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第76話 "王命独行《おうめいどっこう》"、発足――そして意外過ぎる護衛
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アルセイア王国の王都にある、魔法研究棟の一室。
ここは、勇者・九条迅が王国から与えられた 「勇者専用研究室」 だった。
普段なら、ここには迅とリディア、そしてロドリゲスの三人が集まり、魔法理論の研究や魔王軍の動向を探る会議が行われている。
今日もいつも通り、迅は研究机に書類を広げ、魔力干渉に関する新たな仮説をリディアと議論していた。
「この数日のうちに、例の遺跡の調査を再開したいんだよな」
迅が顎に手を当てながら呟く。
「アル=ゼオス魔導遺跡ね……。デルヴァ村の人達が記憶を無くしてたっていう……。確かに、前回のアーク・ゲオルグの動きを考えれば、魔王軍がまた何か企んでいてもおかしくはないわね」
リディアが腕を組みながら相槌を打つ。
「ふむ。魔力の流れの異常も気になるが、それよりも魔王軍の動きが不気味じゃな」
ロドリゲスが重々しく頷く。
迅は頷きながら、広げた書類の中から一枚を引っ張り出した。
それは、最近入手した魔王軍の動向を示す地図だった。
北方の隣国"ノーザリア"との国境付近で不審な魔力反応が観測されており、それに関する調査が必要だとされていた。
「とりあえず、今の情報を整理すると——」
「——ほう、ここが勇者殿の研究室か……」
「………え?」
静かに響いた低い声。
迅が書類から顔を上げると、研究室の片隅に座る一人の男の姿 が目に入った。
金髪に鋭い瞳を持つ男。
王国最強の剣士、“剣聖” カリム・ヴェルトール その人である。
「………なんでお前もいるの?」
迅は思わず問いかける。
あまりに当然のように座っていたため、初めは幻覚かと思った。
「ん? ダメか?」
カリムは まるでそこにいるのが当然かのように 返してきた。
「いや、ダメじゃねぇけど………何でいるのか理由が知りたいなー……って」
迅は目を細める。
そもそもカリムは、つい最近まで 王国騎士団の団長 という重要な地位にいたはずだ。
それがなぜ、何の前触れもなく研究室の片隅に座っているのか——。
カリムは静かに椅子から立ち上がると、やたらと意味深な顔 で迅を見つめる。
「勇者殿。それは……私のこの想いをハッキリ言葉にしてほしい、という事か?」
「いえ、結構です。お座りください」
迅は即答し、手で制しながら着席を促す。
「そうか? 承知した。」
ガタッと椅子に座り直すカリム。
その様子を見ながら、迅は
(おい……! マジでなんでいんだよこいつ!)
と、内心叫んだ。
そして横を見ると、リディアも
(私だって知らないわよ!)
と、目で訴えてくる。
(確か王国の騎士団長か何か重役に就いてたんじゃねぇのかよ!?)
(だから私も知らないって! でも噂によると、「生涯を共にすべき人を見つけた」とか言って騎士団に辞表を提出してきたとか……)
(何その理由!? 怖いんだけど!! 超怖いんだけど!!俺、今、こっち来て初めて元の世界に帰りたくなった!!)
(私だって貴方の前に5年近くこんな感じでカリムに付きまとわれてたのよ! 分かったでしょ? 私の苦労が!)
(そんな苦労、分かち合いたくねぇ!!)
