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第二章 ゲームの世界へ

第13話 作られた夏の日

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 海で体を冷やした後、俺達は砂浜に座って『何か』を待った。
この世界に迷い込んだ理由に繋がる『何か』。この世界から脱出する方法に繋がる『何か』。そして、この事態のあらましを俺達に説明してくれる『何か』。

 そういったものを探してあらゆるところに目をやった。
しかし、いくら待ってみても俺達の求める『何か』が起こる気配はなかった。

――俺達を最後に、この世界は変化を止めてしまったようだった。


「なにも起きないねー」

トトは待つことに飽きたのか、夏空を見上げながら鼻歌を歌っている。

「そうだなぁ、ウンともスンとも言わない」

 俺も後ろに手をつき、呆れる程に夏らしい空を見上げた。
本当に、笑ってしまう程に夏らしい夏の空だった。

「なぁトト、俺達現実の世界に帰れるよな」

「うーん、……きっと大丈夫だよ。レジェンドクエストは終わったんだしさ、この世界もすぐに終わるよ。そしたら――」

 トトはそこまで言って口を閉じた。
きっと『そしたら』に繋がる言葉――つまり、この世界が再び終わってしまった後の事を思い浮かべたのだろう。俺もその事を何度か想像はしていた。

この世界が終わってしまった時、俺達はどうなるのだろう?
この世界と共に消え去ってしまうのだろうか、それとも案外あっさり現実の世界にログアウト出来てしまうのだろうか。

「訳がわからないよな、ほんとうに」



「ねぇ、イヨ君。おなかすいちゃったよ。何か食べ物探しに行こうよ」

 それから少しして、トトが勢いよく立ち上がって言った。
その顔に不安の色はこれっぽっちも見えなかった。いつも通りのトトだ。

「……そうだな」

 俺もゆっくりと立ち上がり、服についた砂を手で払った。
そして、ゆらゆらと踊るように歩き始めたトトの後を追った。

「この世界の食べ物、食べれたらいいねー」

「食べられなかったら本格的に詰むよな……」

「海の水はちゃんとしょっぱかったよ! 砂もジャリっとしてた!」

「おお、そりゃよかった。さすがトト。その勢いでこれからも毒見を頼むぞ」

「毒見ってひどいなー、ご飯を食べる時は一緒に食べようよー」

トトがしかめっ面で振り返る。
俺はその顔を見て笑い、最後にもう一度だけ辺りをゆっくりと見回した。

「何も起きてないよな……」

そこでは全てが規則通りに動いてるだけだった。何も変化はない。
その事を改めて確認し、トトの横に並んで歩き出した。

砂浜には俺達の足跡が残っている。その近くにもいくつかの足跡。
その足跡が自分達のモノなのか誰かが残していったモノなのかはもう分からない。時折吹く風が、それらの形跡をぼんやりと隠してしまっていたのだ。


 俺達は一先ずルトの村を目指す事にした。
ルトの村は俺達が目を覚ました白い砂浜から最も近い村であり、大きな山をひとつ超えた所にあった。道中は険しい山道が続くが、冒険者を襲うようなモンスターに遭遇する事はほとんど無かった記憶がある。それに、ルトの村にはちゃんとした寝床も食料もあったはずだ。

「それにしても暑いなー」

「暑いねー。私、喉がカラッカラだよ」

 俺達は雑木林を抜けてルトの村へ続く山道を歩き始めた。
山道は冒険者の為にいくらか整えられているようだった。しかし、体力も魔力も無い、引きこもり男子高校生と女子中学生には幾分堪える道のりとなりそうな予感があった。
だが、あの砂浜にいつまでもじっとしておく訳にもいかなかった。腹は減るし、野宿ができるほどに呑気な世界でもない訳で。

「魔法の一つでも使えたらなー、そしたらルトの村までひとっ飛びなのに」

「あはは、私はなんだかこれが懐かしいなー。このゲームを始めた時もこんな感じでずっとあてもなく歩いてたから」

「俺もだよ。魔法を覚えるまではしんどいよな。無駄にフィールドが広いし」

「だよね。強いモンスターが出てくるフィールドに迷い込んで怖い目にあった事もあったなぁ」

「あったあった。もう少し親切に設計して欲しいもんだ」

 終わりの見えない山道をひた歩く。
俺達の口数は次第に減っていき、愚痴さえも零れ落ちなくなっていった。
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