の速さは異常なレベルで、研究や分析に関してはこの世界に二人といない程の才能を持っている。

どんな状況でも冷静に判断し、絶望的な局面ですら打開策を見つけ出す。


(そして……)


リディアは 頬を赤らめながら、小さく呟いた。


「……よく見たら、顔も悪くないのよね……。」


普段は白衣を羽織り、レポートを真剣な眼差しで見つめ、やたらと知的な雰囲気を醸し出している。
だが、その瞳は鋭く、どこか冒険者のような冷静さを宿している。

戦闘時はさらに違う。
カリムとの決闘のときに見せた、あの冷徹な眼差し。

(……あんなの、格好良いに決まってるじゃない。)

迅の “戦士” としての姿に惹かれる女性が増えるのは当然だった。

(まずいわ……このままじゃ……)

リディアの脳裏には、以前迅が話していた 「異世界ハーレム主人公」 の話がよみがえった。


───────────────────


「異世界召喚モノの物語にはな、よく ハーレム展開 ってのがあるんだよ。やたらモテて、周りの女性キャラがどんどん惚れていく現象が起きるんだぜ。」

「へぇ……?」

「まあ、俺には縁のない話だがな。」

「……そうなの?」

「そりゃそうだろ。この手の主人公って、基本的にどっか鈍感だからな。俺はそこまで鈍くねぇよ。」


────────────────────


(いやいやいや!! もう十分鈍感よ!!!)

迅は、 女性魔法士たちが自分に好意を持ち始めていることにまったく気づいていない。

無自覚に彼女たちの心を掴み、親しげに魔法理論を教えている。

あの姿は、どう見ても 「憧れの知的な先生ポジション」 で、余計に女性たちの好感度を上げるだけだった。

(このままじゃ、本当にハーレム化が進行してしまうんじゃ……!?)

リディアは真剣な表情で考えた。

彼女は別に、迅を独占したいわけではない。

……ないはずなのだ。

だが、無自覚に女性を惹きつけていく迅を ただ黙って見ているのは、何か違う気がする。

(でも、どうすれば……?)

リディアは考え込んだ。

魔法士たちの “迅への好感度” を下げるのは不可能だ。
むしろ、戦闘で活躍するたびに どんどん評価が上がってしまう。


(……そうよ!)


彼女は ひらめいた。

(ジンの “ヤバさ” を知れば、みんな冷めるんじゃない?)

九条迅という男は 類稀なる頭脳を持ち、戦場ではクールに振る舞うが、研究になると突飛なことをし始める。

そして、最も重要なのは 彼の「実験精神」 だ。

(そう、ジンの本質は…… "変人" なのよ!)

そのことを 女性魔法士たちに知らしめれば、彼女たちの興味は薄れるはずだ。

リディアは ふふん と得意げに笑い、机をポンと叩いた。

「決まりね。」

こうして、 彼女の研究史上最もくだらないプロジェクト が始まった。

その名も 《ハーレム阻止計画》。

(あとは、ジンに “実験欲” を刺激するような話をすれば……勝手に暴走してくれるはず!)

ニヤリと笑うリディアの目は、まるで策士のようだった。

この時、 彼女はまだ知らなかった。

この計画が、予想以上に とんでもない方向 に転がっていくことを……。


◇◆◇



「ん……?」

その頃、研究室の奥では 当の迅がコーヒーを片手にノートを広げていた。

「よし……次の実験の準備を……ん?」

彼は 視線を上げ、ドアの向こうの異変に気づいた。

廊下の向こうから、 やたらと人の気配がする。

(……何だ?)

魔法研究室に押し寄せる人波なんて、普段はまずない。
迅は眉をひそめた。

(まさか、またリディアが何かやらかしたのか?)

最近、彼女の様子が少しおかしい。
特に 「ハーレム」とか「モテ」とか、妙な単語をブツブツ言っていた のが気になっていた。

まさか、彼女がまた妙な企みを……?

「……ま、考えても仕方ねぇか。」

迅は とりあえず様子を見るため、立ち上がった。



 ◇◆◇



研究室前の廊下では、迅を目当てに押し寄せた女性魔法士達がヒソヒソと話し合っていた。

「えっ、本当に勇者様に教えてもらえるの?」
「うん、前に訓練場でお話ししたとき、知識を広めるのは良いことだって言ってたし……!」
「だったら、私たちが質問するのも……別にいいよね?」

女性魔法士たちは、 完全に迅を「頼れる先生」と認識し始めていた。

「勇者様、魔法の詠唱短縮の応用についてもっと教えてほしいんです!」
「魔法陣の最適化も……! 勉強したいです!」
「勇者様が研究してる魔法の理論、もっと詳しく知りたくて……!」

次々と熱心な声が上がる。

「これって、勇者様に直接指導してもらえるチャンスじゃない?」
「もしかして、弟子入り……とか?」
「そ、そういうのって、できるのかしら……?」

徐々に、彼女たちの顔に 熱が帯び始める。
単なる「学びたい」という好奇心から、 それ以上の感情 が生まれつつあった。

次の瞬間——。

 

ガチャッ。

 

研究室のドアが開いた。

「おいおい、なんだよ……騒がしいな。」

 

そこに立っていたのは、 白衣姿の九条迅だった。

青白い人工灯の下で 髪を掻き上げ、鋭い眼差しを向ける。
その知的な雰囲気と、決闘時には見せなかった 落ち着いた態度。

「勇者様……!」

魔法士たちは 一瞬で言葉を失った。

そこにいたのは 異世界の科学者であり、最強の剣士を打ち破った男。

「……なんだ?」

迅は少し戸惑ったように眉をひそめる。

「いや……えっと……」

魔法士たちは 思わず頬を染めながら目を逸らす。

(やっぱり……カッコいい……。)

彼の知的な雰囲気と、 異世界人ならではの洗練された立ち振る舞い が、彼女たちの心を捉えてしまっていた。

「……まぁ、いいか。」

迅は軽く肩をすくめる。

「せっかく来たんだ。何か質問があるなら聞いてやるよ。」

 

——— その一言が、彼女たちのハートに火をつけた。

 

「えっ、じゃあ……!」
「勇者様! 私の魔法、もっと速くなる方法を教えてください!」
「詠唱短縮のコツって、どうやって訓練すれば……?」
「私、魔力制御が苦手で……勇者様の理論を学べば上達できるでしょうか?」

一気に研究室の前に詰め寄る魔法士たち。

「わ、わかった、わかった! 質問は順番にな!」

慌てて制止する迅だが、彼の言葉に耳を貸さず、魔法士たちは次々と詰め寄る。

「もしかして、勇者様ってお優しい……?」
「しかも、ちゃんと教えてくれるのって素敵……!」
「カリム様との決闘も、格好良かったですよね……!」
「こんなに冷静で頼れるなんて……!」

(……何か、雲行きが怪しくなってきたな。)

迅は 背筋に悪寒が走るのを感じた。

——このとき彼はまだ知らなかった。
この状況が後にとんでもない事態へと発展することを。



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