迅とリディアが ヒソヒソと小声で激論を交わす その横で、カリムは 「ここが、勇者殿の部屋……」 と、ゴクリと唾を飲み込みながら、研究室の隅々まで舐めるように視線を送っている。
「……落ち着け、カリム。あんまりジロジロ見回すな」
迅が嫌な予感を覚えながら声をかける。
「いや、すまない。勇者殿が日々どのような研究をしているのか知ることも、護衛の務めだと思ってな」
カリムは真剣な顔でそう言いながら、研究机の上に置かれていた書類に手を伸ばした。
「ちょっ!? それ勝手に読むな!!!」
慌てて迅が書類を取り上げる。
「ふむ……この式は、魔力流動の最適化についての研究か?うむ、全然分からんな。」
「だから読むなって言ってんだろ!! ってか全然分かんねぇのかよ!!」
迅が必死に抗議するが、カリムは 「これも護衛の務め……」 と呟きながら書類に目を通そうとする。
その横で、リディアは 「ああ……これから毎日こんな感じになるのね……」 と遠い目をしていた。
「——お前、護衛ってどういうことだよ!?」
とうとう我慢できなくなった迅が問い詰める。
「ん? 私は勇者殿の護衛として、正式に王国から任命された」
カリムは 当然のように 返す。
「……は?」
迅の頭に疑問符が浮かぶ。
「そもそも、勇者殿には王国からの正式な護衛が必要とされていただろう?」
カリムは剣を軽く指でなぞりながら、静かに言葉を続ける。
「王国が貴殿を“王命独行《おうめいどっこう》”として認める以上、それに伴う監視と安全の確保が求められる。その結果——」
カリムは 堂々とした声で言い放った。
「——私が護衛となった。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
迅の絶叫が研究室に響き渡った。
ロドリゲスが静かに首を振る。
「……ワシも今知った」
リディアがため息をつく。
「……まさか、こんな形でこいつと一緒に行動することになるとは……」
そして、カリムは満面の笑みを浮かべながら、
「これからよろしく頼むぞ、勇者殿!」
と、どこまでも誇らしげに言い放ったのだった。
─────────────────
──時は数日前に遡《さかのぼ》る。
アルセイア王国、王宮の謁見の間。
堂々たる佇まいを見せる豪奢な玉座の前に、九条迅、リディア・アークライト、ロドリゲス・ヴァルディオスの三人が揃って立っていた。
目の前には、王国の頂点に立つ男――アルセイア十三世が、その鋭い眼差しで彼らを見下ろしている。
「……それが、貴公の望みというわけか」
王の声は低く、しかし威厳に満ちていた。
「はい。」
迅は一歩前に進み、真っすぐに王を見据える。
他の貴族の手前、きちんとした作法で話す迅に、リディアは内心違和感を覚えたが、顔には出さない。
「俺は、この世界に召喚された時から、ずっと感じていました。……戦いは、俺の本分ではないと。」
広間に静かな緊張が走る。
「俺がやりたいのは、魔法の研究、科学的な分析、そしてその応用です。……しかし、それを実現するには、どうしても戦いが避けられないこともわかっています。」
「ふむ……」
王は眉をわずかに上げた。
「貴公の功績は、すでに王国中に知れ渡っている。魔王軍の“黒の賢者”を退けたこと。そして、王国の剣聖すら打ち倒したこと……。」
「光栄です。」
迅は淡々と答えたが、その表情はどこか複雑だった。
王は重々しく頷き、広間に響くように言った。
「勇者よ。貴公の力を、王国のために使いたい。……だが、貴公には貴公の考えがあるのも理解している。」
王は視線を逸らし、玉座の脇に控えていた側近の賢律院の高官に目を向ける。
「貴公らの意見は?」
賢律院の高官は、ゆっくりと進み出た。
「勇者殿の知識と技術は、我々の魔導研究を飛躍的に進歩させる可能性があります。しかし、その自由な発想が、時に秩序を乱す恐れもある……。」
「要するに、目を離すのは不安、ということか?」
迅が軽く肩をすくめると、賢律院の高官は咳払いした。
「……はい。」
王は静かに微笑んだ。
「ならば、こうしよう。」
王はゆっくりと身を乗り出し、堂々と宣言した。
「勇者九条迅よ。我が王国は、貴公を“王命独行《おうめいどっこう》”として認める。」
広間がざわめく。
──王命独行《おうめいどっこう》。
王国に属しながら、自由に行動できる立場――これは、貴族ですらそう簡単には許されない特権だった。
