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五病目「推し」
五病目「推し」
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ああ、楽しいな
僕は自然とニヤけてしまう自分を隠そうともせずウィスキーを一口飲んだ。今日は年に数回気が向いた時にだけ飲みに行くオタク仲間の女性と都内で遊んでいるわけだ。居酒屋のテーブルの向かい側には小柄で年齢不詳な茶髪でショートヘアの女性がビールをジョッキで飲んでいる。彼女はツバキさんという腐女子で数年前にネットでオタク友達として仲良くなった。僕もアニメが好きだしなんなら腐男子でもある。お互い恋愛感情なんてない、僕達はいわゆる『3次元に興味無い』と言うタイプのオタクだからだ。彼女の名前『ツバキ』も本名ではない。ただのSNSのアカウント名だ。前に本名聞いたような気がするけど覚えていない。呼ぶ時に困らなければ相手の呼び方なんてなんでもいい。ふと考えたことがある。変な話、仮にツバキさんが亡くなったとしてもきっと僕は少しも悲しまないし葬式すら行かないと思う。でもツバキさんと話すのは楽しいよ。それは本心。でもそれはツバキさんも同じなのかなと思う。僕の訃報を知ったら少しは悲しんでくれると思うけど、きっと葬式には来ない。我ながら彼女を都合よく利用してるクソ野郎だなと思っている。ここで彼女の為でもあると言い訳をしてみる。仮に僕が彼女に生い立ち等を話してどうなる?何か変わるのか?彼女からしてみればそんな重い話されても反応に困るだろう。ならお互いここは『飲んだり食べたりオタ話する楽しい場』にした方が有意義だろう。『この場で楽しい思いが出来る』というメリットがあるのだから。
「...リリヤちゃん」
ツバキさんが引き気味に僕の『名前』を口にする。『リリヤ』は僕のアカウント名だ。ただ名前をカタカナにしただけだけど。
「ん?なんですかツバキさん?」
僕がニヘニヘ笑っているとツバキさんが僕を変なものを見るような目で見てくる。まぁ、実際変なんだけどな。
「いや、なんか嬉しそうだなって...」
普段ならあまりプライベートなことは言わないようにしているが気分がいいのでつい言いたくなってしまった。
「ああ、僕恋人が出来たんです」
「ええ!?」
僕が突然の告白をするとツバキさんがテーブルをガタリと音を立てて驚いている。
しかしすぐに悪戯っぽく笑う。
「...って、どうせ新しいアニメキャラの推しが出来たって話しでしょ?前にもリリヤちゃんアニメキャラに似たようなこと言ってたじゃんw」
「アニメキャラじゃないですよー」
僕は今『恋バナ』というやつをしているのか。一生することなんかないと思っていたが...
「ならその恋人の写真見せてよー?」
ツバキさんが面白がるようにテーブルに肩肘をついて僕に写真の提示を促す。
「いいですよ、ちょっと待って下さい」
僕はケータイを取り出すと画像フォルダを漁った。フォルダ内にはスクショや僕が以前描いた絵のデータ等もごちゃ混ぜに入っていて探すのに苦労した。今度フォルダ内を整理しないとな。
そうしていると螺燈の写真データを見つけた。僕はそれを得意気にツバキさんに見せる。
「ほら、この人ですよ」
............
ん?何だこの間は?
ツバキさんが驚いているぞ?やはり恋人が男なのは腐女子のツバキさんにも衝撃的だったかな。何故かこそばゆい感覚とこの場の空気を拭う為に僕は笑ってみせる。
「な、なんか恥ずかしいなぁ...」
ツバキさんは俯いている。どうしたのだろう、まさか知り合いだったとかか?確かにツバキさんはネット友達多い人だからな有り得ない話ではない。
「...ねぇ、リリヤちゃん」
ツバキさんはまだ俯いたままだ。
「その画像のひと... 本当はただの推しかなんかでしょ?」
...?
ふふ...
「あはは、コイツそんなにイケメンですか?別にアイドルでも何でもないですよ?ただの一般じんです」
僕は左手の薬指にはめられた指輪を見せる。
「それにほら、僕達婚約したんですよ」
「僕アニメキャラ以外は好きにならないと思ってたんですけどね~」
今僕はとても上機嫌に話している、と思う。
僕は今幸せなんだ。これから螺燈と何しようかな?あ、来年の夏になったら螺燈と虫を見に公園に行こう。幼少期の頃は田舎の方に住んでたから家族みんなで近くの草原でよく虫取りしたんだよ。あと格闘ゲームで対戦もしたい。螺燈はゲーム興味あるかな?あとは、あとは...
「ねぇリリヤちゃん」
これから楽しいことを色々しようと考えていたらツバキさんが落ち着いたトーンで声を掛けてきた。
「私はどんなリリヤちゃんでも、友達だと思ってるからね?」
...??
