科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第135話 鍛錬の先へ(前編)——交錯する剣と魔法と科学

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  ——大気を裂く咆哮が響いた。

 それは雷鳴にも似た轟音。
 鼓膜を震わせ、空気すらも重く圧し潰すかのような獣の咆哮だった。

 王都アルセイアの外れ、魔王軍の奇襲。
 黒煙が立ち上り、破壊された建物の瓦礫が散乱している。

 兵士たちは盾を構えながら後退し、必死に陣形を立て直していた。

 だが、次の瞬間——

 空を裂く漆黒の影が、都市の防壁をかすめながら急降下した。

 巨大な双翼を広げ、全身を漆黒の鱗に覆われた魔獣——"黒竜《ブラックドラゴン》"。

 獰猛な黄金の瞳が、眼下の都市を見下ろし、喉奥から禍々しい赤熱の光を放ち始める。

 ——竜の息吹ドラゴンブレスが解き放たれる。

 地獄の業火が都市を焼き尽くす、その瞬間——


 「“雷光細剣《ヴォルト・レイピア》”!!」


 空間が、閃光に染まった。

 雷の刃が大気を裂き、流星のように黒竜へと降り注ぐ。
 雷撃は竜の喉元に突き刺さり、その身を痺れさせた。

 次の瞬間——

 「舞いなさい!"妖精蝶《スプリガン・フライ》"!」

 リディアの背中から放たれた四羽の妖精蝶が、音もなく宙を舞った。

 そのうちの紅蝶が、竜の両翼へ向かって高速で滑空し、灼熱の魔炎を解き放つ!