「ただし、条件がある。」
王はゆっくりと手を掲げた。
「貴公には、王の承認を受けた監査官を付ける。」
迅は目を細めた。
「監査官……ですか?」
「そうだ。」
王は頷き、隣のロドリゲスに目を向ける。
「賢律院の"十三賢人"が一人であるロドリゲス・ヴァルディオス。そして、王宮魔法士の筆頭リディア・アークライト。貴公ら二人を、勇者の監督役とする。」
ロドリゲスは腕を組み、厳かに頷いた。
「ほう……つまり、ワシらが勇者殿のお目付け役というわけじゃな?」
「そうなるな。」
「まあ、どうせワシも勇者殿と行動を共にするつもりじゃったし、問題ない。」
ロドリゲスは淡々と受け入れた。
リディアも、「まぁ、そうなるわよね」と苦笑する。
迅は腕を組み、少し考え込む。
(つまり、自由に動けるようにはなるけど、完全にフリーってわけじゃないってことか……)
まぁ、いきなり独立した軍事力を持つのは無理だろう。これは妥協点としては悪くない。
「わかりました。その条件、受け入れます。」
迅が頷くと、王は満足げに微笑んだ。
「よろしい。」
しかし――次の言葉で、迅は思わず目を見開くことになる。
「更に、条件として、こちらが用意した護衛を一人付ける。」
「護衛?」
迅は首を傾げた。
「……ええと、それって誰ですか?」
アルセイア王は薄く笑う。
「それは――近いうちに、貴公の前に現れるだろう。」
この時点では、迅はまだ気づいていなかった。
この“護衛”が、己の人生にこれほどまでの衝撃をもたらす存在になるとは――。
─────────────────
――そして、現在。
研究室で。
「……なんでお前もいるの?」
「ん? ダメか?」
とぼけた顔で研究室の末席に座るカリム・ヴェルトールを見て、迅は心の底から絶望したのだった。
こうして、カリムが正式に迅の仲間に加わることが決定した。
そして、この決断が――
今後の王国の運命に、さらなる波乱を巻き起こすことになる。
ここは、勇者・九条迅が王国から与えられた 「勇者専用研究室」 だった。
普段なら、ここには迅とリディア、そしてロドリゲスの三人が集まり、魔法理論の研究や魔王軍の動向を探る会議が行われている。
今日もいつも通り、迅は研究机に書類を広げ、魔力干渉に関する新たな仮説をリディアと議論していた。
「この数日のうちに、例の遺跡の調査を再開したいんだよな」
迅が顎に手を当てながら呟く。
「アル=ゼオス魔導遺跡ね……。デルヴァ村の人達が記憶を無くしてたっていう……。確かに、前回のアーク・ゲオルグの動きを考えれば、魔王軍がまた何か企んでいてもおかしくはないわね」
リディアが腕を組みながら相槌を打つ。
「ふむ。魔力の流れの異常も気になるが、それよりも魔王軍の動きが不気味じゃな」
ロドリゲスが重々しく頷く。
迅は頷きながら、広げた書類の中から一枚を引っ張り出した。
それは、最近入手した魔王軍の動向を示す地図だった。
北方の隣国"ノーザリア"との国境付近で不審な魔力反応が観測されており、それに関する調査が必要だとされていた。
「とりあえず、今の情報を整理すると——」
「——ほう、ここが勇者殿の研究室か……」
「………え?」
静かに響いた低い声。
迅が書類から顔を上げると、研究室の片隅に座る一人の男の姿 が目に入った。
金髪に鋭い瞳を持つ男。
王国最強の剣士、“剣聖” カリム・ヴェルトール その人である。
「………なんでお前もいるの?」
迅は思わず問いかける。
あまりに当然のように座っていたため、初めは幻覚かと思った。
「ん? ダメか?」
カリムは まるでそこにいるのが当然かのように 返してきた。
「いや、ダメじゃねぇけど………何でいるのか理由が知りたいなー……って」
迅は目を細める。
そもそもカリムは、つい最近まで 王国騎士団の団長 という重要な地位にいたはずだ。
それがなぜ、何の前触れもなく研究室の片隅に座っているのか——。
カリムは静かに椅子から立ち上がると、やたらと意味深な顔 で迅を見つめる。
「勇者殿。それは……私のこの想いをハッキリ言葉にしてほしい、という事か?」
「いえ、結構です。お座りください」
迅は即答し、手で制しながら着席を促す。
「そうか? 承知した。」
ガタッと椅子に座り直すカリム。
その様子を見ながら、迅は
(おい……! マジでなんでいんだよこいつ!)
