文明トカゲ

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八 懐旧の澱

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「これは、佐治さんがかけてくれたんですよね?」
「……まぁ、その、ね」
 こんな照れ臭そうな佐治さんを見るのは、初めてだった。佐治さんのジャケットを畳んで、手渡す。
「……なんで笑ってるのよ」
「笑って、ましたか?」
「自覚なし? しっかり笑ってたじゃない」
 そう言う佐治さんも、微笑んでいる。
「――思ってたより、悪くないわ」
「え?」
「人の寝顔見ながらぼーっとテレビ見るなんて滅多にできないじゃない? アンタに温泉誘われた時はどうなるかと思ったけど――いい気分転換かも」
 佐治さんの微笑みが消えないうちに僕は、
「それじゃあ、またいつか、一緒に来ませんか」
 と言った。佐治さんは大きく瞬きを二回してから、はっきりと笑って、
「――その時も、アンタの奢りよね? パン子」
 それを聞いて、僕は生きていたい、と思った。佐治さんともう一度温泉に来る時まで。そして、佐治さんの笑顔を見た時に胸に走った、幸福な痛みの意味を知ることができる、その時まで。

八 懐旧の澱 終了
               
※次回の更新は十月を予定しています。
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