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第91話 ミィシャ vs. 血鉄のタロス② ── 砕かれた牙、舞い降りた剣──
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「硬ぇ……!?」
ミィシャの拳が、タロスの腹に炸裂する。
だが、響いたのは肉を打つ音ではなく、鈍い金属音。
拳を当てた瞬間、衝撃がそのまま自分の手に跳ね返る。
「チッ……にゃんだコレ……!」
思わず手を振るが、タロスの身体は微動だにしていない。
ミィシャは鋭い目でタロスを睨みながら、一瞬で状況を整理する。
(……やっぱり本物の鎧じゃねぇ。こいつの皮膚そのものが鋼鉄になってる……!)
タロスの全身は漆黒に光る装甲のように覆われていた。
“鉄血核“の力。
魔王軍が誇る未知の魔道具が、魔力を鋼鉄へと変換し、タロスの肉体を完全な装甲と化している。
タロスはニヤリと嗤った。
「ガハハハハ!! どうしたァ、子猫ちゃんよォ!
オレ様の体は、ちょいとやそっとの攻撃じゃ傷一つつかねェぜ?」
「…………チッ!!」
ミィシャは舌打ちし、すぐに間合いを取る。
(だったら、スピードと急所狙いで……!)
次の瞬間、地面を蹴ると同時に空気を裂くように跳ぶ。
獣人の超人的な脚力を活かした、低空からの超高速接近。
そのまま、タロスの顎を狙い、回し蹴りを放つ!
——ガツンッ!!
(……ッ!?)
蹴りが直撃する。
だが、タロスはびくともしない。
むしろ——
「おっとォ、そいつはいただきだァ!!」
タロスは蹴り脚をそのまま掴んだ。
「——っ!!?」
ミィシャの瞳が見開かれる。
(……ヤバッ!!)
次の瞬間。
タロスの太い腕が、まるで玩具でも扱うようにミィシャの身体を宙へと放り上げた。
「なっ……!?」
重力が消えたかのような浮遊感。
タロスはニヤニヤと嗤いながら、戦斧を振り上げる。
「逃げるんじゃねぇぞォ!!」
地面が砕けるほどの衝撃。
ギリギリのタイミングでミィシャは体勢を整え、着地する。
だが——
タロスの猛攻は止まらない。
「そらァ!!」
タロスが再び戦斧を振り下ろす。
轟音。
その一撃が地面を砕き、石片が四方に飛び散る。
ミィシャは素早く横に飛び、間一髪で回避する。
(ヤバい……! このままじゃ押しつぶされる……!)
ミィシャは冷や汗を滲ませながら、広間の構造を頭の中で再確認する。
この部屋には、大きな柱も遮蔽物もない。
ただの広い戦場だ。
つまり——
(こっちは逃げる場所がねぇのに、アイツの攻撃範囲は広すぎる!!)
逃げ場がない。
そう思った瞬間、タロスが再び斧を振り上げた。
「テメェみてぇなチョロチョロした子猫ちゃんはなァ……こうやって潰すんだよォ!!」
ミィシャの心臓が跳ねる。
(ッツ……速い!!)
ギリギリの距離。
攻撃範囲外へは逃げられない。
なら——
(やるしかねぇ!!)
ミィシャは全力で前方へ飛び込む。
戦斧の攻撃が終わる瞬間を狙い、その隙を突く!
タロスの懐に潜り込み、低空から拳を突き上げる!
「——喰らえッ!!」
拳がタロスの顎へ直撃する!
だが。
「……ヘッ。」
タロスの嗤う声が聞こえた。
「いいねぇ、その気概よォ!!」
ミィシャの拳を受けたタロスは、少しも後退していなかった。
むしろ、笑みを深め、ミィシャの腕をガッチリと掴んだ。
「けどよォ——それじゃ俺様は倒せねェんだよ!!」
ミィシャの身体が、再び宙に浮かぶ。
「さァて、そろそろ寝んねの時間だぜェ!!」
次の瞬間、ミィシャの身体が頭上高く持ち上げられた。
(……ヤバい……!!)
