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 ―――――第5部―――――

8話「“私”だったら、良かったのに。」⑨

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 すると、

 左耳に、声が、入ってきた。










「…………“世間”だとか、

 “法律”だとか、


 ……他人の目なんて、

   …どうでも、いい。」





「…俺は、


  ……碧がいれば、それでいい。」






 どんどんと

 良太の声が、響いていく。








「……世間体を気にして、
 みんなが言うような
 『幸せ』を選んだところで、


 それは、
  …俺の“幸せ”じゃ、ない。」





「…自分に嘘をついて、
 世間が望むような生き方をしたって、

 ……そんなの、
  “生きている”なんて、言えない。」




「………俺は、もう、

  碧がいなかったら、
  …生きる意味を、失うんだ。」






 「…――俺は、
  どうしても、碧がいい!」



 「碧と、一緒にいたい!」



 「碧がいてくれるなら、

  俺は…


  …他に、何も、いらない。」







 言葉が、部屋中に伝わる中、






「……それでも、反対だって、
  言ったら?」



 おばさんの、声が、落ちて。






「…………家を、出る。」




 良太の低い声が、続く。




「…高校は……中退して。
 中卒でも働けるところ…探す。」


そう、微かな声を、
震わせ。



「……本当に
 そんなこと、できると
 思ってるの?」


おばさんが、
良太を、真っすぐに見て。



「………正直、

  ……厳しい…。」



良太が、重く、つぶやく。




「…それに、


 ………それでも俺は、


  …家族が、好きだ。」




そのまま、震える音を、紡いで。





「……疎遠になんて、
 本当は、なりたくない。


 今まで通り、
 母さんと、父さんと、桜と、
 …碧と。

 みんなで
 喋ったり、ご飯食べたり、
 ……笑ったり、したい。」




「…俺の生き方を、
 家族に、受け入れてほしい。」





良太は、
椅子を引いて、立ち上がり。




「……だから。」


言いながら、

テーブルの端の、
おじさんの座る横へと、踏み出し。



そこに、膝をつき。

頭を、下げて。




「………認めて下さい……。」




 小さな声を、床に、落とした。




















「……良太。
 顔、上げて。」


 そうして、
おばさんが、良太を見ながら、



 目を細めて、微笑む。



「……まあ。座って。」


そのまま、空になった良太の席を指さし。

良太は顔を上げて、おばさんを見て。

戸惑ったような表情を、緩めて
立ち上がり、
また、席に着いた。




「………うん。
 …良太の気持ちは、わかった。」


おばさんは、穏やかに、口を動かし、

俺を、真っすぐ、見つめる。




 「…あっくんは、どう?」




見つめられて。

息を、のみ。



 真っすぐに、目を、見つめ返す。





 「…………俺…も…

  …良太と、一緒にいたいです。」



 そのまま、
 自分の声を、ぶつけ。




「…かなり、大変だけど、いいの?」



 自分の瞳の奥まで覗いてくる、
 おばさんの目を、つかんだまま。




 「……はい。」


 ハッキリと、頷いた。









 そうすると、
おばさんは、俺の目を捕らえながら、



 口元を、緩ませる。




「……じゃあ、いいわ。」



そして、
俺と、良太の顔を、交互に見て。




 「……2人が、
   したいように、しなさい。」


 優しく、笑った。







「……さっきからずっと黙ってるけど、
 あなたは?どう思うの?」


そのまま、穏やかな表情で、
隣のおじさんに、声をかけ。


口を閉ざしていたおじさんが、


ゆっくり、口を、開いた。

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