 翼が焼かれ、竜の飛行バランスが狂う。
 重力に引かれ、黒竜はもがきながら落下していった。

 「カリム!足場を作るぞ!」

 ロドリゲスの手が大地に触れた瞬間——

 土の柱が隆起し、黒竜の落下地点へと一直線に伸びる。
 カリムは即座に理解し、その足場へ向かって疾走した。

 「承知!」

 彼は駆け抜けると同時に、蒼く輝く長剣を逆手に構える。
 竜が悲鳴を上げながら降下する、その刹那——

 「蒼閃刃《アズールフラッシュ》!!」

 青い閃光が、戦場を駆け抜けた。

 次の瞬間、黒竜の喉元から鮮血が迸り、その首が宙を舞う。

 そのまま、巨大な魔獣は沈黙し、大地へと崩れ落ちた。

 戦場には——

 ただ、死を迎えた竜の残骸が横たわるだけだった。


 炎がくすぶる戦場。

 王国兵たちは息を呑み、剣を握る手を震わせながら、四人の戦士を見つめていた。


 ——たった四人が、戦局をひっくり返した。


 九条迅、リディア・アークライト、カリム・ヴェルトール、ロドリゲス・ヴァルディオス。

 アルセイア王国が誇る、王命独行の四人。

 いや、彼らが戦場に現れる時、もはや「戦い」など成り立たなくなる。



「……よし、終わり終わり。」

 迅が軽く息を吐きながら、指先を振るい、残滓の電撃を散らした。

「……最近の魔王軍は、攻撃の回数だけは増えているけれど、質は落ちている気がするわね」

 リディアが腰に手を当てながら呟いた。
 妖精蝶《スプリガン・フライ》は彼女の肩に止まり、静かに魔力を収束させていく。

「うむ。だが、被害が小さく済んで何よりだ。」

 カリムが剣を鞘へと収め、冷静な目で辺りを見渡す。
 この1ヶ月——彼らは確実に強くなっていた。

 敵が「強い」ことは強かった。
 しかし、それ以上に、迅たちの成長速度が桁違いだった。


「やれやれ……魔王軍の本拠地さえ分かれば、こちらからも攻勢に出れるかも知れんのじゃが。」

 ロドリゲスが白髪をかき上げながら、ため息混じりに呟いた。

 魔王軍の拠点——それは、未だ詳細が掴めていない《暗黒大陸》。
 世界の果てに存在するとされる、未踏の地。

「……どうやら、奴らも我らを試しているようじゃな」

 戦場の静寂を破るように、ロドリゲスが呟いた。

「試している?」

 迅が眉をひそめる。

「む。ここ最近の戦闘——敵が本気で攻め込もうとしておる気配はない。むしろ、こちらの実力を計るような……そんな戦法じゃ」

「……確かに」

 迅は思考を巡らせる。

 魔王軍の動きが、確実に変化している。

 単なる襲撃ではなく、まるで迅たちの「対応力」を見極めようとしているかのような動き。
 この1ヶ月、迅たちはことごとく敵の策を打ち破ってきた。

 だからこそ、魔王軍はより慎重に、より巧妙に動き出しているのかもしれない——。

「……ま、考えても仕方ねぇか」

 迅は肩をすくめた。

 今はまだ、「待つ」しかない。

 魔王軍が本格的に動く時までに、もっと強くなる必要がある。

 ——そう、迅は戦いを「学び始めた」。



 ◇◆◇



 王宮の訓練場。

 剣戟の音も、魔法の爆音もない静寂な空間。

 ただ、二人の魔法士が向かい合い、静かに対峙していた。

 九条迅とリディア・アークライト。

 彼らの周囲には魔力の気配が満ち、まるで空気が張り詰めているかのようだった。

 訓練場の端にはロドリゲスをはじめ、騎士団の魔法士ガルツ、ビネット、エドガーらが見守っている。

 彼らは息を潜め、二人の戦いを目に焼き付けようとしていた。


 ——通称『魔力将棋』。


 それは、迅が考案した特殊な訓練方法。

 双方が魔力干渉領域マナ・ドミネーションを展開し、相手の魔法構築を瞬時に察知し、打ち消す。

 相手に魔法を完成させてしまったら負け——つまり、一瞬の判断と精密な魔力制御が問われる。

 詠唱も構えも不要。
 完全なる魔法の知覚と瞬時の対応が、勝敗を分ける。

 「——始めるぞ」

 迅が短く告げると、両者の周囲に淡い魔力の波紋が広がる。

 魔力干渉領域、展開。

 周囲の空気が一変した。

 戦場に漂う魔素が、目に見えぬ波となってうねり、ぶつかり合う。
 まるで、静かな水面に落ちた二つの石が波紋を重ね合うように——
 二人の魔力が干渉し、せめぎ合う。

 (……さて、どっちが先に動くか)

 迅は、余裕の笑みを浮かべながらも、集中を切らさない。
 このゲームは、攻めと守りのバランスが肝心。
 迂闊に仕掛ければ、相手に読まれてカウンターを食らう。

 「……ふふ、私からいくわよ」

 リディアの唇が動いた、その瞬間——

 視えた。

 魔素の流れが変化し、リディアの魔力が収束し始める。
 迅の脳内に、彼女の狙いが瞬時に浮かび上がる。

 (これは……"雷撃槍《ライトニング・スピア》"か!?)

 鋭い魔力の形。電撃の高出力。
 それは、迅自身が得意とする魔法の一つだった。

 だが——

 「フェイクかよ!」

 迅は即座に反応する。

 雷撃槍《ライトニング・スピア》の波長を無効化しようとした刹那、リディアの魔力が別の方向へと分岐した。

 目の前の雷撃槍はダミー、本命は——極小の氷の刃!

 「くっ……!」

 迅が干渉波をぶつけようとするが——僅かに遅れた。
 "極小氷刃アイス・ダート"が生成され、空間に浮かぶ。

 「私の勝ちね」

 リディアが優雅に微笑む。

 一瞬の隙——それが勝敗を分けた。



 「またリディア様の勝ちか……」

 エドガーが呆然と呟く。

 「すげぇ……勇者様の動きを完全に読んでた……」

 ビネットが息をのむ。

 ガルツは無言で腕を組み、二人の魔力干渉戦を目の当たりにしていた。

 彼ら三人は、かつて迅との模擬戦で敗北し、以降修行を重ねていた。

 そして今では「魔力収束砲」の精度を高め、騎士団でも高い評価を得るまでに成長していた。

 ——だが、それでも。

 「……あの二人は次元が違う……!」

 ガルツが、震える声で呟く。



 「くっそおおぉ……俺が考えたゲームなのに……!」

 迅は頭を抱え、本気で悔しがる。

 リディアは、涼しげな笑みを浮かべながら、勝ち誇ったように髪をかき上げる。

 「貴方が考えたゲームでも、魔法勝負なら私が勝つのは当然よ」

 「ぐっ……! いや、でもこれ僅差だったよな!? ほぼ互角じゃね!?」

 「いいえ、“11勝9敗” で私の勝ち越しよ?」

 「ちくしょう……!」

 迅は地面に拳を叩きつけるほど本気で悔しがる。

 だが、リディアもまた、心の中で安堵していた。

 (危なかった……)

 ギリギリだった。
 ほんの少しでも魔力干渉が遅れていたら、逆に迅のカウンターで敗北していたかもしれない。

 だが、ここで焦った様子を見せるわけにはいかない。
 彼女はあくまで、「余裕の勝利」 を演じる。

 「魔法なら、まだまだ貴方にも負けないわよ?」

 そう言いながら、リディアは勝ち誇った笑みを浮かべた。


その様子を見ていたカリムが、一歩前に出る。

 「さて、勇者殿。次は私の番だな」

 彼は剣を手にし、迅の前へと歩み寄る。

 魔法の次は——剣術の戦い。

 リディアはゆっくりと後退し、迅が新たな戦闘へ移るのを見届ける。

 (魔法では私がリードしてるけど……剣術はカリムの独壇場、かしら)

 静かな訓練場に、新たな熱気が宿る。

 騎士団の面々もざわめき始めた。

 「次はカリム様と迅様の組み手か……!」
 「これは……凄い戦いになりそうだ……!」

 剣の気配が高まり、緊張感が増していく。

 こうして、「剣士 vs. 剣士」 の戦いが幕を開けようとしていた——。
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