ミィシャは必死に抵抗するが、タロスの力は圧倒的だった。
ミィシャの小さな体を片手で持ち上げたまま——
タロスはそのまま地面に向かって全力で叩きつけた。
ドガァァァァン!!!
床が砕ける。
粉塵が舞い、激しい衝撃波が広間を揺るがした。
「……ッ!!」
衝撃が背骨に直撃し、肺から息が漏れる。
全身に鈍い痛みが広がり、意識が一瞬飛びかけた。
(クソ……ッ! 体が……動かねぇ……!!)
「へへへ……どうしたァ? もう動けねぇのかよォ?」
タロスが上から見下ろしていた。
ミィシャは地面に伏したまま、歯を食いしばる。
(……負けられねぇ……!)
必死に身体を起こそうとするが、痛みが走る。
それでも。
それでも——
ミィシャは歯を食いしばりながら、立ち上がろうとした。
「——チッ……あたしを……舐めんな……!」
しかし、その刹那——。
タロスの鉄の拳が、ミィシャの腹部へと叩き込まれる。
——ズドンッ!!!
ミィシャの視界が、一瞬で暗転した。
意識が揺らぐ。
呼吸が浅くなる。
その瞬間——
バサッ……
ミィシャの眼帯が千切れた。
右目の傷跡が、広間の光に晒される。
「……チッ……クソッ……!!」
ミィシャは呻きながら、ゆっくりと身を起こした。
だが、すぐに全身を激痛が襲う。
意識が霞む。
息をするたびに肺の奥がズキズキと痛む。
(マズい……! 体が、思うように動かねぇ……!)
目の前には、巨体の魔族——血鉄のタロスが仁王立ちしている。
「ははっ、さっきまでの勢いはどうしたァ?」
タロスは愉快そうに笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。
「お前、戦うのが得意なんじゃねぇのかァ? どうした、もう終わりかァ?」
「……っ……まだ……ッ!!」
ミィシャは歯を食いしばり、膝をつきながら立ち上がろうとする。
だが、思うように力が入らない。
タロスは大げさに肩をすくめ、失笑する。
「ガハハハ!! いいねぇ、その根性!! だがよォ——」
「もうお前にゃ勝ち目はねェんだよ!!」
そう言い放ち、タロスは拳を振りかぶる。
——ドゴォッ!!
ミィシャの腹に、タロスの巨大な拳が叩き込まれる。
「が……ッ!!」
衝撃で空中に跳ね上げられ、そのまま壁へと叩きつけられる。
石片が飛び散り、部屋全体が揺れた。
「……ぐっ……はっ……!!」
口の端から血が滴る。
それでも、ミィシャは何とか意識を手放すまいと踏みとどまる。
だが——
「……おやァ?」
タロスが、ミィシャの顔をじっと見つめる。
「……へへっ、見ちまったぜェ。」
ミィシャは、何が起こったのかすぐに理解した。
(……眼帯が……!)
視界の隅に、千切れた眼帯の切れ端が映る。
右目が露わになっていた。
——焼け爛《ただ》れたような醜い傷跡が。
「……おいおい。」
タロスが、にやりと嗤う。
「なんだそのツラ……!?」
「うわぁ……醜ぃなァ。」
その一言が、ミィシャの心を凍らせた。
「お前、そんな顔して生きてんのかよォ?」
タロスは嗤いながら、一歩踏み出す。
「そりゃあ女にしちゃ随分と強ェけどよォ……」
ミィシャの頭の奥で、何かが軋んだ。
「女としては、もう終わってんじゃねェのかァ?」
その瞬間——
バキンッ!!
ミィシャの意識の奥で、何かが砕ける音がした。
——「女のくせに、戦うからそんな傷負うんだよ」
——「お前なんか誰も愛さねぇよ」
——「獣人のくせに、女のくせに、強くても無駄だってわかんねぇのか?」
ミィシャの視界が揺れる。
(……やめろ……!)