「あ、はい、ありがとうございます...?」
どうしたんだろう... 自慢厨ウザいと思われたのかな。やはりプライベートなことは人に話すべきではなかったか。次からは螺燈のことはツバキさんの前で話さなければいいよな。ツバキさんには悪いことをしてしまった。確かに人の恋人自慢なんか聞きたくないよな。
「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
ツバキさんが伝票を持って席を立ったので僕も慌てて財布を持って後を追う。
ーーーーーーーー
居酒屋から出ると外はもう真っ暗で肌寒い。嫌な季節がそろそろやって来るな、ふとその事が頭を過ぎる。
「ちょっと飲み過ぎましたかねー」
酒に強い僕は飲んでも悪酔いや記憶が無くなったりはしないのだが飲むと少し口が軽くなる。あまり褒められたものではないと思う。
駅構内でツバキさんに別れの挨拶をする。帰る方向が別なのだ。
「それじゃあツバキさん、また今度はカラオケにでも行きましょう」
僕は笑顔でじゃあと手を振る。するとツバキさんは深刻そうな面持ちで僕を真っ直ぐ見てきた。
「ねぇ、リリヤちゃん。私また『リリヤちゃん』に会えるよね?」
ん?何言ってんだろう。あ、もしかして僕が恋人出来たことによって友達より恋人優先する様な人間に変わってしまうのを恐れているのか。よくある話だもんな。
「もちろんですよ、お金ある時はまたお声掛けしますから遊びましょうよ。それじゃあ僕は失礼します。また会いましょう」
改札を通り安住の地へと帰る。都内はツバキさんと遊ぶためにしか来ない。アニメショップすら行かない。疲れるんだ、何もかも。最後に秋葉原へ行ったのは何時だろうか?...あ、19歳の時か。もう街並みは変わってしまったのだろうか。...街並みも何も秋葉原へ行ったのなんて今まで生きてて5回行ったかどうか... 最後の記憶も朧気だ。今行っても楽しめるのだろうか。来年辺りにでも螺燈と一緒に行ってみようかな。彼はきっとアニメなんか観てなさそうだけど。楽しみだな...
ーーーーーーーーーーー
多くの人が行き交うある都内の駅構内に凜々也の背中を見送るツバキの姿がまだそこにはあった。彼女の表情はどこか暗く少し焦りの様なものも見える。
「...リリヤちゃん」
彼女は好きなアニメキャラクターの痛バをギュっと抱き締め自身の家路に急いだ。
「...お願いだから、ただのリアコだと言って...」
彼女はそう小さく呟くと電車に乗り込んだ。
五病目 オワリ
僕は自然とニヤけてしまう自分を隠そうともせずウィスキーを一口飲んだ。今日は年に数回気が向いた時にだけ飲みに行くオタク仲間の女性と都内で遊んでいるわけだ。居酒屋のテーブルの向かい側には小柄で年齢不詳な茶髪でショートヘアの女性がビールをジョッキで飲んでいる。彼女はツバキさんという腐女子で数年前にネットでオタク友達として仲良くなった。僕もアニメが好きだしなんなら腐男子でもある。お互い恋愛感情なんてない、僕達はいわゆる『3次元に興味無い』と言うタイプのオタクだからだ。彼女の名前『ツバキ』も本名ではない。ただのSNSのアカウント名だ。前に本名聞いたような気がするけど覚えていない。呼ぶ時に困らなければ相手の呼び方なんてなんでもいい。ふと考えたことがある。変な話、仮にツバキさんが亡くなったとしてもきっと僕は少しも悲しまないし葬式すら行かないと思う。でもツバキさんと話すのは楽しいよ。それは本心。でもそれはツバキさんも同じなのかなと思う。僕の訃報を知ったら少しは悲しんでくれると思うけど、きっと葬式には来ない。我ながら彼女を都合よく利用してるクソ野郎だなと思っている。ここで彼女の為でもあると言い訳をしてみる。仮に僕が彼女に生い立ち等を話してどうなる?何か変わるのか?彼女からしてみればそんな重い話されても反応に困るだろう。ならお互いここは『飲んだり食べたりオタ話する楽しい場』にした方が有意義だろう。『この場で楽しい思いが出来る』というメリットがあるのだから。
「...リリヤちゃん」
ツバキさんが引き気味に僕の『名前』を口にする。『リリヤ』は僕のアカウント名だ。ただ名前をカタカナにしただけだけど。
「ん?なんですかツバキさん?」
僕がニヘニヘ笑っているとツバキさんが僕を変なものを見るような目で見てくる。まぁ、実際変なんだけどな。
「いや、なんか嬉しそうだなって...」
普段ならあまりプライベートなことは言わないようにしているが気分がいいのでつい言いたくなってしまった。
「ああ、僕恋人が出来たんです」
「ええ!?」
僕が突然の告白をするとツバキさんがテーブルをガタリと音を立てて驚いている。
しかしすぐに悪戯っぽく笑う。
「...って、どうせ新しいアニメキャラの推しが出来たって話しでしょ?前にもリリヤちゃんアニメキャラに似たようなこと言ってたじゃんw」
「アニメキャラじゃないですよー」
僕は今『恋バナ』というやつをしているのか。一生することなんかないと思っていたが...
