僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――結―――――

10話「君への気持ちは、“恋”じゃない。」(72)

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 保健室の中に入ると、
先生も、誰もいなかった。



「いない…
 とりあえずソファー座ろうか。」

「うん。」


俺は、山中さんをソファーまで連れて行き。


冷凍庫から保冷剤を出して。

それに、引き出しに入っている
薄手のハンカチを巻いた。


「とりあえず、ちょっと借りちゃおうか。」


「あっ、ありがとう。」

手渡すと、
山中さんは足首に、それを当てる。


俺はテーブルの上の、入室記録を手に取った。


「山中さん、俺書いちゃっていい?」

「あ、うん。ありがとう。
 なんか、慣れてるね。」

「部活で怪我して、たまに来るからさ。」




 そうして、書いていると。


クスクス、小さな笑い声がした。



「どうしたの?」


「いや~。

 …もしこれが、

 私以外の

  普通 の女子だったら、


 この後友達に、
 『遠野くん、超優しいの!
  マジかっこ良かった!
  好きかも~!』
 …なーんて、言うんだろうなぁ
 って思って。」


「え?そ、それは…どうだろ…。」


「ふふっ。
 絶対そうだと思うけどなぁ。

 私は、
 遠野くんはタイプじゃないから違うけど。」


「そっか。
 …別にいいんだけど、
 そう
 ハッキリ言われると…なんか…
 くるものがあるね…。」


「あ、ごめん。
 遠野くんも、いい人なんだけど…。

 私、正直な人が、好きで。

 …上手に、
 隠しごととか、できない人が、
 いいなぁって。」




そんな声が、聞こえて、



俺は
用紙へ、顔を俯ける。






「…でもね。」




山中さんの声が、続き。






「…さっき話した、



  “普通” の女子も、



 遠野くんじゃなくて、




  “女の子” に


 同じことしてもらったら、



 きっと、


 『ありがとう』だけで

  終わるんだろうなぁ


 って、思うよ。」






そっと、囁かれた。


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