(やめろ、やめろ、やめろ!!)
タロスの嗤い声が、過去の記憶と混ざり合う。
「ははっ、いいぜェ! その醜いツラ、最後に拝んでやるよォ!」
タロスの戦斧が、ゆっくりと振り上げられる。
ミィシャは、全身が強張るのを感じた。
視界が僅かに涙で滲む。
(……動け……!)
頭の中で何度も命令する。
(動け、立て……!!)
だが、体は言うことを聞かなかった。
タロスの巨大な戦斧が、容赦なく振り下ろされる。
「——終われェ!!」
タロスの巨斧が振り下ろされる。
鋭い刃が空を裂き、凄まじい殺意を孕んでミィシャを襲う。
眼前には死の影。
(……ダメだ。)
体は動かない。
意識はあるのに、全身が鉛のように重い。
(動け……!)
頭の中で必死に叫ぶ。
それでも、脚は微塵も動かない。
(立て……!!)
息が詰まる。
死の予感が全身を貫き、心臓が悲鳴を上げる。
タロスの顔は笑っていた。
「ハハッ——」
——その瞬間。
閃光が走った。
「——ッ!?」
轟音。
刹那、銀色の軌跡が閃き、タロスの巨斧が弾かれる。
ガキィンッ!!
遺跡の広間に、甲高い金属音が響き渡った。
振り下ろされたはずの戦斧は、予想外の力によってその軌道を逸らされていた。
「……は?」
タロスの笑みが、疑問へと変わる。
信じられない、とでも言いたげな表情。
その視線の先——
ミィシャもまた、呆然としていた。
何が起こったのかわからない。
死を覚悟していた。
斧の刃が、自分を真っ二つにする未来しか見えなかった。
なのに——
そこにいたのは、金色の髪をなびかせた剣士。
輝く騎士の鎧を纏い、長剣を握る男が、静かに剣を構えていた。
——"剣聖"カリム・ヴェルトール。
アルセイア王国最強の剣士が、戦場に舞い降りた瞬間だった。
「……さて、選手交代の時間だ。」
ミィシャの拳が、タロスの腹に炸裂する。
だが、響いたのは肉を打つ音ではなく、鈍い金属音。
拳を当てた瞬間、衝撃がそのまま自分の手に跳ね返る。
「チッ……にゃんだコレ……!」
思わず手を振るが、タロスの身体は微動だにしていない。
ミィシャは鋭い目でタロスを睨みながら、一瞬で状況を整理する。
(……やっぱり本物の鎧じゃねぇ。こいつの皮膚そのものが鋼鉄になってる……!)
タロスの全身は漆黒に光る装甲のように覆われていた。
“鉄血核“の力。
魔王軍が誇る未知の魔道具が、魔力を鋼鉄へと変換し、タロスの肉体を完全な装甲と化している。
タロスはニヤリと嗤った。
「ガハハハハ!! どうしたァ、子猫ちゃんよォ!
オレ様の体は、ちょいとやそっとの攻撃じゃ傷一つつかねェぜ?」
「…………チッ!!」
ミィシャは舌打ちし、すぐに間合いを取る。
(だったら、スピードと急所狙いで……!)
次の瞬間、地面を蹴ると同時に空気を裂くように跳ぶ。
獣人の超人的な脚力を活かした、低空からの超高速接近。
そのまま、タロスの顎を狙い、回し蹴りを放つ!
——ガツンッ!!
(……ッ!?)
蹴りが直撃する。
だが、タロスはびくともしない。
むしろ——
「おっとォ、そいつはいただきだァ!!」
タロスは蹴り脚をそのまま掴んだ。
「——っ!!?」
ミィシャの瞳が見開かれる。
(……ヤバッ!!)