「ならその恋人の写真見せてよー?」
ツバキさんが面白がるようにテーブルに肩肘をついて僕に写真の提示を促す。
「いいですよ、ちょっと待って下さい」
僕はケータイを取り出すと画像フォルダを漁った。フォルダ内にはスクショや僕が以前描いた絵のデータ等もごちゃ混ぜに入っていて探すのに苦労した。今度フォルダ内を整理しないとな。
そうしていると螺燈の写真データを見つけた。僕はそれを得意気にツバキさんに見せる。
「ほら、この人ですよ」
............
ん?何だこの間は?
ツバキさんが驚いているぞ?やはり恋人が男なのは腐女子のツバキさんにも衝撃的だったかな。何故かこそばゆい感覚とこの場の空気を拭う為に僕は笑ってみせる。
「な、なんか恥ずかしいなぁ...」
ツバキさんは俯いている。どうしたのだろう、まさか知り合いだったとかか?確かにツバキさんはネット友達多い人だからな有り得ない話ではない。
「...ねぇ、リリヤちゃん」
ツバキさんはまだ俯いたままだ。
「その画像のひと... 本当はただの推しかなんかでしょ?」
...?
ふふ...
「あはは、コイツそんなにイケメンですか?別にアイドルでも何でもないですよ?ただの一般じんです」
僕は左手の薬指にはめられた指輪を見せる。
「それにほら、僕達婚約したんですよ」
「僕アニメキャラ以外は好きにならないと思ってたんですけどね~」
今僕はとても上機嫌に話している、と思う。
僕は今幸せなんだ。これから螺燈と何しようかな?あ、来年の夏になったら螺燈と虫を見に公園に行こう。幼少期の頃は田舎の方に住んでたから家族みんなで近くの草原でよく虫取りしたんだよ。あと格闘ゲームで対戦もしたい。螺燈はゲーム興味あるかな?あとは、あとは...
「ねぇリリヤちゃん」
これから楽しいことを色々しようと考えていたらツバキさんが落ち着いたトーンで声を掛けてきた。
「私はどんなリリヤちゃんでも、友達だと思ってるからね?」
...??
「あ、はい、ありがとうございます...?」
どうしたんだろう... 自慢厨ウザいと思われたのかな。やはりプライベートなことは人に話すべきではなかったか。次からは螺燈のことはツバキさんの前で話さなければいいよな。ツバキさんには悪いことをしてしまった。確かに人の恋人自慢なんか聞きたくないよな。
「じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
ツバキさんが伝票を持って席を立ったので僕も慌てて財布を持って後を追う。
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居酒屋から出ると外はもう真っ暗で肌寒い。嫌な季節がそろそろやって来るな、ふとその事が頭を過ぎる。
「ちょっと飲み過ぎましたかねー」
酒に強い僕は飲んでも悪酔いや記憶が無くなったりはしないのだが飲むと少し口が軽くなる。あまり褒められたものではないと思う。
駅構内でツバキさんに別れの挨拶をする。帰る方向が別なのだ。
「それじゃあツバキさん、また今度はカラオケにでも行きましょう」
僕は笑顔でじゃあと手を振る。するとツバキさんは深刻そうな面持ちで僕を真っ直ぐ見てきた。
「ねぇ、リリヤちゃん。私また『リリヤちゃん』に会えるよね?」
ん?何言ってんだろう。あ、もしかして僕が恋人出来たことによって友達より恋人優先する様な人間に変わってしまうのを恐れているのか。よくある話だもんな。
「もちろんですよ、お金ある時はまたお声掛けしますから遊びましょうよ。それじゃあ僕は失礼します。また会いましょう」
改札を通り安住の地へと帰る。都内はツバキさんと遊ぶためにしか来ない。アニメショップすら行かない。疲れるんだ、何もかも。最後に秋葉原へ行ったのは何時だろうか?...あ、19歳の時か。もう街並みは変わってしまったのだろうか。...街並みも何も秋葉原へ行ったのなんて今まで生きてて5回行ったかどうか... 最後の記憶も朧気だ。今行っても楽しめるのだろうか。来年辺りにでも螺燈と一緒に行ってみようかな。彼はきっとアニメなんか観てなさそうだけど。楽しみだな...
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多くの人が行き交うある都内の駅構内に凜々也の背中を見送るツバキの姿がまだそこにはあった。彼女の表情はどこか暗く少し焦りの様なものも見える。
「...リリヤちゃん」
彼女は好きなアニメキャラクターの痛バをギュっと抱き締め自身の家路に急いだ。
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