科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
137 / 151

第138話 喜びの城下町、そして再会

しおりを挟む
 ノーザリア王国。北方の海に面した剣の国。

 その正門は、かつて数多の戦を退けてきた堅牢な石造りで構えられていた。防壁には幾重もの魔法障壁が仕込まれ、門の両脇には衛兵が二人ずつ、槍を携えて厳めしい表情で立っている。

 「随分と厳重だな……」

 馬車の窓から顔を覗かせた迅が、門の装飾を見上げて呟く。

 「ノーザリアは外敵からの侵攻が多い。特に海路からの魔王軍の襲撃には幾度も晒されてきた。無理もない」

 ロドリゲスが手綱を引きながら、当然といった面持ちで答える。

 門前に到着すると、馬車は一旦停止し、衛兵の一人が近づいてくる。

 「身分証の提示を願う」

 「アルセイア王国より、公式招待を受けた一行じゃ。書状を見せよう」

 ロドリゲスが懐から王印の封蝋がついた書簡を差し出すと、衛兵の目が一瞬だけ見開かれた。

 「……九条迅殿、リディア・アークライト殿、カリム・ヴェルトール殿、ロドリゲス・ヴァルディオス殿……間違いありません。ご到着をお待ちしておりました」

 衛兵の態度が一変し、整然と門兵たちが敬礼を送る。

 「ようこそ、ノーザリアへ」

 迅は少し照れ臭そうに頭を掻きながら、

 「なんか……王族になった気分だな」

 「ふふ、ま、特別枠の選手だから当然よ」

 リディアが涼やかな笑みを浮かべた。

 「それよりも、ノーザリアの城下町——そちらの方が見ものだぞ、勇者殿」

 カリムの言葉に、迅の視線が自然と前へと向く。

 大きな正門が音を立てて開かれ、その先に——異国の景色が広がった。


 「……うお、すげぇ」

 思わず、声が漏れた。

 「前に王宮に招待された時は、軍用通路を通って直通だったからなぁ。城下町はこんな感じだったのか…!」

 広がるのは、石造りの白い建物と、朱色の屋根瓦。
 曲がりくねった小道が波打つように連なり、ところどころに海を模した青い陶板が敷き詰められている。

 市場から漂ってくるのは、焼き貝や干し魚、香辛料の強い香り。
 波の音は遠くにあるはずなのに、どこか耳の奥で響いてくるような——そんな感覚があった。

 「スペイン……ミハスっぽいな。つーか、ディ◯ニー◯ーみてぇだ。」

 ぼそりと呟いた言葉に、リディアが怪訝そうな顔をする。

 「また、迅の世界の地域の名前? 迅の故郷に似た国も、この世界のどこかにあるのかしら」

 「あー…あるとすれば、東の方角だな」

 迅の言葉に、カリムが言い添える。

 「ノーザリアは海との関わりが深い国だ。異国の交易も多く、異種族との共存が進んでいる。ほら——あそこを見てみろ」

 指さされた先には、露店で貝殻の細工品を売っている獣人の商人がいた。
 その横を耳長族——エルフと思しき女性が、籠を抱えて通り過ぎていく。

 「……ほんとに、いろんな種族が混ざってるな。お祭りみてぇだ」

 祭りのように立ち並ぶ屋台の間を、陽気な楽団が横切る。
 トゥン、タタンと軽快なリズムが街の空気を彩り、子供たちの笑い声がどこからともなく響く。

 「ノーザリアは、この数年でようやく活気を取り戻してきたのじゃ。十年前の“大進行”で受けた傷は、深かったゆえに……」

 ロドリゲスの言葉に、ふと皆の足が止まった。

 「……犠牲は出ちまったが、カーディス達の進行も食い止められてよかったな。」

 「……そうね。」

 リディアは道ゆく人々の表情に視線を向け、目を細める。
 その沈黙は、すぐに城下の活気にかき消された。

 「でも、今は笑顔が溢れてるわね。」

 リディアが小さく笑う。

 「いいね。こういう雰囲気は嫌いじゃねぇよ」

 迅も薄く笑い、前を見据えた目で呟いた。

 四人を乗せた馬車は、賑わいの中をゆっくりと進んでいく。

 
 