次の瞬間。
タロスの太い腕が、まるで玩具でも扱うようにミィシャの身体を宙へと放り上げた。
「なっ……!?」
重力が消えたかのような浮遊感。
タロスはニヤニヤと嗤いながら、戦斧を振り上げる。
「逃げるんじゃねぇぞォ!!」
地面が砕けるほどの衝撃。
ギリギリのタイミングでミィシャは体勢を整え、着地する。
だが——
タロスの猛攻は止まらない。
「そらァ!!」
タロスが再び戦斧を振り下ろす。
轟音。
その一撃が地面を砕き、石片が四方に飛び散る。
ミィシャは素早く横に飛び、間一髪で回避する。
(ヤバい……! このままじゃ押しつぶされる……!)
ミィシャは冷や汗を滲ませながら、広間の構造を頭の中で再確認する。
この部屋には、大きな柱も遮蔽物もない。
ただの広い戦場だ。
つまり——
(こっちは逃げる場所がねぇのに、アイツの攻撃範囲は広すぎる!!)
逃げ場がない。
そう思った瞬間、タロスが再び斧を振り上げた。
「テメェみてぇなチョロチョロした子猫ちゃんはなァ……こうやって潰すんだよォ!!」
ミィシャの心臓が跳ねる。
(ッツ……速い!!)
ギリギリの距離。
攻撃範囲外へは逃げられない。
なら——
(やるしかねぇ!!)
ミィシャは全力で前方へ飛び込む。
戦斧の攻撃が終わる瞬間を狙い、その隙を突く!
タロスの懐に潜り込み、低空から拳を突き上げる!
「——喰らえッ!!」
拳がタロスの顎へ直撃する!
だが。
「……ヘッ。」
タロスの嗤う声が聞こえた。
「いいねぇ、その気概よォ!!」
ミィシャの拳を受けたタロスは、少しも後退していなかった。
むしろ、笑みを深め、ミィシャの腕をガッチリと掴んだ。
「けどよォ——それじゃ俺様は倒せねェんだよ!!」
ミィシャの身体が、再び宙に浮かぶ。
「さァて、そろそろ寝んねの時間だぜェ!!」
次の瞬間、ミィシャの身体が頭上高く持ち上げられた。
(……ヤバい……!!)
ミィシャは必死に抵抗するが、タロスの力は圧倒的だった。
ミィシャの小さな体を片手で持ち上げたまま——
タロスはそのまま地面に向かって全力で叩きつけた。
ドガァァァァン!!!
床が砕ける。
粉塵が舞い、激しい衝撃波が広間を揺るがした。
「……ッ!!」
衝撃が背骨に直撃し、肺から息が漏れる。
全身に鈍い痛みが広がり、意識が一瞬飛びかけた。
(クソ……ッ! 体が……動かねぇ……!!)
「へへへ……どうしたァ? もう動けねぇのかよォ?」
タロスが上から見下ろしていた。
ミィシャは地面に伏したまま、歯を食いしばる。
(……負けられねぇ……!)
必死に身体を起こそうとするが、痛みが走る。
それでも。
それでも——
ミィシャは歯を食いしばりながら、立ち上がろうとした。
「——チッ……あたしを……舐めんな……!」
しかし、その刹那——。
タロスの鉄の拳が、ミィシャの腹部へと叩き込まれる。
——ズドンッ!!!
ミィシャの視界が、一瞬で暗転した。
意識が揺らぐ。
呼吸が浅くなる。
その瞬間——
バサッ……
ミィシャの眼帯が千切れた。
右目の傷跡が、広間の光に晒される。
「……チッ……クソッ……!!」
ミィシャは呻きながら、ゆっくりと身を起こした。
だが、すぐに全身を激痛が襲う。
意識が霞む。
息をするたびに肺の奥がズキズキと痛む。
(マズい……! 体が、思うように動かねぇ……!)
目の前には、巨体の魔族——血鉄のタロスが仁王立ちしている。
「ははっ、さっきまでの勢いはどうしたァ?」
タロスは愉快そうに笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。
「お前、戦うのが得意なんじゃねぇのかァ? どうした、もう終わりかァ?」
「……っ……まだ……ッ!!」
ミィシャは歯を食いしばり、膝をつきながら立ち上がろうとする。
だが、思うように力が入らない。
タロスは大げさに肩をすくめ、失笑する。
「ガハハハ!! いいねぇ、その根性!! だがよォ——」
「もうお前にゃ勝ち目はねェんだよ!!」
そう言い放ち、タロスは拳を振りかぶる。
——ドゴォッ!!
