文明トカゲ

ペン牛

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三 雷鳴の猫

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 ふと、脳裏に疑問が浮かんだ。
(なぁ、お前は僕達を傷つけないのか?)
 当たり前の疑問だった。僕がこれまで出会ったトカゲは全て人に害を為していた。だが、こいつにはそれらしい素振りがまったく見られない。一体何が目的だというのだろう。
『ん~、余は別に人間を傷つける予定はにゃいにゃあ。だって傷つける理由がにゃいし~』
 ニャン太の言葉に、打ちのめされている自分がいた。
(僕は……感動、してるのか?)
 一体何故、どうしてこんなことで、疑問ばかりが胸の中に浮かぶ。一度心を落ち着けると、自分の感情を整理する。
(……そもそも、僕はトカゲに傷つけられてばかりだった)
 僕に十年以上もつきまとい、僕の中身を散々食い荒らした喪服の女。僕を打ち身でまともに動けなくなるまで痛めつけてくれた顔の動かない女。花屋の青年に憑いていた鎖と腐った男の顔も結果的に助けられたとはいえ、それでも攻撃されかかった。
 そう、僕にとってのトカゲとは、正に災害のようなものだった。今まではなんとか逃れることができたが、これからもそうとは限らない。
 そんな恐ろしいものの一つが、僕に対して人を傷つける理由はない、と宣言した。その事実に、僕は感動したのだ。
 ふと、視線を感じた。視線の主はニャン太だった。ニャン太はこちらに流し目を送りながら、
『――ややこしいことばっかり考えてると、はげるにゃ』
 そんな果てしなく下らないことを言ってきた。とりあえずニャン太の両頬をつねるために椅子から立ち上がると、
「え、なに、あれ……ねぇ、楓、あれ、見える?」
 怯えたような梓の声が耳に届いた。
「どうしたの、梓」
 梓はテラスから見える交差点の中心を指さしていた。楓の美しい手と指が、かすかに震えたのが見えた。
「あれ……何かな? 人、じゃないよね?」
 梓が指さしている対象を見た瞬間、背筋を冷気が一瞬で這い上った。
 それは立ち上がった影、としか言いようのないものだった。輪郭はぼやけているが、全体の形状は明らかに人間のものだ。そして、
 ――それは明らかに、僕達のことを見ていた。
(待て、どういうことだ)
 何故、梓にあれが見えている? あれはトカゲだ。トカゲのはずだ。梓は本来あれを見ることはできないはずなのに、一体何故、そんなことを思っていると、
 それは僕達に向かって、大きく手を振った。
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