と、内心叫んだ。
そして横を見ると、リディアも
(私だって知らないわよ!)
と、目で訴えてくる。
(確か王国の騎士団長か何か重役に就いてたんじゃねぇのかよ!?)
(だから私も知らないって! でも噂によると、「生涯を共にすべき人を見つけた」とか言って騎士団に辞表を提出してきたとか……)
(何その理由!? 怖いんだけど!! 超怖いんだけど!!俺、今、こっち来て初めて元の世界に帰りたくなった!!)
(私だって貴方の前に5年近くこんな感じでカリムに付きまとわれてたのよ! 分かったでしょ? 私の苦労が!)
(そんな苦労、分かち合いたくねぇ!!)
迅とリディアが ヒソヒソと小声で激論を交わす その横で、カリムは 「ここが、勇者殿の部屋……」 と、ゴクリと唾を飲み込みながら、研究室の隅々まで舐めるように視線を送っている。
「……落ち着け、カリム。あんまりジロジロ見回すな」
迅が嫌な予感を覚えながら声をかける。
「いや、すまない。勇者殿が日々どのような研究をしているのか知ることも、護衛の務めだと思ってな」
カリムは真剣な顔でそう言いながら、研究机の上に置かれていた書類に手を伸ばした。
「ちょっ!? それ勝手に読むな!!!」
慌てて迅が書類を取り上げる。
「ふむ……この式は、魔力流動の最適化についての研究か?うむ、全然分からんな。」
「だから読むなって言ってんだろ!! ってか全然分かんねぇのかよ!!」
迅が必死に抗議するが、カリムは 「これも護衛の務め……」 と呟きながら書類に目を通そうとする。
その横で、リディアは 「ああ……これから毎日こんな感じになるのね……」 と遠い目をしていた。
「——お前、護衛ってどういうことだよ!?」
とうとう我慢できなくなった迅が問い詰める。
「ん? 私は勇者殿の護衛として、正式に王国から任命された」
カリムは 当然のように 返す。
「……は?」
迅の頭に疑問符が浮かぶ。
「そもそも、勇者殿には王国からの正式な護衛が必要とされていただろう?」
カリムは剣を軽く指でなぞりながら、静かに言葉を続ける。
「王国が貴殿を“王命独行《おうめいどっこう》”として認める以上、それに伴う監視と安全の確保が求められる。その結果——」
カリムは 堂々とした声で言い放った。
「——私が護衛となった。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」
迅の絶叫が研究室に響き渡った。
ロドリゲスが静かに首を振る。
「……ワシも今知った」
リディアがため息をつく。
「……まさか、こんな形でこいつと一緒に行動することになるとは……」
そして、カリムは満面の笑みを浮かべながら、
「これからよろしく頼むぞ、勇者殿!」
と、どこまでも誇らしげに言い放ったのだった。
─────────────────
──時は数日前に遡《さかのぼ》る。
アルセイア王国、王宮の謁見の間。
堂々たる佇まいを見せる豪奢な玉座の前に、九条迅、リディア・アークライト、ロドリゲス・ヴァルディオスの三人が揃って立っていた。
目の前には、王国の頂点に立つ男――アルセイア十三世が、その鋭い眼差しで彼らを見下ろしている。
「……それが、貴公の望みというわけか」
王の声は低く、しかし威厳に満ちていた。
「はい。」
迅は一歩前に進み、真っすぐに王を見据える。
他の貴族の手前、きちんとした作法で話す迅に、リディアは内心違和感を覚えたが、顔には出さない。
「俺は、この世界に召喚された時から、ずっと感じていました。……戦いは、俺の本分ではないと。」
