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【R18】afterStory happy honeymoon〜
その後のふたり3 ①
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◇
――それから数年後。
桜の季節が過ぎ初夏が舞い降りた頃……
「パパ、芽依、とーまんちお泊まりいく」
「…………だめです」
あぁ、またやっている。
今日も今日とて、変わらない親子の姿。
私は見慣れたふたりのやりとりをキッチンから眺めながら、思わず笑みをこぼした。
「来美ちゃんも永斗くんも、おいでって言ってくれた! ダメっていうのパパだけだもん」
「…………それでもダメです」
「いーやーだ――!」
駄々こねながら地団駄を踏まれて、千秋さんの表情が目に見えて困っている。
――最近千秋さんが、ちょっと押され気味になってきている。
「芽依、そろそろお出かけの準備しよっか~」
見兼ねた私がすかさず話題を逸らすと、ころりとそれにつられた無邪気な天使が顔を上げる。
「あ、うん! するー!」
千秋さんがふぅ……と肩の力を抜いて、芽依はバタバタと子供部屋へと駆け込んでいく。
ハネムーンの翌年の三月に生まれた私たち娘――芽依は、今年で四歳になった。
千秋さんの過保護っぷりはお腹の大きさと共に増していったけれども、その甲斐あって順調な妊娠期を送った。
出産は私の小柄な体格の兼ね合いで予定日の少し前に帝王切開だったけれど、無事にこの腕に抱くことができた。
『小さくて、壊れてしまわないか心配です……』
産まれたばかりの芽依を抱いた千秋さんは、目を潤ませながらそう呟いて、我が娘を静かに見つめていた。
その後ふらりと去って再び病室に戻った彼の目はどことなく赤かったけれど、私も胸がいっぱいで、今にも泣いちゃいそうだった。
ちなみに、『芽依』という名前は千秋さんの提案からもらった。
芽の出始めのような、無限大の可能性のある人生になって欲しいと、願って提案したのだそうだ。
「とても素敵な名前ですね」、と伝えたら、嬉しそうに目を細めていた。
産後もこれと言った大きな問題もなく、順調だった。
育児に関しては初めてで、さすがの千秋さんもあたふたすることはあった。だが、二人ともそれ以上に楽しんでいたと思う。
『千秋さん、千秋さん! 今日、芽依が初めて寝返りを成功して――』
『動画は? 撮影してる?』
芽依がひとつできることに声を上げて喜びあって。
『芽依はあなたに似て、よく笑いますね。ころころ表情が変わって……将来が心配だ』
『それはつまり、〝可愛い〟……ってことですか?』
『ふふっ……秘密です』
無邪気な笑顔を見ては心が癒されて。
『……最近、朝見送りができなくて、すみません』
『何でそんな泣きそうな顔しているの――おいで』
心が不安定で苦しくなったときには、千秋さんにひたすら抱きしめもらった。
『おい國井、復帰はいいが、くれぐれも無理すんなよ?』
二歳になる頃に、職場に復帰して。
『芽依の誕生月には、家族で旅行をしませんか?』
『行きたいです!』
休みの日には、三人でいろんなところへ出かけて。
『最近、あなたが不足して、そろそろ限界なんですが――』
たまにお互いの実家に手を借りて息抜きしたり。
成長を喜んで。悩んで。笑って……
――あっという間の四年間だった。
――それから数年後。
桜の季節が過ぎ初夏が舞い降りた頃……
「パパ、芽依、とーまんちお泊まりいく」
「…………だめです」
あぁ、またやっている。
今日も今日とて、変わらない親子の姿。
私は見慣れたふたりのやりとりをキッチンから眺めながら、思わず笑みをこぼした。
「来美ちゃんも永斗くんも、おいでって言ってくれた! ダメっていうのパパだけだもん」
「…………それでもダメです」
「いーやーだ――!」
駄々こねながら地団駄を踏まれて、千秋さんの表情が目に見えて困っている。
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見兼ねた私がすかさず話題を逸らすと、ころりとそれにつられた無邪気な天使が顔を上げる。
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千秋さんがふぅ……と肩の力を抜いて、芽依はバタバタと子供部屋へと駆け込んでいく。
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千秋さんの過保護っぷりはお腹の大きさと共に増していったけれども、その甲斐あって順調な妊娠期を送った。
出産は私の小柄な体格の兼ね合いで予定日の少し前に帝王切開だったけれど、無事にこの腕に抱くことができた。
『小さくて、壊れてしまわないか心配です……』
産まれたばかりの芽依を抱いた千秋さんは、目を潤ませながらそう呟いて、我が娘を静かに見つめていた。
その後ふらりと去って再び病室に戻った彼の目はどことなく赤かったけれど、私も胸がいっぱいで、今にも泣いちゃいそうだった。
ちなみに、『芽依』という名前は千秋さんの提案からもらった。
芽の出始めのような、無限大の可能性のある人生になって欲しいと、願って提案したのだそうだ。
「とても素敵な名前ですね」、と伝えたら、嬉しそうに目を細めていた。
産後もこれと言った大きな問題もなく、順調だった。
育児に関しては初めてで、さすがの千秋さんもあたふたすることはあった。だが、二人ともそれ以上に楽しんでいたと思う。
『千秋さん、千秋さん! 今日、芽依が初めて寝返りを成功して――』
『動画は? 撮影してる?』
芽依がひとつできることに声を上げて喜びあって。
『芽依はあなたに似て、よく笑いますね。ころころ表情が変わって……将来が心配だ』
『それはつまり、〝可愛い〟……ってことですか?』
『ふふっ……秘密です』
無邪気な笑顔を見ては心が癒されて。
『……最近、朝見送りができなくて、すみません』
『何でそんな泣きそうな顔しているの――おいで』
心が不安定で苦しくなったときには、千秋さんにひたすら抱きしめもらった。
『おい國井、復帰はいいが、くれぐれも無理すんなよ?』
二歳になる頃に、職場に復帰して。
『芽依の誕生月には、家族で旅行をしませんか?』
『行きたいです!』
休みの日には、三人でいろんなところへ出かけて。
『最近、あなたが不足して、そろそろ限界なんですが――』
たまにお互いの実家に手を借りて息抜きしたり。
成長を喜んで。悩んで。笑って……
――あっという間の四年間だった。
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