文明トカゲ

ペン牛

文字の大きさ
215 / 266
九 望遠の楯

しおりを挟む
 僕は空気を読む、ということが苦手だ。苦手なものは数多くあるけれど、中でも最も不得手と言ってしまっていいだろう。けれど――
「……えっと、その、真奈ちゃんって、呼んでもいい、かな?」
「ご自由に。私も梓さんと呼ばせてもらっていいですか?」
「え、も、もちろん、いいよ」
「ありがとうございます」
 梓と真奈さん――二人の間に横たわる空気が、鋼鉄の塊めいて重々しいことはわかる。一体どうしてこんな状況になってしまったのか。
(……やっぱり、あの時の真奈さんとの会話が原因なんだろうか)
 きっかけは真奈さんの、
『せんせーって友達一人もいなそうだよね』
 という一言だった。流石に失礼だと思った僕は、少し強めに、
『そんなことはないよ。大切な友達が一人いる』
 と反論した。すると真奈さんは、
『じゃあ、その友達ってどんな人? 教えて、せんせー』
 と聞いてきた。僕は真奈さんにまず梓の名前を教えた。そして梓がどれだけ美しく可憐で、また穏やかで優しいかを語彙の限りを尽くして伝えた。梓は僕にとって女性の理想像なのだ――僕は梓の紹介をそのように結んだ。その結果真奈さんがどうなったかというと、
(梓に会わせなかったらホテルに無理矢理連れ込まれたって警察に言う、だもんなぁ。頬を痙攣させながら言ってたし、間違いなく真奈さんは本気だっただろう)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

いつまでもドアマットと思うなよ

あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

異世界からの召喚者《完結》

アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。 それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。 今回、招かれたのは若い女性だった。 ☆他社でも公開

婚約者は自分が裏で皆から馬鹿にされていることに気づいていません。~ただまぁそれでも構わないと思っていたのですが……?~

四季
恋愛
婚約者は自分が裏で皆から馬鹿にされていることに気づいていません。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

処理中です...