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第三章 出口を探して

第32話 男湯

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 ブルーフエトへ向かうと決めてから三日が経過していた。
この三日間、俺達は毎日『ライラー水路跡』へ足を運んでスライムを倒していた。その中で一つ気が付いた事ある。メニュー画面を開く事ができないので確かな事は分からないのだが、恐らく俺達はゲームの中と同じように自身のレベルを上げていく事が出来るようだった。というのも、当初は個体によっては一撃で倒せないスライムがいたのだが、ここ数回の戦闘では全てのスライムを一撃で倒せるようになっていた。

 レベルを上げる事で多少でも強くなれるのなら、ゴールドを稼ぐ為にしても身を守る為にしても、今後はレベル上げも必要になってくるのかもしれない。

「あれ、今日って何日だっけ」

「えーっと、たしか、9月5日じゃなかったか」

 メニュー画面が開けないので日にちの感覚も乏しくなっていた。
この世界にはカレンダーのような日付を確認するツールがほどんど置かれていない。時計は割とどこにでも置かれているというのに、日付が記されている物は滅多に見なかった。

「この世界で目が覚めて、もう五日も経つんだね。そういえば、八千代さん達なかなか戻って来ないね」

「戻って来ないな。落ち着いたら顔を見せに来るって言ってたのにな」

「まだ忙しいのかなー。聞きたい事いっぱいあるのにー」

 ここ数日を通して驚いた事もある。それは、トトが飽きる事なくスライムを倒し続けているという事だ。ゲーム中とは状況が違うにしろ、以前のトトなら一日も経たない内に「飽きた」と言って手を止めていただろうに、この三日間は少しも手を止める事が無かった。むしろ俺の方が「そろそろ帰ろう」とトトに言い聞かせる位だった。

「用意も整ったし、明日の朝にはブルーフエトに向けて出発するか」

「やったー! そうしよそうしよ! それじゃあ、明日は早起きしないとだね! 楽しみだなぁ!」

 トトがやる気出している理由は、やはり早くブルーフエトに行きたいからだろう。
 ブルーフエトはエルド山脈の西側に位置する港町であり、この辺りでは比較的栄えている港町だ。俺はあまり興味が無いのだが、トト曰く、青と白に統一された美しい町並みと、夜になると町のあちこちで明りを灯す『ミセフの灯り』というランタンが、それはもう、もの凄く綺麗なんだとか。

「それじゃあ、今日は温泉に入ってゆっくり休むか。明日からは風呂に入れない可能性もあるしな」

「賛成ー!」

 『ライラー水路跡』でのスライム狩りを終え、俺達はそんな話をしながら帰路についていた。日はまだ高いとこにあって、俺は帰ってからの温泉と最近ハマりつつあるエルド鳥のチキン南蛮を密かに楽しみにしていた。




 この村での生活、もとい、この世界での生活にもいくらか慣れてきた気がしている。まぁしかし、「現実の世界に帰れるのか心配じゃないのか」と聞かれたら、それはやっぱり凄く心配だし、いつでも帰れるのならば、現実の世界に帰りたいとは思うのだが、ここでの生活にも少しだけ心地良さを感じ始めている気がする。

「いや、今すぐ帰りたいってのは、ちょっと違う気がするな」

 服を脱いでいる最中、つい口から零れ出た。
俺は誰もいない脱衣所の中をいつもの癖できょろきょろと見回してしまう。
――前言撤回だ、俺はまだこの世界の生活にあまり慣れていないのかもしれない。

「誰もいないんだから、何も気にしなくていいのにな」

 俺は手ぬぐいを背に掛け、疲れた体を労わる様に時間をかけてストレッチを行った。それから、冷水器の水を少しばかり口に含んで、いたずらに体重計になんか乗ってみたりした。

「さっきから何してんの! 早くお風呂に入りなよ!」

 浴場の方から少し苛立った声がした。それは、恐らく女性の声だった。
俺は肩に掛けていた手ぬぐいを素早く手に取って下半身前面を隠し、こそこそと脱衣所入り口の暖簾の文字を確認しに行った。

間違いない、ここは男湯だ。


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