49 / 266
四 照魔の鏡
5
しおりを挟む
「その子はすごく頭がいいらしいんだけど、テストでわざと0点を取ったりするみたいなのよ。それで怒られると、今度は九十何点とかすごい点を取っちゃうらしくてね。お客さんも本当にどうしたらいいのかわからないって」
「……その話が本当なら、確かに困るでしょうね」
勉強が嫌いで家庭教師をつけても成績が上がらないから困る、というのであればよくある話なのだろうが、テストの点数を0点から百点近い高得点まで好き勝手に取るというのはあまり聞いたことがない。
「でも、それなら余計に僕にできることなんて何も――」
「いいえ、私は楓ちゃんだからこそ可能性があると思ってるわ」
「可能性、ですか?」
「そう。私、知ってる人の中に若くて、しかも優しくて真面目で穏やかな子はいたかな? って考えたの。そういう子に家庭教師をしてもらえば、お客さんのお嬢さんも心を開いてくれるんじゃないかなって。そうしたらすぐに楓ちゃんのことが思い浮かんだのよ。だから楓ちゃんに家庭教師に興味はない? って聞いたんだけど……どう?」
「――そう、ですね」
日頃からお世話になっている雪子さんにここまで言われてしまっては、断ることは難しかった。不安は大きい、というより、不安しかないのだが、それでも雪子さんのためであれば全力を尽くそう、と思える自分がいる。
「わかりました。上手くいくかはわかりませんが、やってみます」
「――嬉しい! ありがとうね、楓ちゃん。もしも上手くいかなくても、何も気にしなくていいからね。あと家庭教師のお給料もなるべく多くもらえるようにお客さんに相談しておくから安心してね」
(……話を聞く限り、勉強を教えるどころか僕が勉強を教わることになってもおかしくないんだけどな)
とはいえ、ただ勉強を教える、という仕事ではない以上、あるいは僕にもできることがあるはずだ――僕は半ば無理矢理にそう信じ込むことにした。
「……その話が本当なら、確かに困るでしょうね」
勉強が嫌いで家庭教師をつけても成績が上がらないから困る、というのであればよくある話なのだろうが、テストの点数を0点から百点近い高得点まで好き勝手に取るというのはあまり聞いたことがない。
「でも、それなら余計に僕にできることなんて何も――」
「いいえ、私は楓ちゃんだからこそ可能性があると思ってるわ」
「可能性、ですか?」
「そう。私、知ってる人の中に若くて、しかも優しくて真面目で穏やかな子はいたかな? って考えたの。そういう子に家庭教師をしてもらえば、お客さんのお嬢さんも心を開いてくれるんじゃないかなって。そうしたらすぐに楓ちゃんのことが思い浮かんだのよ。だから楓ちゃんに家庭教師に興味はない? って聞いたんだけど……どう?」
「――そう、ですね」
日頃からお世話になっている雪子さんにここまで言われてしまっては、断ることは難しかった。不安は大きい、というより、不安しかないのだが、それでも雪子さんのためであれば全力を尽くそう、と思える自分がいる。
「わかりました。上手くいくかはわかりませんが、やってみます」
「――嬉しい! ありがとうね、楓ちゃん。もしも上手くいかなくても、何も気にしなくていいからね。あと家庭教師のお給料もなるべく多くもらえるようにお客さんに相談しておくから安心してね」
(……話を聞く限り、勉強を教えるどころか僕が勉強を教わることになってもおかしくないんだけどな)
とはいえ、ただ勉強を教える、という仕事ではない以上、あるいは僕にもできることがあるはずだ――僕は半ば無理矢理にそう信じ込むことにした。
0
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
異世界からの召喚者《完結》
アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。
それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。
今回、招かれたのは若い女性だった。
☆他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる