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二 縛鎖の男
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二回攻撃された時点で既に走ることができなかった。その上で投げ飛ばされ、地面に落下した。体も、心も、歩くどころか立ち上がることすら拒否している。
花屋は既に視界に入っている。だというのに辿り着けない。這って進むことすら今の僕にはできない――唐突に、佐治さんに言われた言葉が脳裏をよぎる。
(――真剣に生きようとしなさい)
右手の人差し指を曲げる――成功した。中指――成功した。薬指――成功した。小指――成功した。親指――成功した。右手を握ることに成功して、今度はそこに力を込めた。右手に加わった力が、そのまま右腕に伝わるのを感じた。右腕を伸ばし、右手を離れたところに置く。右手をアスファルトに押しつけ、右腕に力を込め、体を引っ張ろうとする。動かない。当然だ。それでも、引っ張ろうとし続ける。
(無駄なのはわかってる――けど、何もしないよりは、こっちの方がきっと真剣だ)
力を込める度に酸欠で目が眩む――それでも。どれだけ力を込めても一ミリも前進した感覚がない――それでも。十秒と経たないうちに顔の動かない女に殺される――それでも!
僕は前に進むために右手を伸ばし――その手が、力強く握りしめられた。
「お客さん、大丈夫ですか!? 一体何があったんですか!?」
僕の右手を握りしめてくれたのは、花屋にいた青年だった。一瞬安堵しかけるが、すぐに顔の動かない女がすぐ側にいることを思い出す。
「……げ……て」
逃げてください、たったそれだけの言葉が言えない。少しでも言葉が届くよう、頭を持ち上げようとした時――青年に絡みついていた鎖の一部が解け、僕の後方へと伸びていった。
(一体、どこへ……)
僕は全身の力を振り絞って寝返りを打ち、頭をわずかに持ち上げた。見えたのは、両手両足に青年から伸びた鎖が絡みついた、顔の動かない女の姿。
「なにいいこおれええ」
鎖は電柱を支点にして顔の動かない女の手足に巻きつき、締め上げていた。だがそれをまるで意に介さず、女は前進してくる。このままでは、僕だけでなく青年も殺されてしまう。今度こそ逃げてくださいと伝えるために、青年の方に顔を向けると、彼に絡みついていた鎖の一本が凄まじい速さで空に向かって伸びていくのが見えた。
(え、なんであんな方向に――)
視線を上空へ向ける。鎖が伸びていった先には、タールのようなどす黒い雲が浮かんでいた。鎖が雲の中に入る。そして、
鎖が引かれ
どす黒い雲の中から
鎖が引かれ
腐乱して蛆の湧いた
鎖が引かれ
左目しかない男の顔が
鎖が引かれ
ずるりずるりと出てきて
鎖が引かれ
中で蛆達の踊る左目で僕を
鎖が引かれ
じいっと見た
花屋は既に視界に入っている。だというのに辿り着けない。這って進むことすら今の僕にはできない――唐突に、佐治さんに言われた言葉が脳裏をよぎる。
(――真剣に生きようとしなさい)
右手の人差し指を曲げる――成功した。中指――成功した。薬指――成功した。小指――成功した。親指――成功した。右手を握ることに成功して、今度はそこに力を込めた。右手に加わった力が、そのまま右腕に伝わるのを感じた。右腕を伸ばし、右手を離れたところに置く。右手をアスファルトに押しつけ、右腕に力を込め、体を引っ張ろうとする。動かない。当然だ。それでも、引っ張ろうとし続ける。
(無駄なのはわかってる――けど、何もしないよりは、こっちの方がきっと真剣だ)
力を込める度に酸欠で目が眩む――それでも。どれだけ力を込めても一ミリも前進した感覚がない――それでも。十秒と経たないうちに顔の動かない女に殺される――それでも!
僕は前に進むために右手を伸ばし――その手が、力強く握りしめられた。
「お客さん、大丈夫ですか!? 一体何があったんですか!?」
僕の右手を握りしめてくれたのは、花屋にいた青年だった。一瞬安堵しかけるが、すぐに顔の動かない女がすぐ側にいることを思い出す。
「……げ……て」
逃げてください、たったそれだけの言葉が言えない。少しでも言葉が届くよう、頭を持ち上げようとした時――青年に絡みついていた鎖の一部が解け、僕の後方へと伸びていった。
(一体、どこへ……)
僕は全身の力を振り絞って寝返りを打ち、頭をわずかに持ち上げた。見えたのは、両手両足に青年から伸びた鎖が絡みついた、顔の動かない女の姿。
「なにいいこおれええ」
鎖は電柱を支点にして顔の動かない女の手足に巻きつき、締め上げていた。だがそれをまるで意に介さず、女は前進してくる。このままでは、僕だけでなく青年も殺されてしまう。今度こそ逃げてくださいと伝えるために、青年の方に顔を向けると、彼に絡みついていた鎖の一本が凄まじい速さで空に向かって伸びていくのが見えた。
(え、なんであんな方向に――)
視線を上空へ向ける。鎖が伸びていった先には、タールのようなどす黒い雲が浮かんでいた。鎖が雲の中に入る。そして、
鎖が引かれ
どす黒い雲の中から
鎖が引かれ
腐乱して蛆の湧いた
鎖が引かれ
左目しかない男の顔が
鎖が引かれ
ずるりずるりと出てきて
鎖が引かれ
中で蛆達の踊る左目で僕を
鎖が引かれ
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