 ◇◆◇



 城下町を進むうち、人混みの中から一人の兵士が現れた。

 燻銀の胸当てに王家の紋章——ノーザリアの双剣と波の意匠を刻んだ紋章が煌めいている。

「お待ちしておりました、アルセイア王国の勇者殿とその御一行ですね?」

 兵士は膝を折り、礼節を尽くす。

 ロドリゲスが軽く杖を鳴らして応じた。

「うむ、間違いない。我らが勇者、九条迅殿にして、共に戦う剣士カリム・ヴェルトール、魔法士リディア・アークライト。……そして、わし、ロドリゲスじゃな。護衛と補佐を務めておる」

「御案内いたします。武闘大会の出場者のために、王宮より最上級の宿をご用意しております」

「……“最上級”だって?」

 迅は肩をすくめ、リディアと顔を見合わせた。

「随分と大盤振る舞いじゃねぇの。試合前に英気を養えっていう粋な計らいってやつか!」

「ふふ、」

 街の喧騒を抜け、兵士の先導で進んだ先に見えたのは——

 白壁に青瓦、荘厳な門構えをした建築。

 窓はステンドグラスで彩られ、正面には噴水庭園。そこから伸びる石畳が、まるで王宮へと続く道のように整っている。

「……なんか、すげぇぞ」

 立ち止まった迅が目を丸くした。

 「ここが、“選手宿泊用のホテル”です。王族が使用する離宮を改装した建物でして……」

「離宮を……ホテルに?」

 リディアも思わず息を呑む。

 その姿は、どこかの夢の国の高級ホテルのようで——

(……ミ◯コスタみてぇだ……行ったことねぇけど)

 迅の頭に、そんな感想が過ぎった。



 ロビーに足を踏み入れた瞬間、まるで空気が変わった。

 煌びやかなシャンデリアが天井から下がり、紅絨毯が足元を飾る。
 調度品の一つ一つが洗練されており、そこに漂う香りすらも上品だった。

「うわ……この空間、魔力濃度が違う……」

 リディアがそっと指を伸ばすと、空気が微かに揺れ、彼女の魔力に反応する。

「ほう、よく気づいたな。ここは結界術で環境魔力を整えてある。試合前に万全の体調で臨めるよう、王宮の魔導士が常駐しておるらしい」

 ロドリゲスが感心したように頷く。

 フロントで手続きをしているロドリゲスを横目に、迅はふとロビーの一角に視線を向けた。

 そこに——異質な気配があった。

 目に映ったのは、一人の剣士。

 黒と白の混じった袴に、鋭い目つき。
 腰に差された刀は、鞘から少しも出ていないというのに、研ぎ澄まされた殺気が周囲を圧倒している。

「……侍……?」

 小さく呟いた迅の声に、リディアが振り向いた。

「侍? それって、あなたの故郷の戦士のことよね?」

「ああ。オレの世界で、ずっと昔に存在した剣士の一種。……なんでここに?」

 カリムがそれを見て、腕を組む。

「恐らく“アカツキ”の者だ。東の果てに浮かぶ島国、我がノーザリアでも稀にしか名を聞かぬ。だが……あの構え、ただ者ではないな」

(……アカツキ、ねぇ。日本じゃねぇのか、それ?)

 迅は心の中で呟く。

 この世界に、明らかに“自分の知っている何か”の影が残っている。

 やはり、この世界は——

「ん?」

 その時、突然響いた足音。

「カーリームーっ!!」

 猫のような声と共に、ロビーを駆け抜ける影が一つ。

 白と黒の尻尾を揺らしながら、猫獣人の少女が一直線にカリムへ飛び込んだ。

 「うにゃあっ!」

 見事な飛びつき。

 ……だが。

 「……」

 カリムは一歩も動かず、無表情でそれを受け止める。

「うむ、ミィシャ殿。息災そうで何よりだ。」

「ああ!久しぶりだな!」

 ミィシャ・フェルカス。男顔負けの拳闘士な猫獣人の冒険者。
 かつて共に戦った仲間であり、白銀級冒険者“銀嶺の誓い”の一員。

「……やれやれ、まったく騒がしい奴だな」

 優雅な足取りで現れたのは、紅の鎧を身に纏った女剣士。

 「およそ一ヶ月ぶりですわね、迅様」

 エリナ・ヴァイスハルトが、涼やかな笑みを浮かべて近づいてくる。

「久しぶりだな。元気か? エリナ」

 迅も自然に口元を緩め、肩をすくめる。

 そしてもう一人。

 やや遅れて姿を見せたのは、青いローブに身を包んだ氷の魔法士。

 ライネル・フロスト。
 眼鏡の奥のその静かな眼差しは、相変わらず澄んでいて——

 だが、どこか穏やかな光を宿していた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...