ケメ子さんと『素直な鏡』

奥住卯月

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ケメ子さんと『素直な鏡』

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 ファッションに自信の無い、冴えないケメ子さん。ある日ホームセンターで『素直な鏡』なるものを見つけました。

「お客様、お目が高い! この鏡は『素直な鏡』と申しまして、子供のような純粋な心でお客様のファッションチェックをしてくれる、優れものの鏡なんです!」

 ケメ子さんはさして興味も無いように「ふ~ん」という感じで鏡を覗き込みました。

「はじめまして、ケメ子さん! せっかく可愛いのに、イケてない格好してるね!」

 ケメ子さんは恥ずかしさとちょっとした怒りで真っ赤っかになってしまいました。

「な、な、な、あなた、いきなり何を言うのよ!」

「あーっ! ゴメンなさい、ゴメンなさい、ついつい本音を言っちゃいました!」

 ケメ子さんはますます顔を真っ赤にして、

「もう! 失礼ね!」

「大変申し訳ございません! この鏡は本当に子供のように素直でして、忖度をしないもので! ですが、アドバイスは確かです。この続きをお聞きください!」

「ケメ子さんはね? ファンデーションをワントーン明るくして、リップをもう少し赤くすると可愛いよ!」

 ケメ子さんは首をかしげて、

「う~ん、想像がつかないわ?……」

「じゃあ、ご覧? これが変身後のケメ子さんだよ!」

 鏡の中のケメ子さんがゆらゆら揺らいだと思うと、先ほど鏡が言ったメイクをしたケメ子さんが映し出されました。

「ほーら! 可愛いでしょ?」

(可愛い……)

 ケメ子さんも見たことの無い自分に、思わずポッとなってしまいました。

「お客様、ステキです! いかがですか、この鏡のアドバイスは? お気に召されましたか?」

 ケメ子さんはその鏡を買って帰ったのでした。その日から、ケメ子さんは鏡に色々相談するようになりました。

「おはよう、ケメ子さん! 今日も地味子さんだね!」

「まあ、失礼ね! ところで鏡クン、私のファッションってどこがダメだと思う?」

「そうだなぁ。ケメ子さんのオーラカラーは緑だから、服に緑を取り入れたらどう? 例えばこんな風に」

 そこには緑の水玉模様のロングスカートを履いたケメ子さんが映ってました。

「それとね? メガネももっさりとした黒縁メガネじゃなくて、今流行りの大きめな丸メガネにしたら可愛いよ!」

「えっ? えっ? えっ? こんな格好、恥ずかしくて出来ないわ!」

「もったいないなぁ。せっかく可愛いと思ったのに……」

「でも、ありがとう。ちょっと緑には挑戦してみるわ!」

「うん! そうするといいよ!」

 ケメ子さんは『素直な鏡』に出会ってから徐々に垢抜けていき、性格も明るくなってきました。

 そんなある日――

「ねえ! ねえ! 鏡クン、聞いて! 私、告白されちゃったの!」

「ケメ子さん、スゴーイ! で、どんな人?」

「会社の取引先のキムラさん! とっても優しい人なの! これも鏡クンのお陰よ!」

「ボクは大したことはしてないよ! ケメ子さんが可愛いからだよ!」

 ケメ子さんのラブラブな日々は数ヶ月続いたのですが、徐々に表情が暗くなっていったのでした。

「どうしたの、ケメ子さん? 最近浮かない顔してるね?」

「ここのところキムラさんが何となくつれないのよ。私のこと、嫌いになったのかなぁ?」

「そんなことないよ! だってケメ子さん、ステキだもの! これからもますます可愛いファッションをして、頑張ろうよ!」

 ところが数週間後、ケメ子さんはキムラさんと別れたのでした。

「キムラさんね? 別に好きな人が出来たんだって……。やっぱり私みたいな女じゃ、ダメなんだわ……」

「そんなことないよ! ケメ子さんはとっても可愛いよ! もちろん性格もバツグンだよ! 自分に自信を持とうよ! ね? ね?」

「ううん、もう私の前にキムラさんみたいなステキな人は現れないわ……」

「ボクも力を貸すから! ファイト、ケメ子さん!」

 鏡の励ましも虚しく、ケメ子さんは昔の地味子さんに戻って……否、もっと暗くなってしまったかもしれません。鏡は何とかケメ子さんに再びオシャレしてもらおうとしましたが、上手くいきませんでした。

「ゴメンね、ケメ子さん……ボクの力不足だったよ……」

 そして数日後。朝起きたケメ子さんがいつものように鏡を覗くと、そこにはヒビが無数に入ってました。

「鏡クン?……鏡クン!」

 キムラさんと鏡を同時に失ったケメ子さんは、会社も休んで3日3晩泣き続けました。そして泣き疲れて深い眠りに就き目覚めてみると、その日は注文していた大きな丸メガネが出来上がる日でした。

(でも、このメガネを見てくれる人は、もう誰もいないんだもんね……)

 キムラさんと鏡を思い出し、ケメ子さんは少し泣きました。赤い目をこすりつつメガネ屋さんに行ったケメ子さん、早速帰りにそのメガネをかけました。

 と、向こうから爽やかな好青年が歩いてきます。

「あ! ケメ子さん! どうしたんですか? しばらく会社を休んでたから、心配してたんですよ?」

 会社の後輩のフクヤマくんです。

「ちょっとね?……」

「こんなところで立ち話も何ですから、そこのカフェに入りませんか?」

 小さく小綺麗なカフェに入った2人。

「あれ? メガネ、新調したんですか? めちゃくちゃ可愛いですよ! 何でキムラさんはケメ子さんをふったんだろう?」

「えっ? フクヤマくん、そのこと知ってたの?」

「あ、はい。風の噂で……」

「そうなのよ……それでしばらく立ち直れなくて会社を休んじゃったのよ……。いい大人が恥ずかしいでしょ?」

「ははは、純粋なケメ子さんらしいや! ボク、ケメ子さんのそういうところが好きだな!」

「えっ?」

「キムラさんがケメ子さんの彼氏の座から降りたから立候補します! ケメ子さん、ずっと好きでした! 付き合ってください!」

(えーっ! ウソーっ?)

「ありがとう、フクヤマくん。こちらこそよろしくね?」

「ヤッターッ!」

 ケメ子さんは次の休日、ブティックで緑の水玉模様のロングスカートを買いました。

(フクヤマくん、褒めてくれるかな?)

 どこからともなく『素直な鏡』の声が聞こえてきました。

「ケメ子さん、とっても可愛いーっ!」
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