科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第77話 異端排斥派の陰謀と、蠢く北の影

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王都アルセイアの北区、貴族街の奥に位置するバルコス・リシュトン侯爵の私邸。

表向きは静かな貴族の屋敷に過ぎないが、その地下には異端排斥派の重鎮たちが集う密会の場が存在していた。

石造りの広間に重厚なテーブルが置かれ、その周りに十数名の貴族や高官たちが座っている。
どの顔も険しく、眉間に皺を寄せていた。

その中心に座するのは、バルコス・リシュトン侯爵。
彼は椅子の肘掛けに指をトントンと当てながら、苛立ちを隠せない表情で口を開いた。

「……カリムが、勇者に降った。いや、あえて降ったのだ。これ以上ない醜態を晒してな。」

声には怒気が滲んでいる。

「まさか、“王国の剣”たるカリム・ヴェルトールが、勇者の監査官に収まるとはな……!」

隣に座っていたダリウス・ヴェルトール公爵が深くため息をつく。


「まだ確証はないが……私の見る限り、あれは策ではない。本気で勇者に心酔しているように思える。」


「まったく、我らの誇りたる剣聖が、よりによって異端の勇者の元へ行くとは……!」


「しかも、勇者には“王命独行”の権限が与えられた。奴の行動を完全に制限することは、もはや難しくなった。」


貴族たちの間から、嘆息と怒りの声が漏れる。

この会合の者たちは、皆アルセイア王国の“伝統”を重んじる者たち――すなわち異端排斥派。

魔法と科学を混ぜ合わせるような勇者・九条迅の存在を快く思わず、彼を追い落とそうと暗躍していた。

しかし、その目論見は尽く失敗し、今や勇者は王の庇護を受けるまでになった。 

それどころか、彼の側近にはカリム・ヴェルトールという王国最強の剣士がつき、若き天才魔法士リディア・アークライトや賢律院のロドリゲスまでも監査役として従っている。

「このままでは、勇者の力が王国を支配しかねない……。」

誰かが重い声で呟く。

バルコスは大きく椅子に背を預け、苛立ちを抑えるように額を押さえた。

「……いずれにせよ、カリムはもう当てにならん。問題はこれからだ。」

異端排斥派の貴族たちが一斉にバルコスに視線を向ける。
バルコスは、冷静な口調で続けた。

「勇者の影響力は今や王国の中枢にまで及んでいる。このままでは、我らの理想は崩れる。」

「では、どうするおつもりで?」

低い声で尋ねたのは、一人の老人だった。
白髪の貴族で、魔術師協会の高位職にある男だ。

バルコスは、一瞬だけ口を噤み、視線を向けた。


広間の最奥――そこには、黒衣の男が座していた。


彼は背もたれに身を預け、ゆったりと足を組んでいる。
貴族たちのざわめきを他所に、ワインのグラスを傾けながら、ただ静かに微笑んでいた。


その男こそ、ヴェルザリア公爵。


北の隣国、ノーザリアの有力貴族であり、長年アルセイア王国の保守派に資金と影響力を供給してきた男である。

「ふむ……話は聞かせてもらった。」

ヴェルザリア公爵が口を開くと、その場の空気が一変した。

まるで、場を支配するかのような静けさ。
誰もが、一瞬言葉を失う。

バルコスが、慎重な声で問いかけた。

「……公爵殿は、どうお考えか?」

ヴェルザリア公爵は、静かにグラスをテーブルに置き、微笑んだ。

「異端は、排除すればよい。」

彼の言葉は、冷たく、響き渡った。

「――だが、その前に、“力”を試すべきではないか?」

「力……?」

貴族の一人が、疑問を口にする。

ヴェルザリア公爵は、ゆっくりと指を組み、視線を上げた。

「勇者がどれほどの存在か……このまま王国を導く器か否か、試してみるのも悪くない。」

「試す、とは……?」

バルコスが問いかける。

ヴェルザリア公爵の口元に、わずかに笑みが浮かぶ。

「近く、北方で小さな戦が起こる。」

「北方……?」

バルコスが僅かに目を細める。

ヴェルザリア公爵は、ゆっくりと立ち上がり、バルコスの肩に手を置いた。

「……その時が来れば、勇者がどの程度の力を持つか、自ずと分かるだろう。」

低く囁かれる声に、バルコスは息を呑んだ。

「まさか……」

「フフ……」

ヴェルザリア公爵は、くるりと踵を返し、出口へと歩き出す。

「しばらくは静観するとしよう。だが、機は熟しつつある。」

その言葉を最後に、彼は広間を後にした。

バルコスはしばらく呆然としていたが、やがて静かに息を吐き、椅子に深く沈み込んだ。

(……ノーザリアが動く、か。)

ヴェルザリア公爵が何を意味しているのかは分からなかった。
だが、彼がそう言う以上、確実に何かが起こる。

王国と隣国ノーザリア。
そして、異端排斥派と勇者九条迅。

この夜、動き始めた歯車は、確実に次の戦いの幕開けを告げていた。


ヴェルザリア公爵の微笑みの裏に、何か別の思惑があることを、まだ誰も知らない。
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