広間に静かな緊張が走る。
「俺がやりたいのは、魔法の研究、科学的な分析、そしてその応用です。……しかし、それを実現するには、どうしても戦いが避けられないこともわかっています。」
「ふむ……」
王は眉をわずかに上げた。
「貴公の功績は、すでに王国中に知れ渡っている。魔王軍の“黒の賢者”を退けたこと。そして、王国の剣聖すら打ち倒したこと……。」
「光栄です。」
迅は淡々と答えたが、その表情はどこか複雑だった。
王は重々しく頷き、広間に響くように言った。
「勇者よ。貴公の力を、王国のために使いたい。……だが、貴公には貴公の考えがあるのも理解している。」
王は視線を逸らし、玉座の脇に控えていた側近の賢律院の高官に目を向ける。
「貴公らの意見は?」
賢律院の高官は、ゆっくりと進み出た。
「勇者殿の知識と技術は、我々の魔導研究を飛躍的に進歩させる可能性があります。しかし、その自由な発想が、時に秩序を乱す恐れもある……。」
「要するに、目を離すのは不安、ということか?」
迅が軽く肩をすくめると、賢律院の高官は咳払いした。
「……はい。」
王は静かに微笑んだ。
「ならば、こうしよう。」
王はゆっくりと身を乗り出し、堂々と宣言した。
「勇者九条迅よ。我が王国は、貴公を“王命独行《おうめいどっこう》”として認める。」
広間がざわめく。
──王命独行《おうめいどっこう》。
王国に属しながら、自由に行動できる立場――これは、貴族ですらそう簡単には許されない特権だった。
「ただし、条件がある。」
王はゆっくりと手を掲げた。
「貴公には、王の承認を受けた監査官を付ける。」
迅は目を細めた。
「監査官……ですか?」
「そうだ。」
王は頷き、隣のロドリゲスに目を向ける。
「賢律院の"十三賢人"が一人であるロドリゲス・ヴァルディオス。そして、王宮魔法士の筆頭リディア・アークライト。貴公ら二人を、勇者の監督役とする。」
ロドリゲスは腕を組み、厳かに頷いた。
「ほう……つまり、ワシらが勇者殿のお目付け役というわけじゃな?」
「そうなるな。」
「まあ、どうせワシも勇者殿と行動を共にするつもりじゃったし、問題ない。」
ロドリゲスは淡々と受け入れた。
リディアも、「まぁ、そうなるわよね」と苦笑する。
迅は腕を組み、少し考え込む。
(つまり、自由に動けるようにはなるけど、完全にフリーってわけじゃないってことか……)
まぁ、いきなり独立した軍事力を持つのは無理だろう。これは妥協点としては悪くない。
「わかりました。その条件、受け入れます。」
迅が頷くと、王は満足げに微笑んだ。
「よろしい。」
しかし――次の言葉で、迅は思わず目を見開くことになる。
「更に、条件として、こちらが用意した護衛を一人付ける。」
「護衛?」
迅は首を傾げた。
「……ええと、それって誰ですか?」
アルセイア王は薄く笑う。
「それは――近いうちに、貴公の前に現れるだろう。」
この時点では、迅はまだ気づいていなかった。
この“護衛”が、己の人生にこれほどまでの衝撃をもたらす存在になるとは――。
─────────────────
――そして、現在。
研究室で。
「……なんでお前もいるの?」
「ん? ダメか?」
とぼけた顔で研究室の末席に座るカリム・ヴェルトールを見て、迅は心の底から絶望したのだった。
こうして、カリムが正式に迅の仲間に加わることが決定した。
そして、この決断が――
今後の王国の運命に、さらなる波乱を巻き起こすことになる。
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