ミィシャの腹に、タロスの巨大な拳が叩き込まれる。
「が……ッ!!」
衝撃で空中に跳ね上げられ、そのまま壁へと叩きつけられる。
石片が飛び散り、部屋全体が揺れた。
「……ぐっ……はっ……!!」
口の端から血が滴る。
それでも、ミィシャは何とか意識を手放すまいと踏みとどまる。
だが——
「……おやァ?」
タロスが、ミィシャの顔をじっと見つめる。
「……へへっ、見ちまったぜェ。」
ミィシャは、何が起こったのかすぐに理解した。
(……眼帯が……!)
視界の隅に、千切れた眼帯の切れ端が映る。
右目が露わになっていた。
——焼け爛《ただ》れたような醜い傷跡が。
「……おいおい。」
タロスが、にやりと嗤う。
「なんだそのツラ……!?」
「うわぁ……醜ぃなァ。」
その一言が、ミィシャの心を凍らせた。
「お前、そんな顔して生きてんのかよォ?」
タロスは嗤いながら、一歩踏み出す。
「そりゃあ女にしちゃ随分と強ェけどよォ……」
ミィシャの頭の奥で、何かが軋んだ。
「女としては、もう終わってんじゃねェのかァ?」
その瞬間——
バキンッ!!
ミィシャの意識の奥で、何かが砕ける音がした。
——「女のくせに、戦うからそんな傷負うんだよ」
——「お前なんか誰も愛さねぇよ」
——「獣人のくせに、女のくせに、強くても無駄だってわかんねぇのか?」
ミィシャの視界が揺れる。
(……やめろ……!)
(やめろ、やめろ、やめろ!!)
タロスの嗤い声が、過去の記憶と混ざり合う。
「ははっ、いいぜェ! その醜いツラ、最後に拝んでやるよォ!」
タロスの戦斧が、ゆっくりと振り上げられる。
ミィシャは、全身が強張るのを感じた。
視界が僅かに涙で滲む。
(……動け……!)
頭の中で何度も命令する。
(動け、立て……!!)
だが、体は言うことを聞かなかった。
タロスの巨大な戦斧が、容赦なく振り下ろされる。
「——終われェ!!」
タロスの巨斧が振り下ろされる。
鋭い刃が空を裂き、凄まじい殺意を孕んでミィシャを襲う。
眼前には死の影。
(……ダメだ。)
体は動かない。
意識はあるのに、全身が鉛のように重い。
(動け……!)
頭の中で必死に叫ぶ。
それでも、脚は微塵も動かない。
(立て……!!)
息が詰まる。
死の予感が全身を貫き、心臓が悲鳴を上げる。
タロスの顔は笑っていた。
「ハハッ——」
——その瞬間。
閃光が走った。
「——ッ!?」
轟音。
刹那、銀色の軌跡が閃き、タロスの巨斧が弾かれる。
ガキィンッ!!
遺跡の広間に、甲高い金属音が響き渡った。
振り下ろされたはずの戦斧は、予想外の力によってその軌道を逸らされていた。
「……は?」
タロスの笑みが、疑問へと変わる。
信じられない、とでも言いたげな表情。
その視線の先——
ミィシャもまた、呆然としていた。
何が起こったのかわからない。
死を覚悟していた。
斧の刃が、自分を真っ二つにする未来しか見えなかった。
なのに——
そこにいたのは、金色の髪をなびかせた剣士。
輝く騎士の鎧を纏い、長剣を握る男が、静かに剣を構えていた。
——"剣聖"カリム・ヴェルトール。
アルセイア王国最強の剣士が、戦場に舞い降りた瞬間だった。
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