離縁前提の結婚ですが、冷徹上司に甘く不埒に愛でられています

みなつき菫

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【R18】afterStory happy honeymoon〜

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 そのとき、ミアの語尾に被せるようにして、クリスの陽気な声が割って入ってきた。
 
「おまたせ~!」
 
 私とミアが、びっくん! っと肩を弾ませる。すると、クリスは千秋さんに絡みつきながら首を傾げる。

「? どうしたの? もうすぐポイントに到着するからね、レインコート持ってきたよ~」
 
 水しぶきがすごいからね~と言うクリスの手には、個包装されたレインコートがあった。
 千秋さんは自分の分をもぎ取ると、ベリっとクリスを自分から引き剥がす。

「ミアとサクラも友達になれたようで、よかったよ」
「クリスのおかげだよ」

 お礼を言って、渡されたレインコートを包装を解いて身に着ける。
 だけど、ポンチョから顔を出したときには、すでにクリスの姿はそこにはなかった。
 
 ――はやっ……

 船内の他の乗船客は、おじさんの招待客だろう。その人たちにもレインコートを着るよう促すクリスは、本社にいたときよりも、ずいぶんと逞しくなったように思えた。

「今日はホストなので、忙しそうですね」

 私の心のうちを代弁する千秋さんに、こっくり頷く。
 
 ミアは残念そうにクリスを視線で追っている。
 今日のために、おじさんもクリスも、前々から準備をして楽しみにしてくれているようだった。

 でもきっと、彼女は、ここで一緒に観光できると思っていただろう。それを思うと、少しだけ切なくなる。
  
「――私……なにか手伝うことはないか、聞いてきます」
 
 だけど、聞こえてきたのは、決意するような声だった。

「ミア」
「サクラの言うように、せっかく来たからには友達になりたい――……連絡先とか交換できたら、また……会えるかもしれないし」

 恋する女の子は強かった。
 ミアはそう決意すると、パタパタとポンチョをなびかせ、クリスの後を追っていった。

「うまくいくと、いいですね」
 
 小さく同意を求めると、腰に触れた手にひらに力が加わり、千秋さんが顔を寄せてくる。
 
「……クリスは桜さんのように自分の気持ちに敏感なくせに、他から向けられる気持ちには疎そうなので、あのくらい意気込みがなければ届かないでしょうね」

「……わ、私ですか……?」
 
 さり気なくからかわれている気がするが、確かに彼の言葉の節々には思い当たることがある。
 千秋さんに恋に落ちた瞬間は敏感に感じだったものの、クリスの気持ちにはホームステイの間ずっと同じ家で過ごしていたにもかかわらず、気づかなかった。
 そんな鈍感な自分を気恥ずかしく思っていた、そのときだった。
 
「わあ~」っと甲高い子供の声が近づいてきて、ドン! と足元で鈍い音がした。

 なんだ? と思って視線を落とせば、子供が千秋さんの足にぶつかって尻もちをつくところだった。
 四歳くらいの男の子だろうか。クルクルした巻き毛と青い瞳がとても可愛い。

「だいじょうぶ――」

 千秋さんが子供と触れ合う場面は見たことがなかった。咄嗟に自分が声をかけたほうがいいかと思って膝を折るが、
 だけど私が声をかけるよりも早く千秋さんがしゃがみこんで、今にも泣きそうな男の子をそっと抱き起した。
 
「大丈夫ですか? 痛いところは?」
 
 目線を合わせ、英語で優しく尋ねる。
 すると、男の子は申し訳なさそうに目をうるうるさせたあと「ないよ、ごめんね、ぶつかって」と消えそうな声で謝った。
 
「船上は危ないので、しっかり手を繋いでいてください」
 
 千秋さんが優しく注意すると、すぐに了承し、迎えに来たお父さんに手を繋がれ戻っていった。
 そのやり取りを見つめていた私は、心の奥が温かくときめいた。

「どうしました?」

 私の視線に気づいた千秋さんが首を傾げる。

「……怪我がなくて、よかったですね」

 柔らかく笑ってみせると、千秋さんは「ですね」と親子の姿を見て頷く。

 咄嗟に体が動いてしまったが、千秋さんは感情をあまり顔に出さないけれど、とても優しい人だ。普段子供との関わりがないとはいえ、そんな心配いらなかったようだ。
 むしろ、目線を合わせ優しい声色で心配する彼は、私の想像以上で、胸がきゅんとして痛かった。
 
 ――子供が生まれたら、あんな感じになるのかな……? とても優しくていいお父さんになりそうだと思った。
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